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映画に観る整理収納Vol.13         「バグダッド・カフェ」編


先日久しぶりに「バグダッド・カフェ」を観た。
あの印象的な音楽をどこかで聞いてから無性に見たくなってしまったのだ。
そんなことありませんか?


負の連鎖ってこんな感じ?

砂漠の中を古い車が走っている場面から物語は始まります。
とても暑そうなのにきっちりボタンを留めて、はちきれそうに見えるブラウスにスーツ姿のドイツ人女性(ジャスミン)を乗せています。運転するのは彼女の夫のようで二人はケンカをしています。
そのうち女性は車を降りて、一人大きなトランクを引きずって歩き出し、どこかに向かっていきます。
行きつく先がモーテル「バグダッド・カフェ」なのです。

「こんな砂漠の真ん中に?」と思いますが、そこは気にせず。
バグダッド・カフェにはブレンダという黒人の女主人とその夫と息子、従業員がいます。
ブレンダもまた仕事をしない夫とケンカをして家からたたき出したところですこぶる機嫌が悪く、ピアノばかり弾いている息子を怒鳴り散らし、時々しか返ってこない娘にも手を焼いています。そこへジャスミンがやってきて、モーテルに宿泊することになるのです。
荒れ果てたそのモーテルの受付は砂だか埃だかわからないものが積っています。
お客のジャスミンンに対しても愛想のひとつもなくとても感じが悪いブレンダ。ジャスミンは重いスーツケースをやっとの思いで引きずって来たのに中身は夫の持ち物が入っていて、そのせいでブレンダからは不審者と思われ警察を呼ばれたりします。
物語の冒頭の二人は「負」のオーラを放ちまくっています。

ジャスミンもブレンダも同じようにこれ以上ないほどイライラの募る状況であるけれど、ブレンダはずっと周りに当たり散らしてすべてを周りの人たちのせいにすることでやっと自分を保っているようです。
一方ジャスミンは気分を切り替え、自室を掃除したり、頼まれてもいないのに梯子に乗ってモーテルの看板を拭いたり、荒れ果てたカフェの掃除まで始めてしまいます。

始めはうっとうしそうに怒鳴っていたブレンダもジャスミンのユーモア、無邪気さ、人間的なあたたかさが伝染して次第に心を通わせて行きます。
この展開がこの映画の見どころです。


状況を変える片付け

さて、ここで「負」が「正」に反転していったきっかけをもう一度考えてみたいと思います。
にっちもさっちもいかないほど心もカフェも荒れ果てていたところにジャスミンがまず事務所の片付けを始めました。
淡々と、明らかにごみであろうもの(壊れて汚れているモノ)を表に出し、
埃を払い、拭き上げて、まっすぐにモノを置く。
それだけで見違えるようにいつもの場所がスッキリした空間に生まれ変わっっていきます。
気持ちよくないはずがないのです。
ブレンダは何年かぶりに清々した気持ちになったのではないでしょうか?

そのうちに手品を習得したジャスミンと歌が上手なブレンダがカフェでショーをするにようなります。
評判になってカフェを利用する人は増え、あのカフェが嘘のように活気のある店に様変わりしてゆきます。
当然あのいつも怒鳴り散らしていたブレンダも笑顔を取り戻し、本来のやさしい女性に戻っていきます。

きっかけはほんの些細な事「片付け」だったかもしれません。
でもきっとジャスミンは知っていたのではないでしょうか。
整った空間が人に与える影響がどんなに大切かということを。

やがて、赤の他人だったカフェに集う人々は新たな絆を作ってゆきます。
歳も性別も国籍さえも超えて、人と人が思いやり、分かり合う姿は
尊く、幸せな気持ちにさせてくれます。

終始砂漠で夢を見ているような映画です。
そしてあの「calling you」がその雰囲気を増幅して大人のファンタジーの世界へ連れて行ってくれます。


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