<ひととてまnaヒト vol.05>空飛ぶクラゲのように、自由な発想で自分らしく。カフェの可能性を探るふたりの挑戦(喫茶ソラクラゲ/鈴木弘樹さん&稲垣菫さん)
こんにちは!
【ひととてまnaヒト】担当のマイコです。
みなさんにとって居心地のいい場所はどんな場所ですか?
国分寺駅から歩いて7分ほどの場所に、11月3日の「世界クラゲデー」にオープンしたばかりの『喫茶ソラクラゲ』はあります。訪れたのは、鈴木弘樹さんと稲垣菫さんがDIYで店づくりを進めていた10月頭ごろ。改修作業真っ只中の二人に、店づくりをサポートする「ひととてま」代表の平野智子さんとお話を伺いました。
それぞれユニークな経験を経て、”一人ひとりが自由に、創造的に生きる後押しとなる場”づくりを目指す二人。そのチャレンジに迫ります。
それではどうぞ!
空飛ぶクラゲのように、自由な発想で自分らしく。カフェの可能性を探るふたりの挑戦(喫茶ソラクラゲ/鈴木弘樹さん&稲垣菫さん)
自分たちでゼロから店づくり。背中を押してもらって
マイコ(以下、M):
今日はよろしくお願いします! お店づくりの真っ最中ということで、自分たちでリノベーションをしているんですね?
鈴木弘樹さん(以下、弘樹):
ガス・電気・水道など以外は、基本自分たちでやっていて、11月3日のオープンに向けて、2か月くらい作業しています。
ここは、元は大好きで通っていた芋けんぴ屋さんで、お店を閉めると聞き、思い切って借りることにしました。1か月後に(稲垣)菫ちゃんが加わり、あともう1人の3人を中心に、広報やデザインまわりなど、主に6人のメンバーでカフェづくりの準備を進めています。
稲垣菫さん(以下、菫):
平野さんには、まだ構想がぼやけていた段階から相談させてもらっていました。現実にぶつかって何回も心が折れそうになりましたけど、「できる」と言い続けてくれる人がいるのは大きかったです。
平野智子さん(以下、平野)
事業計画やDIYのアドバイスをさせてもらっているけど、実際にお店の設計もデザインも二人でやっていて、すごく頑張っているよね!
自分たちだけだと見失ってしまうようなことを手伝いたい、という想いがあるので、わたしは空間をつくる専門家ではあるけれど、床・壁・天井をつくる以外にも、いろんな相談に乗るようにしています。
弘樹:
お店を借りたとき、最低限のイメージはあったんですが、始めてみると全然甘かったし、自分の想像だけでやるよりずっと良くなっている実感があります。
初めに相談したとき「いいじゃん」と言ってくれましたけど、率直にどうでした? 無茶だなと思いました?
平野:
本当に「いいじゃん」って思ったよ(笑)。知っている場所だったし、ひろっきー(弘樹さん)のことも5年前くらいから知っているので。「どうやってやるのかな」というのはあったけどね。
小学生のときから、コーヒー一直線でやってきた(弘樹さん)
M:
弘樹さんは、カフェをやろうと思ったきっかけは何だったんですか?
弘樹:
小学校の卒業文集ですでに「コーヒー屋さんになりたい」と書いていました。苦いものが好きで、好きな野菜はピーマン、最初につくった料理はピーマンの塩コショウ炒め。(一同:えー!)
そういうちょっと変な……ある意味コーヒー屋の才能があったんだと思います(笑)。 あとは、親と一緒にコーヒー豆を買いに行って、焙煎する間に、親はコーヒーを飲んで、僕がオレンジジュースを飲ませてもらう時間がすごく好きでした。気がついたら「コーヒー飲みたい!」となっていて、思うともう一直線なんです。
中学2年のときに、職場体験で、国分寺の『クルミドコーヒー』で働かせてもらって、店主の影山知明さんともお話させてもらいました。そのあと、大学1年でまたアルバイトとして戻ったので、当時は「あの中学生が帰ってきた!」とちょっと話題になったみたいです(笑)。
大学に入ってからは、2つやっていたことがあります。1つはコーヒーの生産地を知りたかったので、休みはラオスのコーヒー農家さんのところに通って、フェアトレードの実情を学び、日本でラオスのコーヒーを販売する活動をしていました。
もう1つは、アルバイトをしていたクルミドコーヒーで、直談判して、影山さんのカバン持ちのインターンをやらせてもらいました。影山さんの出張や講演、打ち合わせなどに同席しながら、できることをお手伝いするのが仕事でした。それから2年ぐらいで事業を共につくらせてもらうようになり、社員にもなりました。そうして働くうちに、自然と、カフェやまちでの活動にも関わっていくようになりました。
札幌で“くらげっきー”誕生(菫さん)
M:
菫さんはもともと札幌で「ソラクラゲ」という屋号でカフェをやっていたと伺いました。
菫:
大学3年のころ、札幌でカフェを始めました。大学で栄養学を専攻していて、北海道の生産者さんをまわったり、ビーガンのレストランで働いたりする中で、自分でも何か表現したいと思うようになって。友人から80人分のお菓子のケータリングを頼まれて、その時にたまたま生まれたのがクラゲのクッキー”くらげっきー”。そこから、ケータリングやイベント限定で出店するようになり、「お試しでお店をやってみない?」と声をかけてもらって、“くらげっきー”をキャラクターにしてカフェをやることに。“くらげっきー”のLINEスタンプやグッズもつくりました。
M:
なんですかこのかわいいキャラクターは……! “くらげっきー”のデザインは自分で?
菫:
はい。当時はお金もないし技術もないので、グッズなどは、デザインやロゴを鉛筆で書いてスキャンしてつくっていました。
菫:
当時、カフェの営業はうまくいっていたんですが、自分の中で葛藤があり、「このまま続けるのは何か違うな」と思っていたところに、『カフェから時代は創られる』(飯田美樹著/クルミド出版)という本を読んでとても共感したんです。カフェが世の中にどう影響を与えているか、カフェがあることで、人の暮らしがどう変わっていくかが書いてある本で、まさに私がやっていきたい内容だった。
クルミドコーヒーが運営する『クルミド大学』でその内容の講座を見つけて受けてみることにしました。当時は札幌でお店をやりながら、週末は仲間に営業を任せて、月1回東京に通って。そこで、その講座の主催者側だったひろっきーと出会いました。
国分寺に行くときは『ぶんじ寮』というシェアハウスに泊まっていたんですが、街に触れていく中で、すごくいい街だなと。自分の学びたいことが学べそうだし、何かおもしろいことが起こるかもという直感があって、お店を閉じて、上京を決意しました。
「カフェ」という場の力を信じる二人が出会って
M:
二人はカフェに対する想いで意気投合したんですか?
菫:
話せば話すほど、カフェという場やコーヒー一杯に対しての価値の捉え方が近いと思いました。今までに会ってきたカフェの経営者は、おいしさや内装、スイーツといった一つのポイントにこだわる人が多かったんです。「カフェが持つ場の力」にフォーカスしている人にあまり会うことがなくて、その部分でとても共感して、講座の初日から、朝まで飲みながら語り明かしました(笑)。
弘樹:
菫ちゃんは、北海道から来る度に、「おつかれ~」ってワイン一瓶もってきて、受講生で毎回飲んでいたよね。
他のことだと喧嘩になったり揉めたりするんですけど、カフェの価値観については一度も揉めたことがありませんでした。同世代で、ここまでカフェに対する考え方が共通する人には出会ったことがありません。
菫:
札幌で起業して、いろんな若手起業家に会う機会がありましたが、ひろっきーは自分で何かやっている人の中でも、地に足がついていて、自分の考えや価値観で国分寺を選んで、国分寺で根ざしてやり続けているところがいいな、と。自分もそうしたいけど、今の自分では、札幌ではこれ以上切り開いていけない感覚があって、外の世界も見てみたかったので、国分寺に住んでみようと思いました。
いろいろな経験を経て、腹をくくれた(弘樹さん)
M:
弘樹さんは出身は立川ですよね。
弘樹:
はい、立川なのでこの辺りです。でも以前は地元愛はなくて、いかに地元から逃走するかを考えていました。中学時代に3週間カナダに行かせてもらったり、高校2年のときには1年間オーストラリアに留学したり。
大学時代も休みの間はほぼ東南アジアで過ごしていて、その中で感じたのが、どんな海外の場所でも、そこには地域があって、その人たちの暮らしがあること。外の人間がその地域のためにできることは、何か専門性がないと微々たるものだと痛感しました。それなら自分に何ができるだろうと考えたときに、コーヒー屋がやりたいなら、自分のいる場所で、コーヒーを通じてできることをやろうと思いました。
菫ちゃんと出会ったころは、カフェやまちに関わる中で、コーヒーの価値は、それを飲む時間や、カフェに関わる人の暮らしが豊かであることだと考えるようになっていました。広い意味で「場」づくり、「豊かな場をつくりたい」という点で意気投合した部分もあります。
M:
弘樹さんは、小学生のころから変わらずに、活動の軸にずっとコーヒーがあるんですね。
弘樹:
コーヒー好きっていうのはぶれないですけど、他は少し外れることもあります(笑)。サードウェーブの浅煎りのコーヒーが流行り始めたころ、僕は飲んでも飲んでも、どうしても得意じゃなかったんです。コーヒーがある場所は好きだったので、意識がカフェに移っていったことは、僕の中では逃げではないかと悩んだこともあります。
あとは、タイミングもあり、昨年クルミドコーヒーから転職して、現在はIT企業で働いています。ちなみにこの縁もクルミドコーヒーがきっかけでした。もう1つ、国分寺の投票率を1位にプロジェクトという政治の活動もしていて、「選挙はお祭り、楽しもう!」を合言葉に、国分寺で投票率を上げるための取り組みをしています。
そうして時を重ねていくなかで、改めて自分がやりたいことは、一杯のコーヒーの価値を信じて、そこから生まれる場や人とまちとの重なりをつくることだと強く感じるようになりました。
辛い時期に出会った、不思議な喫茶店に救われて(菫さん)
M:
菫さんが「カフェ」という場所に惹かれるきっかけは何だったんですか?
菫:
わたしは20歳くらいのころは、結構遊び人で(笑)、毎晩飲み歩くような生活をしていました。楽しいけど、心の底から楽しめてはいないことはなんとなく気付いていて。このままでいいんだろうかと思っていたころ、精神的に辛いことが重なって、自分の感情が崩れてしまう時期がありました。
近所の知り合いが心配して、「おいしいものでも食べよう」と喫茶店に連れて行ってくれたんです。『ジミーブラウン』という喫茶店だったんですけど、そこに行ったときに「なんかいいな」と思って、それから週に何回も通うようになりました。当時、家でも大学でも居場所を感じられず、喫茶店が生活の中で救いになって。店長さんが変わっているけどいい人で、受け入れて話を聞いてくれて、安心感がありました。
閉店した22時半くらいから常連さんが集まって、いろんな大人が夜な夜な楽器を演奏したり、歌ったり、カオスな時間帯があるんです。そこに行くと、自分も何かやろうという気持ちになりました。”コーヒー一杯”でそこに居ることを許容してもらえた体験が自分の人生のきっかけをくれたので、自分もそういう“場”を通じて、誰かに人生のきっかけを与えられる人になりたい、と思いました。
M:
どんな喫茶店なのかとても気になります……。
菫:
すごく何かが特別というわけでもないんです。DIYで古民家を改装している自由な空間で、テラス席でバーベキューができたり、動物も何でもOKで、犬や猫やフクロウを連れてくる人もいたり、焚き火ができるところもあったり。店長は、どんな考えも受け止める包容力のある人。席数が多いんですけど、お客さんを良く見ていて、たくさん話しかけるわけではないんですが、誰かの小さなきっかけに気付くように意識していて、ただ話を聞いてくれるんです。
可能性を信じて、ユーモラスに楽しく生きていけたら
M:
菫さんにとってカフェがもう一つの居場所だったというお話もありましたが、『喫茶ソラクラゲ』はどんな場所にしていきたいですか?
菫:
居場所になることを目指すというよりは、おいしい時間を過ごせたり、ゆっくり一杯飲んだりできて、結果そういう場所になっている、というのが理想です。
世の中の空気感として、自分の主張や考えを言いづらい感覚があると思うんです。でも、いろんな価値観があってよくて、あくまでわたし達はこう思っているというのを先に提示して、みんなも提示しやすくなって、共存できる場所にしたいですね。
弘樹:
どんな人でも、ふらっと来たいと思ってもらえる場所にしたいですね。この店があることで、結果的に自分らしくいられたり、自分らしく働けたり、まちがちょっと豊かに、コーヒーがより楽しめるまちになると嬉しいです。
あとは、僕のスタンスとしては、基本実験だと思っています。やってみて、どう育っていくかはまだわかりません。
二人のタイプが違って、菫ちゃんは安心できる場づくりが上手で、僕は冒険心が強くて、とにかく何でもやりたいタイプ。菫ちゃんがいうような安心できる空間でありながら、いろいろなチャレンジを出来る場にもしたいです。政治でも環境でも、経済のことでも、チャレンジをお互いにたたえ合って、その中から自分自身の得意なことを見つけて、羽ばたいていく。そういうことが生まれるのに興味がありますし、自分もチャレンジしていきたいです。
M:
「安心」と「冒険」が両方あるのはいいバランスですね。
菫:
あくまで選べるのが大事だと思っていて。やらなくてもいいし、やってもいい。どちらの過ごし方も提供できたらと思います。
弘樹:
それが二人でやる意味なのかなと。僕は「安心」に目が配れない部分があるけど、そこは菫ちゃんがやってくれて。菫ちゃんは大胆に見えて意外と慎重なので、そこは役割分担していけたらと思います。
M:もう一人のメンバーの方はどんな立ち位置でいるんですか?
弘樹:
実は、としちゃんこと、田口敏広くんが加わったのがターニングポイントでした。二人だけで話し合っているころは、お互い我が強くて、店の名前も方向性も2か月くらい何も決まらなかったんです。そんなときに、もともと僕らが住んでいた『ぶんじ寮』で相談に乗ってもらったのが、としちゃん 。彼がいると、いろいろなことがスムーズに決まって「なんだこの人!?」と。三人目として加わってもらって、全幅の信頼を寄せています。
菫:
としくんは、普段は人事コンサルの仕事をしていて、話していて人を不快にさせない人。この二人だと、お互いの主張を言ったら大体けんかになるんですが、としくんがいると、「そうなんだね」とそれぞれの意見を受け止めてくれて、「二人とも最高じゃん! 」「握手!」となるんです。
弘樹:
僕が突破して、菫ちゃんが彩って、としちゃんが整える、という役割分担です。
M:
いい関係性ですね! オープン後のイメージもわいてきていますか?
菫:
お店のハード面が完成したら、次はチャレンジするための窓口の仕組みもつくっていく予定です。掲示板があったり、ワークショップを実施したり、何か表現してみたい人が形にできるような仕組みもぜひつくりたい。
弘樹:
インキュベーションスペースのような、チャレンジを支援する場所は結構あるんですけど、僕らはカフェなので、まずはカフェとしての軸を大切にしながら、実験やチャレンジの部分も加えていきたいと思います。
菫:
一番の願いは、1人1人が納得してのびのびと生きられる人生になってほしい、ということ。
“ソラクラゲ”という店名には「できないことやありえないことを決めつけず、可能性を信じて、ユーモラスに楽しく生きていけたら」という想いを込めています。“生きること=カフェをすること”というくらい、このカフェが、みんなの生活の一部になれたらいいなと思います。
<お店情報>
『喫茶ソラクラゲ』
⚪︎営業時間 13:00〜22:00
⚪︎定休日 月火(祝日の場合は営業)
⚪︎所在地 東京都国分寺市東元町2丁目18−16
異なる場所で経験を積んできた二人が、カフェの可能性を信じてつながり、新しく生み出す『喫茶ソラクラゲ』。
スタートを切ったばかりですが、「場」は集う人たちによってつくられ、育っていくもの。オープン前のお店の空間に居させてもらい、二人の想いや場の包容力に触れ、この場所で小さな化学反応がたくさんうまれていく気配を感じました。
毎日進化していきそうな『喫茶ソラクラゲ』。ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
次回のインタビューもお楽しみに!
【企画・写真:平野智子】
【聞き手・文:片岡麻衣子】
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