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『ウエストワールド』に見るSFの”スピード感”の雑感

どうも。海外テレビシリーズと洋画ばかり観てるキャサリンです。定期的に作品のレビューを更新しておりまして、今回は人気海外ドラマ『ウエストワールド』です。2016年にアメリカで放送開始され、今年シーズン3が放送され日本ではAmazonプライムビデオでシーズン2まで、スターチャンネルEXでシーズン3まで観れるHBOの人気ドラマです。

このnoteに関してはトピック上、どうしてもシーズン3までの大きな世界観については語らないといけないので、極力ネタバレ嫌な方はこの後の内容は読まないことをおすすめします。ということで、2013年から製作が始まり現在7年経過した『ウエストワールド』の物語。放送開始当時の反響とシーズン3の雑感を交えながら作品の”スピード感”について考えていきたいと思います。

1.作品概要

まずご存じない方は予告を観て頂いて…。デロス社が運営する西部劇を模した『ウエストワールド』と呼ばれるテーマパークを舞台にしたSF。ホストと呼ばれるアンドロイドと人間の攻防だった物語は、物語を重ねるごとに『ウエストワールド』だけには留まらないフェーズへと発展していきます。錚々たるキャストと、高度なVFX、洗練された舞台設定、重厚なサウンドトラックと、2016年放送当時すでに『ゲーム・オブ・スローンズ』が築いていた「映画のようなドラマ」をSFで実現した作品です。性的なシーンや暴力的なシーンもあり、かつ予想外のクリフハンガーも炸裂したシーズン1は視聴者に大きな衝撃を与えました。もともとはマイケル・クラントン監督の映画を題材にした本作は、ドラマという長尺を活かして、新たなフェーズへと進んでいます。

ちなみにですが、この映画の前に藤子・F・不二雄先生が『休日のガンマン』というSF短編を発表しています。こちらもぜひ読んでおくと良いかと。サラリーマンが西部劇を舞台にしたテーマパークで休日を過ごす話はまさに『ウエストワールド』とリンクします。

2.現実がフィクションに追いつき視聴者のリテラシーが変わった

クリエイターのジョナサン・ノーラン(クリストファー・ノーラン監督の弟さん)とリサ・ジョイは2016年のアメリカ大統領選挙の事件に対しても触れています。作品製作を開始した2013年には想像しなかったスピードでAIやビッグデータの影響が大きくなっていると。それは便利な一方で、私たちの生活に大きな影響を与えていると。

2016年のケンブリッジ・アナリティカの事件とSNSの弊害についてははこちらの2つのNetflixドキュメンタリーを観て頂ければ。日々触れるSNSを始めとするインターネットの情報は、アルゴリズム化され自分の手元に届く時それは「自分が選択してみているのか」それとも「そのように自分の思考は誘導されているのか」というトピック。『ウエストワールド』が登場した2016年の段階で、まだケンブリッジ・アナリティカの問題は露呈していなかったのですが、そののちの様相を見ると、あまりにも早く『ウエストワールド』の世界がすぐそこに来てしまったという感じは否めません。ただ、そういう意味では視聴者のリテラシーは上がったのかもと思ったりします。『ウエストワールド』発表当時、いい意味でこんなに「視聴者に優しくない」ドラマはなかなかないなという印象で。正直、ストーリーは難解です。『ゲーム・オブ・スローンズ』は登場人物の多さで難解さがありましたが、『ウエストワールド』は世界設定そのものもより難解でした。テレビドラマで徹底的に人間の自我とAIの自我を考えさせられるというか。人間もAIもそれぞれが行う選択は果たして何に由来しているのか、哲学的な問いを遠慮なく突きつけられる、それが『ウエストワールド』でもあります。その難解なストーリーが、皮肉ともいえますが視聴者が「実感を持ててしまう」そういう時代になってしまったんだなと思います。ケンブリッジ・アナリティカの件も受けて発表されたシーズン3はこの後お話しますが、より視聴者に向けたお話になっていました。

3.『ウエストワールド』が担うSFのスピード感とは

『ゲーム・オブ・スローンズ』が終了し、その後継としてHBOドラマで人気を博しているのは『ウエストワールド』ではなく『サクセッション』(こちらも非常にオススメ)とも言われている今。時代があまりにも早いスピードで変わり、これまで描いてきたことに対して作品としての”目新しさ”を失ってしまった『ウエストワールド』は、今後どうなるのかなと思ったり。シーズン3でやや評価を落とした本作ですが、それは未来からを描く作品から今をあえて描いた橋渡しのシーズンだったからなのかもしれません。

シーズン4は明らかにシーズン3の「自由意志」から「選択」のお話になることは自明で。インタビューでリサ・ジョイとジョナサン・ノーランも語るようにSFの一つの形として「今の問題を語ること」にもあるのかなと思ったりします。SFは決して新しいものを追求するということは絶対ではなく、今人々の心の中に内在する課題を再認識させてくれるものなのかもしれません。シーズン3で登場したアーロン・ポール演じるケイレブはまさに、視聴者に身の丈を併せてくれたキャラクターでした。気候変動に加え、コロナ禍もあり「混沌(カオス)」とか「終末」とかそういう単語がもはやフィクションではないように思える今、クリエイティブの最前線で語る人達は、今を語るスピード感が重要になって来てるのかもしれません。クリエイター自身も含め、あまりにも時代が早く移り変わる今、時代にあらがうわけでもなく、時代の足元を真にとらえる作品と言うのがSFのある種の立ち位置かもしれません。シーズン3のポスターにもある「自由意志は自由ではない」と言う点が2020年なら、次は2022年のコロナ禍が過ぎたと思われる(いや、過ぎていてくれ…)時の「選択」とはどういうものなのか。「選択」と言うことは、「選択肢」があるということ。その選択の自由、それは自由と呼んでいいのかそれとも…。人は「選択肢」が多すぎると選べなくなってしまうもの。そういう性質もありながら、人はどうなっていくのかな。コロナ禍でより露呈した分断などについても触れるのかもしれませんね。スピード感をもって時代の先を描いた本作は、ある種減速し、そういう意味でSFでありながら「今」を描く『ウエストワールド』になりつつあるのかも。楽しみです。

最後に余談ですが、『ウエストワールド』を観てる方にはNetflixでぜひエミー賞ノミネート作品『グッド・プレイス』を観てくださいね。『ウエストワールド』シーズン3のケイレブのパートをポジティブに深堀してるような作品でもあります。オススメ。

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