みなさんは「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉を耳にしたことはあるだろうか?この言葉は「どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」を指す。本書は、精神科医で作家の帚木蓬生(はなきぎ ほうせい)氏が、読者に「ネガティブ・ケイパビリティ」を紹介し、人生で苦難に出会った時の生きる力として活用してもらうことを目指した書籍である。
まずに筆者の帚木蓬生氏に触れる。帚木氏は東京大学仏文科卒業後TBSに勤務。2年後に退職し、九州大学医学部を経て精神科医に転身する。開業医として活動しながら、その傍らで執筆活動に励む。1995年 「閉鎖病棟」を出版。精神科病棟で起きた殺人事件を巡って、患者たちそれぞれが描く様々な思いを巡らす姿を描き、第8回山本周五郎賞を受賞。映画化もされ、筆者の代表作となる。その後も、医学に関わる作品を中心に、多くの作品を上梓。多数の文学賞を受賞している。
はじめに、筆者が、ネガティブ・ケイパビリティとの出会いを語る冒頭の文書を紹介する。
ネガティブ・ケイパビリティの概念が生まれたのは、19世紀初頭、ロマン派を代表するイギリスの詩人ジョン・キーツによって提唱された概念である。しかし、この言葉は、弟たちにあてた書簡に記されたもので、公になることはなかった。20世紀に入ってイギリスで著名だった精神分析医のウィルフレッド・R・ビオンに発見され、その書籍「注意と解釈」で紹介される。世の中に出たのはキーツの死後、実に約170年後だった。日本でも、2017年に本書が刊行されるまでは、まったく知られていなかった。しかし、不確実性の高い現代で、この考え方の有用性に注目があつまり、多数の新聞、雑誌に取り上げられ、現代を生き抜く上での大切な考え方として、その認知が広まり始めている。
本書は、
はじめに ネガティブ・ケイパビリティとの出会い
第一章 キーツの「ネガティブ・ケイパビリティ」への旅
第二章 精神科医ビオンの再発見
第三章 分かりたがる脳
第四章 ネガティブ・ケイパビリティと医療
第五章 身の上相談とネガティブ・ケイパビリティ
第六章 希望する脳と伝統治療
第七章 創造行為とネガティブ・ケイパビリティ
第八章 シェイクスピアと紫式部
第九章 教育とネガティブ・ケイパビリティ
第十章 寛容とネガティブ・ケイパビリティ
おわりに 再び共感について
の構成で、
・著者とネガティブ・ケイパビリティの出会い
・ネガティブ・ケイパビリティの歴史
・人間の本質であるポディティブ・ケイパビリティ
・ネガティブ・ケイパビリティが、医療、芸術、教育に与える影響
・ネガティブ・ケイパビリティの視点から見た史実、人物
・ネガティブ・ケイパビリティと共感力
を述べている。
本書籍レビューでは、我々が教育により刷り込まれてきたポジティブ・ケイパビリティの限界と、生きる上で、ネガティブ・ケイパビリティを持つことが重要であることを述べた、第九章 教育とネガティブ・ケイパビリティにフォーカスを当てて紹介する。
以上が、本書の概要である。本書を通じた私の学びは、
これまで、生きてきた中で、なかなか答えが出ず“自分には無理“と早急に判断して、諦めた出来事がいくつもあった。その理由の一つに、私にも、教育を通じたポジティブ・ケイパビリティの刷り込みがあったかもしれないと感じた。そんな中で、「ネガティブ・ケイパビリティ」(解決しなくても、訳が分からなくても、持ちこたえていく。どうにもならないように見える問題も、持ちこたえていくうちに、落ち着くところに落ち着き、解決していく。)という”答えが出ない問い”に対する姿勢の一つを学ぶことが出来た。
である。
本書には、著者が読み解いた「ネガティブ・ケイパビリティ」を使って、課題解決を図った医療、芸術、教育、史実、人物の実例が、多数収められている。本書籍レビューを読み、「ネガティブ・ケイパビリティ」に興味を持ち、この考えのさらなる肚落ち、そして自分の身に着けたいと思った方には、一読をお勧めする。