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小説「歌麿、雪月花に誓う」余話⑤

  「雪」「月「花」に描いた家紋

 歌麿の大作「深川の雪」「品川の月」「吉原の花」には、歌麿と関係が深い栃木市の善野家の家紋「九枚笹」がさりげなく描き込まれています。
 同市の善野3家、屋号で本家の釜喜、釜佐、釜伊はいずれも、九枚笹を家紋に使用しています。
 制作順に見ると、「品川の月」では最前列右から2番目、立ち姿の女性が着る着物の左肩、「吉原の花」では引手茶屋の1階中央、子供を抱いた女性の着物、「深川の雪」では最前列左から3人目、足元の子供と猫に視線を落とす女性の着物に、それぞれ九枚笹が描かれています。
 作風の違いなどから、3作の制作時期は「品川の月」が天明8(1788)年頃、「吉原の月」が寛政3~4(1791~92)年頃、「深川の雪」が享和2~文化3(1802~06)年頃とされ、歌麿は3度、善野家を訪れ、それぞれの作品を描いたとも言われています。
 3作とも歌麿は落款を入れず、家紋を忍ばせたことになります。意図は不明ですが、善野家との深い関りを示すことは間違いないようです。

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