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 女性の配偶者のこと。特に、自身または自身の息子の配偶者を指すことが多い。
 フェミニストによって偏執的に憎悪されている言葉で、どれほど悪意や蔑視なく使ってもフェミニズムの集団「言葉狩り」に遭うことがある。

 ネットでは2020年11月、【Tabio靴下屋】公式ツイッターアカウントが「嫁から「とりあえずこれを読め」と佐々木倫子先生の「Heaven?」を全巻渡されたので読みます。」と呟いただけで被害に遭った例などが知られる。
 また芸能人では、俳優の松山ケンイチが「髪が伸びた時には自分で切ったり、嫁に切ってもらっている」とバラエティ番組『火曜サプライズ』で発言したことでバッシングを受けた。

 ネットを見ると、「嫁」という呼び方、問題あります。やめてください「嫁」・「主人」が死語になる日; 言葉狩りと非難しない前向きな対応を「嫁」って言葉がクソ嫌いで天地がひっくり返っても使わない理由などなど、「嫁」という言葉を呪うブログが長々と書き連ねられている。他にすることないのか。

 しかし現在、彼女らの絶叫をよそに、嫁という言葉は一般的に「妻」という意味で一切の軽蔑や悪意なく使われている。
 こうした「今では普通の表現」に対して言葉狩りを行うには「もとは侮蔑語や罵倒語だったのだから、それを思い出させる言葉は被差別者を傷つける」という言い方が定番である。
 ところが不味いことに、嫁の語源は諸説あって定まっていない。『語源由来辞典』によれば嫁の由来は、息子の妻として呼び迎えることから「呼び+女(め)」であるという説。姑より弱い立場であるから「弱い+女」という説。「良い女性」を意味する「良き・吉+女」という説。夜の相手をする女性という意味の「夜+女」などの説がある。
 「弱い+女」「夜+女」という、あまり良くない意味の語源説もないではないが、それは少数説。「良き・吉+女」が有力説であるらしい。これは「嫁」という言葉に悪のレッテルを貼りたいフェミニストにとって非常に都合が悪い。

 そこでフェミニストは「嫁はもともと悪い意味だ」から「嫁=『息子の妻』の意味であり、本人の妻に使うのは間違っている」と言い張ることにしたのである。
 しかし仮にそうだったとしても、現在ふつうに「嫁=本人の妻」という意味で流通しているのだから、「間違い」というよりは「現在では語義が変化している」と考えるのが公平なところであろう。「駅」という言葉は「馬をとめるところ」が原義なので「『電車をとめるところ』に使うのは間違いだ」とでも言うのだろうか?

 では「嫁」が息子のではなく「本人の妻」の意味として使われ出したのは、そんなに新しいことなのだろうか。

 それが実は、約1000年前の平安時代に著された菅原孝標女すがわらのたかすえのむすめ『更級日記』に用例があるのである。

weblio古語辞典より

いにしへ、いみじうかたらひ、夜昼、歌など詠みかはしし人の、ありありても、いと昔のようにこそあらね、たえずいひわたるが、越前の守の嫁にて下りしが、かきたえ音もせぬに、からうじてたより尋ねて......

菅原孝標女『更級日記』

 この「越前の守の嫁にて下りしが」とあるのは「越前国の国司として任官した夫に、その妻として同行していって」という意味である。越前守の息子の妻ではない。越前守本人の妻だからこそ任官に同行したのである。

 というわけで「嫁」という言葉は、1000年前から「本人の妻」という意味で立派に使われていたことがわかった。
「嫁=本人の妻は間違い!」と噴き上がるフェミニストの皆さんにおかれては、是非その何倍も歴史の短い「駅=鉄道駅」の訂正にも乗り出していただきたい。

「嫁」については「間違い説」のほかにも、「嫁=女+家」説もフェミニストの支持を受けている。ツイッターでもこんな「日本嫌い」のフェミニストが叫んでいる。

 日本語は差別的だから嫌いだとして英語を持ち上げているが、実は英語で嫁(妻)を意味するwifeこそ、印欧祖語で「恥」という言葉から、「陰部」の意味に転用され、ついに妻の意味になったとのこと。「嫁」なんかより遥かに差別的である。
 われわれは彼女の轍を踏まないよう、きちんと角川書店『角川字源辞典』で「嫁」を調べてみよう。

意味を表わす「女」と、音を表わす「家(か)」とからなる。

角川字源辞典

 なんと、「嫁」は「家の女」という会意文字ではなく、形声文字だったのだ!
 つまり「嫁」の「家」部分は「女なんか家にすっこんでいろ」と差別するためではなく、「カ」(中国語では「チャー」)と読ませるためについているのだった。

 女性差別の責任を、何の罪もないことばや漢字になすりつける――フェミニストたちのこうした行動をこそ「責任転嫁」と呼ぶのである。

参考リンク・資料:

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