「ロートレック展 時をつかむ線」と津原やすみ《あたしのエイリアン》。
ロートレックとユトリロ
ロートレックの展示が6月にあると知ったとき、「絶対行こう」と即座に決めた。ロートレックの絵がどんな絵かもよく知らないままで。
行くと決めた理由は、小・中学生の頃熱烈に愛読していた少女小説、津原やすみ《あたしのエイリアン》シリーズ。
このシリーズの16冊目『恋愛国の恋愛姫』で、主人公である浪人生・百武千晶が大好きな画家として挙げていたのがロートレックとユトリロだった。
以下抜粋。
作品後半で、なぜこのふたりを好きなのかについて、千晶が新しく気づいたことをボーイフレンド(という言葉に時代を感じる)の星男に語る。
この本が出たのが1993年の6月5日。
31年前にこの本で知って、それ以来ずっと名前だけで知っていたロートレックに、やっと会いに行ける。
土砂降りの雨の中、日時予約をして(そのほうが200円安い)出かけた。
会場であるSOMPO美術館は私は今回が初めての訪問。
新宿駅から近いらしいけど…と、Googleマップを見ながら歩いていったら、
驚いた。
ベルボトムのビル
以下、今度は「あたしのエイリアン」シリーズの8冊目、『初恋のリフレイン』から抜粋。
「ベルボトムのビル」だ…!
遠くからはよく見かけてたけど、「ベルボトムのビル」って、損保ジャパンのビルだったんだ。
そしてここが、ロートレック展の会場。
『恋愛国の恋愛姫』がきっかけで知った画家を見に来たら、『初恋のエイリアン』の舞台に辿り着くなんて。
びっくりした。
素描
展覧会は、素描が多かったのが印象的だった。
立派で気迫満々で絵の具コテコテの大作よりも、ちまちまちょこちょこした下絵やちょこんとした小品、さらさらっと描いたスケッチのほうが好きな私にはすごく「当たり」の展示。
天野喜孝ふうの女の人とか、レッドブルのCMみたいな画風の自画像とか、漫画と親和性が高い絵が多くて、お高くとまってなくてとっつきやすい。
(ロートレックの自画像になぜか全裸なのが複数あったのは、普段彼が裸族として暮らしてたということなんだろうか? それとも単なるギャグ?)
ポスター
撮影不可だった作品で、残念ながらショップに絵はがきも無かったのだけれど、ポスター作品で一番好きだなと思ったのは《メイ・ベルフォール》。
黒猫を抱いて自己紹介することをトレードマークにしていた女優のポスターなのだけれど、2種類あるポスターの絵の2種類とも、抱かれている黒猫の耳が思い切り後ろを向いていた。いわゆる「イカ耳」状態。
これは猫のことを愛情を持ってよく見てる人じゃないと描けない絵。
この絵でようやく、ロートレックという人の人柄が見えた気がした。
5階の展示室から、4階、3階、と下っていって、最後に展示されていたのは別の画家の絵だった。
《ひまわり》
ゴッホの《ひまわり》。
雨のおかげで館内はかなり空いていて、この絵を数分間、独り占めで鑑賞できた。
静かな空間で、ゴッホの《ひまわり》と一対一。
30年以上も前に書かれた少女小説、その主人公である百武千晶さんが、私に今日のこの贅沢な時間をくれたんだ。
人生って不思議だ。
そしてそれと同じくらい、書物の持つ力は不思議だ。何がどう生き残って、誰にどう影響するか、誰にも読めない。
おみやげ
公式アカウントのインスタで見て一目惚れした、総柄の素描マグカップ。
2200円。
やっぱり値段を見ると怯む。
でも、どうしても欲しかった。
三十数年前に「あたしのエイリアン」シリーズを熟読していた、あの頃の私へのプレゼントとして。
そして現在の私への、百武千晶さんからのプレゼントでもある、と思い込むことにする。
ケロトッツォ
せっかく新宿に行くんだったら、と、もうひとつ済ませたい用事があった。
傘が意味を成さない豪雨の中、おみやげをかばいながらびしょ濡れになって新宿高島屋へ。
6/26から7/2までの期間限定で「青柳総本家」のポップアップストアが地下1階に来ているということを、そしてそこではカエルの顔をしたマリトッツオである「ケロトッツォ」が販売されているということを、カエル好きの情報網で知っていたから。
私はレモン&クリームチーズ、夫はラムレーズン&くるみ。美味しかった。