「こんにちは、あたしはビビガール。完全無欠なお人形です」
ミヒャエル・エンデによる児童文学の名作『モモ』(1973)の一場面である。あるとき主人公の少女モモは、落ちていた人形に話しかけられる。モモはこの人形でごっこ遊びをしようとするのだが、うまくいかない。
そこに本作の悪役である「灰色の男(時間泥棒)」の一人が現れ、ビビガールの「遊び方」を伝授しようとする。それは、彼女の要求通りに次々と関連グッズを買ってあげることだ。そもそもビビガール自体、モモに拾わせて堕落させるため灰色の男たちがわざと置いていったとおぼしい。
彼はこうまくしたてる。
ビビガールは、名前の子音がバ行2つであることからも察せられるように、バービー人形のパロディだ。エンデというこの偉大な老害の目には、十数年前(1959)に登場したバービーという新しいタイプの人形が、グッズを売りつけて消費することだけに子供の心を奪わせ、ごっこ遊びの創造性を破壊するものに映っていた。