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 元は労働環境が違法・劣悪な企業を指す言葉として流通していたスラング。
 特に「35歳定年(あまりにブラックな労働環境によって心身を破壊され35歳までに退職を余儀なくされるという)」と呼ばれるIT系の若年労働者がネット上で使い始めた言葉だという。
 2009年の映画『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』、2012年の書籍『ブラック企業~日本を食いつぶす妖怪』などを経て一般にも知られるようになり、2013年の「新語・流行語大賞」でトップ10に入る。
 2020年7月29日『朝日新聞DIGITAL』によると、黒人差別用語(「ブラック企業」に「黒人差別」の指摘 どう思いますか)。
 特に英語圏において「blackmail(脅迫)」「black-hearted(邪悪な)」など、blackを含むネガティブな単語を言葉狩りしようとする動きがある。

 上記記事によると、「ブラック企業」という言葉を問題視する人物は

・米ニューヨークから2004年に日本に移住したアフリカ系米国人の作家バイエ・マクニールさん(54)
・米国の大学で教えたこともある桃山学院大学の尾鍋智子・国際教養学部准教授(比較思想)
・NPO「移住者と連帯する全国ネットワーク」の鳥井一平代表理事
そしてもちろん
・当該記事を書いている大企業朝日新聞社の記者・藤えりか

 といった人物である。
 唯一登場する「社会的弱者の外国人」と言えそうな人物は「産業廃棄物処理場で働くガーナ人男性が、『夜に黒人が歩くと怖い』との近所からの苦情で残業ができなくなった」という事例であり、言葉の使い方とは全く別の実際的な差別だけを問題にしている。
 実際にブラックな労働環境によって心身を破壊されている貧しい若年労働者に対する、いわば意識の高い「上級国民」からの有難いお説教であるようだ。記事内の「記者の視点」というコーナーは、NPO代表鳥井氏の「使う側はブレーキをかけて考えなきゃいけない」との発言を受けて「立ち止まって、考えてみませんか」と締めくくられる。
 今にも死にそうな若者たちの抵抗に「ブレーキをかけ」「立ち止まって考えろ」と、一生そんな窮状に陥らなさそうな人々が宣っているのである。ただblackを冠する言葉が気に入らないと言う些細な“問題”を振りかざして。
 ふだん社会的弱者のため【権力勾配】を声高に叫んでいた人々は、今こそ作家マクニール氏や尾鍋准教授、何より藤記者に抗議すべきと思われるが、一体どこへ行ったのだろうか。

 幸い「ブラック企業大賞」は表記を変更する予定はない。
 また上記『ブラック企業~日本を食い潰す妖怪』の著者でもある今野晴貴氏(若者の労働・貧困問題に取り組むNPO「POSSE」代表)は「差別の議論の仕方として複雑で、簡単に一言ではコメントできない」と話したという。

 英語では黄色に対しても「卑劣・臆病」のイメージがあり、yellow bully(臆病者)やサッカーのyellow cardなど、ネガティブなイエローはよくある。しかし黒人達が我々の為にそんな言葉を無くしてくれたという話は寡聞にして聞かない。
 筆者も黄色人種として、あらかじめ言っておきたい。
 件の朝日新聞のような記事を“yellow journalism”と呼んでも、我々はいっこうに気にしないよ、と。

 
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