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【邪神ちゃんドロップキック】

 Web漫画配信サイト『COMICメテオ』で2012年からユキヲ氏が連載している漫画作品、およびそのアニメ版。
「邪神ちゃん」と愛称される下半身が蛇の悪魔の少女と、彼女を召喚した女子大生の花園ゆりね、および両者の友人たちとの交流を描くコメディ作品。邪神ちゃんが悪だくみをしてはゆりねからスプラッタ映画まがいの過激な「お仕置き」をされるギャグが定番。

 原作の舞台は東京であるが、主人公「邪神ちゃん」を演じる声優の鈴木愛奈氏が北海道千歳市出身である縁で、同市がPRのためふるさと納税2000万円を募集。達成したことでスペシャル編「千歳編」が制作され、同市とのコラボレーションが実現した。また道内の帯広市・釧路市・富良野市(後述)および長崎県南島原市とのコラボも発表された。

泡沫社会学者、咆える。

 2021年3月、アニメ【おちこぼれフルーツタルト】と東京都小金井市のコラボレーションを、「女性と人権を考える会」を名乗るグループが抗議している。この件に便乗したと思われる記事「エログロの深夜アニメで町おこしをするべきではない」のなかで、ついでのようにバッシングされたのが本作である。

 この記事の問題点は、自称【社会学】研究者の名のもとに書いているにもかかわらず、エロアニメ(いわゆるアダルトアニメではなく、この人物が勝手に性的と見なしたアニメをそう呼んでいるだけ)での町おこしが「女性は性のはけ口という価値観を広める」だの「エログロアニメが視聴者の心を傷つける」だのといった論考とも呼べない偏見をただ垂れ流しているだけである点がひとつ。
 もう一つは「深夜アニメは3か月で終わってしまえば町おこしの効果もなくなる」と、『ラブライブ!』シリーズの沼津市や『ガールズ&パンツァー』の大洗町などといった長期にわたり経済効果をもたらしている実例をまったく無視している(あるいは単に知らない)点。
 さらには著者自身が2011年に「深夜にザッピングしていたところ『BLOOD-C』というゴア描写ばかりのアニメを偶然目にしてしまい、恐怖で一睡もできなくなった」などと書いており、明らかに著者の感覚が平常なものではないにも関わらずその自覚が見受けられない点である。
 いくらアゴラのネット記事といってもその低質さは看過できないレベルで、近年の「社会学」の権威失墜をますます加速させたと言ってよい。

 また、この記事では本作を「エログロアニメ」と称しているが、本作には美少女こそ多く登場するものの、エロ要素は乏しい。
 またグロの方も、別段グロシーンにリアリティがあるわけではない。ゆりねによる邪神ちゃんへの「お仕置き」ギャグにしても、あくまでギャグであり、お仕置きで負傷している邪神ちゃんにはモザイクが付けられるなどの配慮がなされている。

(アニメ版第7話より)

 この表現をグロと言っていたら『トムとジェリー』でもグロになってしまうだろう。

(映画『トムとジェリーの大冒険』OPでバラバラにされるトム)

「富良野編」決算不認定騒動

 2022年夏に放映された『邪神ちゃんドロップキックX』第9話「富良野に潤むラベンダー色の瞳」は、キャラクターが北海道富良野市に旅行するという「富良野編」であった。

 同回で邪神ちゃん達が富良野を訪れた理由は、莫大な借金をした邪神ちゃんと友人のメデューサが、自身の臓器売買を決意して最期の旅行を楽しむというブラックなものであった。
 2022年11月15日、これを不適切として富良野市議会の決算審査特別委員会は、同回の制作費3300万円をふるさと納税(総額約6700万、残余は観光予算となった)として支出した2021年度決算を不認定とした。

 争点となったのは、アニメの制作委託料3300万円。討論で佐藤秀靖氏は「邪神ちゃんに借金があるため臓器売買を提案するなど社会通念上許されない行為が多くあり、富良野のイメージを落としかねない」と主張。一方、認定の意を示すため起立したある委員は「あくまでアニメの中の話。一部分だけを切り取って議論するのはよくない」とした。
 北猛俊市長は取材に対し、「不認定は非常に残念な結果。表現の自由に介入して指摘するのは遺憾だ。委員会などで出たさまざまな意見については今後の参考にしたい」と答えた。

「邪神ちゃんの内容不適切」 富良野市議会委、アニメ巡る決算不認定

 なお、同議会の澁谷議員のブログ議員名簿を突合すると、不認定に回った議員は以下のとおり。
 宮田均(無会派)、渋谷正文(ふらの未来の会)、大西三奈子(ふらの未来の会)、松下寿美枝(市民連合議員会)、本間敏行(ふらの未来の会)、佐藤秀靖(ふらの未来の会)、今利一(市民連合議員会)、宇治則幸委員長(市民連合議員会)。
 無会派の宮田氏を除く全員が「ふらの未来の会」又は「市民連合議員会」に属しており、党派がはっきりしている。おそらく彼らによる反市長の政争の具にされたのではないかと見られる。

 なお決算不認定の効果はあくまで首長の説明責任と、次年度以降の予算に影響があるという程度の話であり、すでに執行されたアニメ制作費の返金義務が制作会社などに課せられるわけではない。

 しかし、この佐藤氏の言い分は明らかな過剰反応であり、「富良野のイメージを損なう」という批判はあたらない。
 あくまでもブラックな言動をするのは来訪者であるメインキャラ達に過ぎず、同回で多数紹介されている富良野の名所・イベント・特産品などは何も貶められていないからである。
 そもそも『邪神ちゃんドロップキック』は2012年に原作がスタートした作品で、アニメ版でも以前からスプラッタやブラックジョークを含む作品であった。作風はもともと分かっていたのであり、富良野編に至って急に過激になったわけでもない。

 これに対して直ちに動いたのが制作側で、不認定が報じられた翌日にはYouTubeとニコニコ動画で同回を無料公開し、実際に富良野の印象が悪化したかどうかアンケートを取るという柔軟な対応を見せた。

 当然ながら、圧倒的多数の支持が集まり、本作の正当性を見せ付けたのである。

 なお本会議では同決算は無事認定されている。


参考リンク・資料:

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