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 心理学用語。日常語で近い言葉を探すなら「興奮」である。

 ポルノグラフィが人の攻撃性を高め、ひいては性犯罪を誘発・助長する効果があるのではないかという懸念は昔からあった。たとえば精神分析学の創始者フロイトも、男性の性的興奮は攻撃性を促進させるという意見を持っていた。
 しかし実際の社会的統計においては、ポルノに対する規制の緩い国・時代は、厳しい国・時代に比べて性犯罪や性暴力が多いとは全く言えない状況である。
 このような問題に対する、心理学界の回答のひとつが「一般的覚醒」――すなわち、ポルノは人を犯罪的・暴力的・攻撃的にするのではなく、単に興奮させるに過ぎないという内部過程が考えられたのである。

 ドナースタインとバーレット(1978)はこのことについて興味深い実験を行っている。
 彼らは男子大学生に作文をさせ、それをわざと低く評価した上に罰として電撃を与えることで「怒らせた」群と怒らせていない群に分けた。さらに彼らに「ポルノグラフィ」と「中立的条件(自然ドキュメント)」の2種類の映像を見せ、その後で彼らの攻撃性を測った。
 すなわち「怒っていてポルノを見た男性」「怒っていて自然ドキュメントを見た男性」「怒っておらずポルノを見た男性」「怒っておらず自然ドキュメントを見た男性」の4群の攻撃性を測定したのである。

 その結果、怒っていた男性はポルノを見た群の方が攻撃性が高く、怒っていない男性はポルノを見て逆に攻撃性が下がっていた。
 つまりポルノは通常は無害だが「元々怒っている人に限ってはポルノで興奮してますます攻撃的になる」ということである。

 しかし、一部の人にとはいえこのような効果がありながら、なぜ社会統計上は一向にポルノと性犯罪の間に正相関がみられないのだろうか。世間にはたまたま怒っている人もそうでない人もいるのだから、怒っている人にだけでも悪影響を与えれば、全体として性犯罪は増加するはずではないのか。なぜ実際にはそうなっていないのか。

 考えられることの1つは、ポルノがもたらす快感は「拮抗情動反応」(性的な快の感情が、犯罪の原因となりがちな負の感情を打ち消すこと)と呼ばれる現象を起こすこと。もう1つは「怒りながらポルノを楽しむ」という状況が実社会では考えにくいことである。
 さらに心理学実験によるポルノの影響測定では、通常被験者がポルノを「見た後の状態」を測定することが多い。しかし実社会ではポルノを見ることによる興奮は、ポルノを使用(つまりマスターベーション)することによって直ちに解消されることである。心理学者たちにおかれては、より正しく「ポルノの悪影響」を測りたいならば、ぜひともポルノ使用後の被験者の攻撃性を測ってほしいところである。

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