「さよなら」にさよならして欲しいってお願いしたら、もう一回恋人になってくれる?  #テレ東ドラマシナリオ



■ 主な登場人物は

ユウマ (20代)さよならメッセンジャー
ヒナ    (20代)ユウマの彼女
ミナミ(20代)ユウマの彼女になりたい女

■ ざっくり言うと

凄腕のさよならメッセンジャー、ユウマ。
彼の手にかかると、どんな依頼もすんなりと終焉へとむかう。

そんな彼には破局寸前の彼女がいた。
「別れよう、さよなら」ユウマが言った瞬間、彼女が反撃してきた。
「あなたにお仕事の依頼がしたいの。あなたが言ったさよならに、さよならして」
「そして、もう一回恋人同士に戻りたい」

ユウマは、凄腕の「さよならメッセンジャー」として、
「さよならにさよなら」を遂行し、恋人に戻ることを選ぶのか、
それとも自分の気持ちを優先してヒナと別れてしまうのか。

その時ユウマが取った行動は……。

■ くわしく


「ありがとうございました! 本当にありがとうございました!!」

ユウマの手を固く握って、何度も何度もお礼を言っているおっさん。

「いえ、お礼されるほどのことは何も……」

「そんなことはありません! これであの真っ黒けっけのブラック企業とも、クソみたいなパワハラ上司とも、晴れておさらばできます!」
泣きそうな勢いのおっさん。

「お力になれたのならよかったです」
あくまで冷静なユウマ。

「ありがとうございました! 本当にありがとうございました!!」
何度もお礼を言って去ってゆくおっさん。

ここは「さよなら代行業」のオフィス


……といってもユウマの自宅だが。


おっさんが帰っていったのを見計らって出てくるヒナ。

ヒナ、実はユウマの彼女である。
ユウマの腕に自分の腕を絡めるヒナ。

でも、ユウマに腕を振りほどかれてしまう。
それにもめげず、ユウマの腕に自分の腕を絡めるヒナ。

「ユウマ、すごいよね」
「そう? 余裕だったけど」

「だって、退職代行の専門業者が、手も足も出なかったっていう案件だったでしょ」
「俺の手にかかれば、なんてことはない」

「どんな案件も?」
「そう、どんな案件も」

「そっか……すごいね」
「なにか俺に仕事の依頼したいの?」

「ううん……今は、まだ……」
曖昧に濁すヒナ。

……と、
「ちょっと! ユウマから離れなさいよ!」

ババーン!
玄関から勢いよく現れる女、ミナミ。


慌てて、絡まった腕を振りほどくユウマ。


「ユウマもユウマでしょ。そんな女に好き勝手させといて」
挑発的なミナミ。


「はぁっ? 私の彼氏なんですけど」
明らかに敵対心むき出しのヒナ。

「分かってないようだから言ってあげる。あなたは終わった女なの」
人差し指でヒナをこづくミナミ。


「ねえ、ユウマ。この生意気な女になんか言ってやって」
ヒナのお願いに……、

「……」
黙り込んでしまうユウマ。


「……ねえ、ユウマってば!」
「……」
懇願の眼差しを向けるヒナ。
気まずそうに目を背けるユウマ。


「これで分かったでしょ。あなたは終わった女だって」
なおも挑発的なミナミ。


ミナミ、これみよがしにヒナを押しのけて、
ユウマの首に抱きついてみたり。


「ちょっとやめてよ! やめてってば!!」
半泣きで、ミナミの腕をユウマから引っ剥がすヒナ。

「……うそでしょ、うそって言ってよ。ねぇ、ユウマってば!」
「……ごめん」


「……ごめんってなに? ねぇ、なんでそんなこというの?」
「……ごめん」
 

「だから、ごめんってなによ」
ヒナ、かろうじて正気を保っているだけの状態。


「ユウマ、もうまどろっこしいからはっきり言ってやったら?」
ミナミ、すごーく悪そうな顔である。


うん……、静かにうなずいて、覚悟を決めたようにヒナに向き合うユウマ。


「ヒナ……」
「……いや、……そんなのいやっ!」
ユウマの気配を感じとったのか、ユウマの胸に掴みかかるヒナ。


「もうムリだよ俺たち。別れよう」



「……」
すでにヒナ、泣くのを抑えることだけに必死の状態。
にやり、勝ち誇った笑みをヒナに投げかけるミナミ。



「あんたでしょっ?  あんたが、そそのかしたんでしょ?」
ミナミをにらみつけるヒナ。


「だとしたら?」
勝ち誇った笑みのまま答えるミナミ。



「どう? さよならメッセンジャーを本職にしてるユウマからのさよならは?」
冷静に追い討ちをかけてくるミナミ。



「別れるなんて……、そんな……、私……、まだユウマのこと……」


「……ごめんな、ヒナ」


「……」
うちひしがれているヒナ。



「はいはい、お客様のお帰りよぉ~」

ヒナを追い出しにかかるミナミ。



「さよなら……」
寂しげにつぶやくヒナ。


「……うん、さよなら」
申し訳なさそうに返すユウマ。


試合終了!……と思われた瞬間、ヒナが振り向く。



「じゃあ私、お客様としてユウマにお仕事を頼みたいの」


「……?」
予想外の言葉に、戸惑っているユウマとミナミ。

「……どんな?」
かろうじて言葉を絞り出すユウマ。


「あのねユウマ、私達のさよならにさよならしてほしいの。もちろんお金は払うから」


「それは、俺が振ったことを取り消せと?」
「違うのユウマ。さよならにさよならして欲しいだけ。さよならメッセンジャーとして」


「……」
考え込んでいるユウマ。

「ユウマは、優秀なさよならメッセンジャーなんでしょ」
「できない依頼なんて、ないんでしょ」


「だって……私、ユウマとずっと恋人同士でいたいから……」


「……」
考え込んでいるユウマ。


ヒナ、懇願するようにユウマの瞳をみつめている。


「……それはできない」
ユウマがミナミの顔色を伺いながら答える。


「……俺が終わらせたいんだ、ヒナとの関係を」


気まずい雰囲気に包まれているオフィス兼ユウマの自宅。
ビミョーな視線をユウマに投げかけているミナミ。


「……そっか」
諦めたようにつぶやくヒナ。


「……ごめんね。無茶なこと言って」


「今までありがとう……」
今にも溢れでそううな涙をこらえ、玄関を出てゆくヒナ……。


玄関のドアを出た途端……、


「ふぐっ、ふぐっ……うわぁぁぁん!」


がまんできず号泣してしまうヒナ。



***
そして一方、ユウマの自宅室内。
残されたユウマとミナミ。


何も言えず向き合っている2人。


「……なんか、変な女だったよね、あいつ」


ミナミの肩に手をかけるユウマ。
その手を振り払うミナミ。


「断ったんだ? お仕事の依頼だったのに」
「……他に方法がなかっただろ」


「よかっただろ。これで2人、正式に付き合えるんだから」


ユウマ、ミナミを抱き寄せる。
ミナミ、冷めた表情でユウマを見ている。


「……なんか、冷めた」
ユウマを押し返すミナミ。


「えっ?!」
「私さ、仕事できるユウマに惹かれてたんだよね」
窓の外を眺めながら、寂しそうな表情でミナミが言う。

「ユウマって、自分の都合で断っちゃう人だったんだって、なんかショックだった」
「でも、今回は……」


「たとえそれが、誰からのどんな依頼だったとしても」
「俺はミナミのために…………」

「そんなの関係ないと思うんだ」
「だから。なかったことにして、私がコクったの」
何も言い返せないユウマ。


「そういうことだから」
帰り支度を始めるミナミ。

「待てよ!」
呼び止めるユウマ、聞き流すミナミ。


「さよなら、ユウマ。さよなら、さよならメッセンジャー」
バイバイ、と手を振りながら出ていってしまうミナミ。


「……」
一人取り残されたユウマ、


「くたばれ、さよならメッセンジャー」
弱々しくつぶやく。

窓からは弱々しく西陽がさしこんでいる。
                   (おわり)


■ 今回使用したテーマは

みねたろうさん作の
【#100文字ドラマ】そのさよなら、代行します



■ 最後に

こんにちは、ひとつもです。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。

あと1本くらい投稿するつもりでいますが、どうなることやら。
引き続きお付き合いいただけたらうれしいです。

そして、
ひとつでも、これ好き、って思ってもらえるストーリーがあったらいいなって思います。

台本の本文は書けたら書きます。



それはもう、とてもとても大切に使わせていただきます。