LGBTのTと避難生活の困難

 大きな地震がありました。今後も地震が続くことが予想されています。避難される方もいらっしゃると思います。そんな時だからこそ、性的マイノリティ、特にトランスと呼ばれる人たちの避難生活の困難さについて書こうと思います。

 まず、トランスという言葉から説明いたします。
 トランスという言葉で一番想像しやすいのは性同一障害者のことでしょうか。広義でいえばトランスは、身体の性と社会的な性が異なる人のことです。一般にイメージされる体と心の性が異なっている性同一性障害者だけではなく、例えば異性装をする人、ずっとではなくある時間だけ異性のように振る舞う人もトランスには含まれます。トランスはLGBよりも広義な言葉と言えるでしょう。
 しかし、ここで問題にしたいのは性同一性障害者と避難生活についてです。今後、GIDという省略形を使いますが、それは性同一性障害者を指すと読んでください。
 日本の避難生活は基本的に集団生活を行うことを前提としています。つまり、常に人の目がある生活であります。また、物流が止まれば物資にも困ることになります。そんな中でGIDが困ることは以下のことが挙げられます。

・必要な性ホルモンが手に入らない。
・トイレ、風呂の利用に支障が出る。
・生理用品を手に入れるハードルが高い。
etc

 一つずつ説明していきましょう。まずは、必要な性ホルモンが手に入らない、についてです。
 GIDの治療の一つにホルモン療法があります。これは望む性のホルモン、例えば体が男性で心が女性なら女性ホルモンを摂取するものです。これにより、身体が望む性に近づいていきます。もちろん、完全ではありません。ひげなど体毛は薄くなる程度ですし、乳房も小さくはなりません。ですが、嬉しい変化は多いです。
 一方で問題もあります。まず、ホルモン療法は始めるとなかなか中断することはできません。一つは、性腺が持っている場合、やめた時に身体の性ホルモンが優位になり、また身体の性的特徴が戻ってしまうことです。一説には、ホルモン療法をやめると、一時的にですが、通常よりも身体の性ホルモンが多く分泌され、より性的特徴が強くなると言われています。もう一つ、性腺を持たない場合、ホルモンを突然中断することで更年期障害と似た症状が出ることです。更年期障害は性ホルモンの量が少なくなることで起きるためです。これは大きな問題で、例えば不安感など精神的な不調はただでさえストレスが多い避難生活では致命的です。これは誇張ではなく、自殺につながるためです。
 物流が絞られる避難生活では、薬もなかなか手にはいりません。ホルモン注射をおこなう医療関係者も忙しくなかなか手が回りません。そのため、ホルモン治療が続けられない状態に陥ります。自分で服薬できる錠剤や塗布薬もありますが、それも現在は海外からの輸入によって入手することが多く、また、錠剤は肝臓への負担が大きく、塗布薬は高価です。

 トイレ・風呂の問題は言わずもがなでしょう。GIDには普段の生活でもこれらの問題はつきまとってきます。避難生活の舞台は小学校などの公共施設が多いです。ユニバーサルトイレが設置してあるところは少なく、共用の男女で分かれたトイレを使用しなければなりません。たとえ心の性が女性であっても身体の性が男性である以上、女性トイレを使用するのは誤解にあったら恐ろしい、下手すれば警察沙汰になるかもしれない、かと言って男性トイレを使用するのは精神的に苦しい。これは心の性が男性であっても同様です。これが風呂にまで及ぶとどうにもなりません。
 多くのGIDは避難所での生活ではなく、破損した自宅での生活を選びます。そのために、二次被害に合う確率もまた高くなります。そもそも、避難所のシステムがGIDを考慮していないためです。

 生理用品の入手は、身体が女性で心が男性の方にとて重大な問題です。
 一般に身体的には男性から女性への移行より、女性から男性への移行のほうがよりスムーズに行われます。例えば、声やひげなどは男性ホルモンによって変化していきます。しかし、女性ホルモンを摂取しても声やひげは変わりません。できたものをなくすのは難しいが、ないものを作るのは簡単であるためです。そのため、見た目は完全に男性で社会生活も男性で行っているGIDは多いです。しかし、生理は起きてしまう。避難生活でも当然生理用品は配られます。が、社会的に男性なGIDが生理用品が必要でもなかなか貰いに行くことができません。特に人の目がある場合は、これからの生活に影響してしまうのでは、と考えると欲しいとも言えない。貰いに行くことは身体的性が女性だと公表するようなものだからです。

 以上を読んでいただければ、GIDが避難生活で多くの困難を抱えていることをわかっていただけるかと思います。これらは理解だけではどうしようもない問題です。日本は災害が多い癖に、避難生活をサポートする仕組みは世界基準より遅れています。集団生活であっても、人の目を避けるシステムや配給方法を変える、緊急のユニバーサルトイレを設置(よく工事現場にあるやつです。)するなど、システムを変えることでこの問題は軽減できます。防災だけではなく、避難生活システムについて考えていただけたら幸いです。

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