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占うことは、困った人に寄り添うこと。

「ひとすじ」は、”50年以上ひとつの仕事を続けている”方々を、フィルムカメラを用いて写真におさめるプロジェクト。
個人が自由に仕事を選べるようになり、転職や職種転換も当たり前になった現代だからこそ、その人々の生きざまはよりシンプルに、そしてクリエイティブにうつります。
このnoteでは、撮影とともに行ったインタビューを記事にしてお届けします。
2024年10月11日よりクラウドファンディング実施。
2024年11月22日-24日の3日間、東京原宿のSPACE&CAFE BANKSIAにて写真展開催。記事だけでなく、支援と来訪心よりお待ちしております。

多くの占い店がひしめく、横浜・中華街。メインストリートに面した、「華陽園」で働くのは、この道50年の葵和歌先生。
タロット、手相、占星術…様々な方法で占いをすることができるという葵先生ですが、特にタロットをメインに多くのお客様を占っているのだそう。

初めて葵先生のところに伺う際、私は、占いをしていただくこと、お話を聞かせていただくこと、その両方に緊張していました。しかし、占いをしてもらううちにその緊張はほぐれ、柔らかな葵先生の物腰に身を委ねながら、心地よい時間を過ごしたのでした。


中華街大通りに立つ華陽園

寝る間もなかった、占い最盛期の日々

ー 葵先生が占い師になったきっかけは何だったんですか?
葵先生:もともと身内で6人占い師がいたんですね。で、同じく占い師だった従姉妹がなれば?というふうに言ってくれて。

ー なるほど!占い一家だったんですね...!
葵先生:あとは、今はあんまり見えないんですけど、若い頃は霊とかオーラみたいなものが見えるなあ、とは思っていました。何だかざわざわすると近くでよくないことが起きたり。そういったことはありましたね。

ー 素質があられたんですね!高校を出てすぐのタイミングで占い師になられたんですか?
葵先生:そうですね。占いは母と一緒に習い始めました。母は専業主婦だったんですけど、父が亡くなってしまったので。
従姉妹の相手の方が先生だったので、その方に学びました。教科書のようなものがありまして、学校みたいに机に向かって学んでから、徐々に実践をしていく形です。

今も、占い時手元には読み込まれた参考書を置かれている

ー 最初は占う時に不安もありましたか?
葵先生:最初は先生と一緒に出ていたんですけど、「やだな〜」と思ってましたよね(笑)。
でもそのうち慣れてきました。

ー 若い時と、継続し続けた今とで違うことはありますか?
葵先生:やっぱりお客様の反応も違いますよね。若い時は、自分自身も「どうなんだろう、合ってるのかな」みたいな不安も少しはありましたけど。今は経験もあるので落ち着いてできているところはあるかもしれません。

ー 他に占いを始めた当初の大変さはありましたか?
葵先生:50何年前って占いの「はしり」なんで、本当に忙しかったんですね。先生について行って、午前は横浜、夜は新宿といった形で。

ー 占いのはしり...!お客さんが殺到してたんでしょうか?
葵先生:そうですね。20代の頃は、ある化粧品会社さんのイベントでの占いのお仕事で、北海道から沖縄までずっと出張してたんです。2年先までスケジュールが決まっていて。
その仕事がお休みの日も、別の仕事で他の県に飛んだりとかして、あまりお友達とかと会う時間もなかったですね。若いからできたんだと思いますけどね、寝る間もなかったんです。

困っているお客様に寄り添いたい

ー 日々占いされてる中で楽しいこと、やりがいはありますか?
葵先生:一回、「自分の会社を閉めなきゃいけないかもしれない」っていうような相談で地方からいらした方がいて、占いをさせていただいて、その後お店のメールに、「元気もらったので、もうちょっと頑張ってみます」というメッセージをいただいたことがありました。そういうのは嬉しいですよね。
すごく大きな事業をされている方とかも、「この方向で間違いないか」と、数ヶ月に1回占いにいらっしゃったりします。「事業を動かすのに良い時期」とか、「この人と組んで良いか」とかを占いで決めていくんです。

ー 人生の分岐路を見られているような気がしますが、占う時、プレッシャーに感じたりしないんですか?
葵先生:やっぱり最初はプレッシャーに感じますよね。でも、私の力というよりは占いで出ていることをお伝えするという感じなので。

ー そういう方々は、なぜ他の占い師さんではなく、葵先生のところに通われていると思いますか?
葵先生:私は困った方の状況に合わせて、電話やメール鑑定も受けたり、いち早く鑑定されたいと思うのでなるべく早くお返事を返すようにしたりしています。「常にお客様の立場に立って」というのは意識してますかね。

ー そういう葵先生のご丁寧なところやお客様思いのところに救われている方々がたくさんいるんですね。
葵先生:みなさんやっぱり困ってここにいらっしゃるんですね。そういうお客様の不安になるべく寄り添いたいなと思います。

ー 他に印象に残っているお客様はいらっしゃいますか?
葵先生:男性と女性お二人で来られて、その時はお友達だったんですけど、私が「あなた方相性良いわよ、結婚するかもよ」なんて言ったら実際に結婚されて。

ー 素敵ですね。
葵先生:なかなかお子さんができない時期などもあられたんですけど、占いに通ってくださって、結局お子さんもできて、一緒に連れてきてくださったり。そのときは嬉しかったですね。

ー 葵先生のお客様は、そうやって一度きりの占いで終わらずに、何年も通われる方も多いんですね。
葵先生:そうですね。長くやってると、お客様もやっぱり30、40年通い続けてくれるリピーターの方も多いですね。私も、そうやって会いに来てくださるお客様からパワーをいただくことがたくさんあります。

真剣にお話を聞いてくださる葵先生

お客様がいる限り、占い続ける

ー 葵先生は、ご自身の進路を決める時も占いをされるんですか?
葵先生:若い時はしましたけど、今はそんなに。迷うことがあんまりないですね(笑)。
でも全く見ないわけではないです。占星術のデータとかは常に頭に入ってますしね。

ー 自分の人生に置き換えても、当たってるなあと実感することはありますか?
葵先生:うん、やっぱりそうですよね。合ってますよね。

ー 恋人や友人を占いの合う合わないで判断したり?
葵先生:最初から占うわけじゃないけど、付き合ってて「なんかこの人合わないなあ」と感じる人のことを調べると、「あぁやっぱりそういうことか」みたいなことはありますね。

ー 占い師の仕事を辞めようとか、他の仕事に就こうとか思ったことはなかったんですか?
葵先生:あんまりそれはないですけど、若い時は1度占いをやめようかなと思ったことがありました。先ほど話した通り、本当に忙しかったので....!もう少しゆっくり落ち着いた仕事に就きたいなあと思ったこともありました。
あと、昔ピアノをやってて、本当は音楽の道に進みたかったんです。でも今は、弟(そうる透)がドラマーとして5歳から61年続けてくれていて、天童よしみさん、伊藤蘭さんなど、いろいろなジャンルの方々のサポートをさせていただいてますので、思いは継いでくれていると思ってます。弟のライブを見に行くことも、私の人生の楽しみになっています。

ー そういう時期もありながら、なぜ占い師のお仕事を続けられたんですか?
葵先生:ある習い事に通っていた時期に、占い師だと伝えずにお友達になった方がいたんですけど、ある日お茶に行ったら「相談がある」というふうに言われて。「なんで私に相談したの?」と聞いたら「信頼できるから」と言われて。その時に、「やっぱり私は占いを続けるべきかもしれない」と思いました。

ー 始めた時はこんなに続くと思ってましたか?
葵先生:いやいや、思ってなかったです。6人身内にいた占い師も今は私一人です。
母は、いま93歳で引退してますけど、85歳くらいまでやってましたね。

ー 葵先生もお身体が元気なうちはやりたいという思いですか?
葵先生:そうですね。今はやろうかなという気持ちが強いですね。やっぱりリピーターのお客様がいる限りは続けたい。
今もこの歳で中華街・都内で週5で占いをするのは大変ですが(笑)、なるべく長く、お客様の前に立ちたいなと思っています。

葵先生は中華街が大好きなのだそう

編集後記

葵先生を取材しての1番の印象は、「あまりご自身について積極的に語られる方ではないのかもしれない」ということでした。もちろん、私が投げかけた質問には一つ一つ丁寧にお答えいただけたのですが、これまで取材させていただいた方々に比べると、ご自身から出てくるエピソードがそれほど多くはなかったので、そういった印象を抱きました。
というのも、「50年以上1つの仕事をする」というのはそう簡単にできることではなく(新卒で入社し、定年まで1つの会社で働いたとしても40年にも満たない)、それをされている皆さんの中には、強い信念/こだわりややりがいを持っている方が多いため、取材時には質問以上に多くのエピソードを語ってくださることが多かったのです。
ここで私は、1つの仮説を立てました。葵先生の体現されている「占い師像」とは、「とにかくお客様の立場に立って、寄り添う」こと。ご自身の経験や知識に基づくパフォーマンスよりも、目の前のお客様を第一に考えること。これが50年もの間お客様の前に立ち続けたことで、葵先生ご自身の身体にこのスタイルが染み付いたのか、もしくは、占い師になる前からそういう素質があられる方だったのか…真実はわかりませんが、真の占い師とは”そういう方”のことをいうのかもしれないと思いました。
そして、常に「お客様主語」であるということが、葵先生の信念でありこだわりなのだと。スキルも、経験も、自分のためではない。ただ、お客様のために。だから、ご自身が主語となるようなことを多くは語られなかったのかもしれません。
この仮説が正しいか正しくないかは分かりませんが、私は、占い師としての50年に説得力を持たせる、葵先生の姿勢と佇まいがとても格好いいなと思いました。
・・・そして、そんな私は、ちゃっかりたくさん未来の悩みを相談し、占ってもらって葵先生から元気をもらったのでした(笑)。

葵先生と華陽園の前でパシャリ

取材/ライター:野澤 雪乃
編集:新野 瑞貴
撮影:中村 創
監修:後藤 花菜

50年1つの仕事を続けた方のポートレートや仕事風景をフィルムカメラで撮影した写真集「ひとすじ」製作中!最新情報はこちらからご覧ください。▷instagram @hitosuji_pj


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