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【ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】

 スクウェア・エニックスの代表作にして国民的RPGとも呼ばれる『ドラゴンクエスト』シリーズの第11作目。
 オリジナル版は2017年7月29日にPS4・3DS版が同時発売、その後もリメイク版がNintendo Switch等複数のハードで発売されている。

 2022年10月16日、日本共産党の機関誌『しんぶん赤旗』が、ドラゴンクエストをジェンダー面で批判する記事を掲載。批判を招いた。

 なお執筆者は「恋バナ収集ユニット『桃山商事』代表・清田隆之」なる人物である。
 ……そもそもこんなネーミングを自称する者にジェンダーバイアスを批判する資格があるのかどうかも疑問であるが。

 同記事はドラゴンクエストを久々にやってみたという立場からの体験記と
して「”世界を危機を救うために生まれてきた勇者が男性であるという設定。そして、そんな主人公をいつまでも待ち続けてくれる、かれんな幼なじみの存在」と批判する。記事そのものにドラクエのどれを遊んだのかはっきりした記載はないが、この箇所から本作Ⅺの事であろうと考えられる。
 そのほかにキャラクターの男言葉・女言葉や、戦闘においては「男は攻撃、女は回復や補助」であるとする。
 またフェミニストお決まりの性表現バッシングももちろんある。

 さらに、胸やお尻を強調した女性格闘家のキャラ造形や、女学生の制服やガニーガールの格好が女性キャラの防具になっているなど、過度に”お色気”が織り込まれているのも気になります。多くの場所に性風俗を思わせる場所が用意されているのも大いなる疑問です。

 これらを「思えばこれらは自分が幼少期に親しんでいた初期のドラクエからも続いていたものでした」と全体化して批判したこともあり、ツッコミが殺到した。

清田氏の「ドラクエの問題点」の問題点

 これらの批判は、過去のドラクエ全体としてはもちろん、時にはⅪ自体にすら当てはまらないものである。
 たとえば男言葉・女言葉の批判については。真っ向からそれを打ち破ったいわゆるオネエキャラである、シルビアの存在を無視している。この写真に載っていない部分には、子どもの夜泣きで目が覚めてしまった時用に買ったなどというどうでもいい話を長々と前置きしているため、触れる紙幅がなかったとは思えない。

 戦闘面が「男性キャラ=攻撃、女性キャラ=回復やサポート」という批判に至っては全く失当でる。
 歴代『ドラゴンクエスト』の仲間キャラクターの性格・性別・職業などと、戦闘での役割の関係はおおむね3種類に分けられる。

1.自由にキャラメイクできる(Ⅲ、Ⅸなど)
2.ストーリーに絡んで登場し、能力の傾向も決まっている(Ⅱ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅷなど)
3.ストーリー上の役割を持って登場するが、戦闘能力は転職などでほぼどうにでも自由に伸ばせる’(Ⅵ、Ⅶなど)

 そして1の場合はもちろん、2・3の場合であっても、女性キャラクターが回復や補助に固定されているわけでもないし、男性の回復・補助キャラクターも存在する。たとえばⅣでは打撃・攻撃魔法・回復の全てに男女各1人ずつスペシャリストが存在するし、Ⅷでは回復役は男性のククールで女性のゼシカは攻撃魔法担当である。むしろ女性キャラが回復・補助役に集中しているようなドラクエ正規ナンバーは一作もないと言ってよい。
 そして肝心の本作Ⅺにさえこの「戦闘面の役割」批判は当てはまっていない。回復に長けた女性セーニャは存在するものの、他の女性キャラは武闘家マルティナに攻撃魔法使いベロニカといった面々だからだ。「女は回復」という役割の押し付けになどなっていないことは明白だ。そもそも自分で「胸やお尻を強調した女格闘家」と存在に触れているではないか。
 
 「風俗店を思わせる場所」というのは、いわゆる「ぱふぱふ」イベントのことであると思われる。
 もちろん、そんなものが「多くの街」にあるという状況が「幼少期に親しんできた初期のドラクエから続いてきた」はずはなく、普通は1作1ケ所である。Ⅺでは「過去作の歴代ぱふぱふイベントを再現する」というファンサービスで複数の街にぱふぱふがあるに過ぎない。
 しかも、その歴代ぱふぱふイベント自体、既プレイ者は御存知のとおり、多くが「エッチなサービスかと思ったら肩透かしを食らう」ものでしかない(風俗を「思わせる」だけならその通りであるが)。
 また主人公がぱふぱふを頼むと女性の仲間が怒っていたりする表現も挿入されており、風俗業的なものを快く思わない女性の感覚も組み入れられている。
 こうしたことに清田氏は全く触れていない。

 結局のところ、「赤旗」記事における清田氏のドラクエ批判は「こういうのがジェンダー問題だという記号」を目につく端から挙げただけで、全体の関係をまるで考えていない。
 女性が回復や補助をさせられている!と言いながら、そうでない女性格闘家はその胸やお尻の描写にしか目に行かず、さきほどの論との矛盾を忘れ去っているところなどは、まさにその好例であると言わざるを得ないだろう。

 つまり「男性目線大盛り」なのは、他でもない執筆者と、赤旗・日本共産党自身なのである。

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