見出し画像

農業分野J-クレジットの問題点について

はじめに

こんにちは。
一般社団法人Coの片岡です。
農業分野を中心とした一次産業のカーボンクレジットの創出支援をしております。

ここでは、農業分野J-クレジットの問題点について述べていきます。
ひとえに問題といってもJ-クレジットそのものの問題点と、その中でも農業分野の問題点がありますが、まとめて議論できればと思います。

問題点

問題点は以下のようになります。

  • 使い道が少ない

  • ニーズが少ない

  • 信頼性が低い

  • 透明性が低い

使い道が少ない

「クレジットはオフセットに使うもの」というイメージがあると思いますが、全てのクレジットが全ての制度で使えるわけではなく、クレジットの種類や報告の制度(枠組み)により制限があります。
J-クレジット自体、使い道は少ないのですが農業分野となるとさらに狭くなってしまいます。
例えば、再エネのJ-クレジットはCDP、SBT、RE100での報告で利用することができますが(※一部制限あり)、農業分野のクレジットは使うことができません。
現状、現実的な使い道としては、「農業の活性化へ貢献したことのアピール」として使うか、「イベントやプロダクトのオフセット」になります。

そもそも中干しに代表される自然系の排出回避・削減のクレジットはカーボンニュートラル達成の貢献度が低いということで、オフセット用途に使うことが難しいことに留意する必要があります。

ニーズが少ない

現状、日本においては炭素税や排出量取引制度の本格的な整備はこれからであり、業界別で違いはあるものの、総じて民間企業のクレジットの購入ニーズはまだまだ少ないです。

排出量取引制度については、2023年度からGXリーグ事務局のもとでGX-ETSが開始されており、そこではJ-クレジットは活用可能ですが、現状は課題が山積み&本格稼働は2026年度以降であることを踏まえると、現段階では多くのニーズがあるとは言えません。

信頼性が低い

J-クレジットの方法論は信頼性が低い状況となっています。その例として、既存の創出事例があるバイオ炭の方法論についてとりあげます。

バイオ炭とは、竹や木、もみがらなどのバイオマス資源を炭化させたものです。長期間分解されないため、農地に散布することで、炭素貯留効果を得ることができます。
※以下の話は方法論についての話であり、個別のプロジェクトに対する話ではないことに注意してください。

問題点は以下の2つです。
・炭の品質管理が甘い
J-クレジット方法論では、製造した炭について、一定の品質以上であるかの確認が求められています。この確認方法として、研究機関での分析(信頼性高)も対象ですが、精錬計での計測による品質確認も認められています。
この精錬計がなかなかのくせ者で、炭に精錬計をあてる場所によって数値が異なるのです。
つまり、信頼性の高いデータを得ることが難しい方法も認められている現状があります。

・炭の施用確認が甘い
炭を農地にきちんと施用したのかということの確認について、もちろん現地確認もできますが、生産管理記録による確認も認められています。
この場合、書類上の確認のみで問題ないということになります。

他にも追加性がないといった問題などもありますが、それはまた別の機会に。

透明性が低い

上記の内容を含めたモニタリングデータなどが外部に公開されておらず、透明性が低いという問題があります。

今後の展望

使い道・ニーズについて

  • 政策周りですとGXリーグの稼働、炭素税の導入が進んでおり、クレジット周りですとCORSIAへの再申請や、ISSBによるIFRSの発表にみられるように、今後、使い道やニーズは増加していくことが予想されます。

  • その際、クレジット制度における信頼性・透明性の向上施策だけでなく、カーボンプライシングなどGX政策の強化とセットで取り組むことが必要です。

信頼性・透明性について

  • 環境意識の高まりにより、クレジットの信頼性・透明性に関する議論が巻き起こる可能性があります。

  • 既に民間で行われている、信頼性の高いモニタリングの実施や格付けの実施などの取り組みが普及することで、業界のスタンダードの構築につながります。

一般社団法人Coのこれからの対応

  • 信頼性を向上します。

    • 信頼性の高いモニタリング方法を採用します。

  • 透明性を向上します。

    • 弊団体の取り組みについて、モニタリングデータを含めた情報開示を実施します。

    • クレジットの収益の使途についての公開を実施します。

  • よりよいクレジットの創出のため大学や研究機関と連携し、研究を実施します。

    • 例:温室効果ガス削減の取り組みに対する新たな面からの評価に関する研究

  • 上記以外にも今後はコアカーボン原則(CCPs)や、格付け機関の基準等を参考に社内で改訂を継続します。

詳細については後日改めて発表いたします。今しばらくお待ちください。

あとがき

我々はクレジットを、農業だけでなく脱炭素に関わるあらゆる産業を活性化し、イノベーション創出を促進するツールであると捉えています。
クレジット制度と炭素税、排出量取引制度等をうまく活用することで、たとえば現在話題になっている水素やアンモニア、洋上風力などの新エネルギー産業への投資を促進し、夢の国産化も達成できるかもしれません。また世界に通用するクライメートテックが生まれるかもしれません。
これらは妄想の話ですが、一橋大学発の社団法人として、これらの実現のため、広い範囲では健全な産業の成長を可能にする制度設計、狭い範囲では信頼性の高いクレジット創出に向けて日々研究を続けてまいります。

正直、このようなnoteを出すべきか1ヶ月程度悩んでおりました。
その中で、お世話になっている農家さんや教授に背中を押していただき、公開に踏み切りました。
反響がありましたら、より詳細な内容を書いていければと思うので、是非ともスキしていただけると幸いです。

一般社団法人Co代表理事 片岡慶一郎


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?