新しい執筆環境を試したら、驚くほど快適だった

新刊を出しました。

最近は毎年少なくとも1冊は本を出していましたが、去年は子どもが生まれて時間が取りにくく、結局1冊も書けませんでした。書籍のような大きなプロジェクトではある程度まとまった時間を取らないと難しいんです。執筆のためには気分を高める "助走" が必要なので、細切れ時間を活用しにくいのです。

しかし、書籍用のネタは結構溜まっていました。書き溜めたネタが結構な分量になっているので、これをうまくまとめたらすぐに本ができそうだったので、妻の年賀状作りの手伝いが終わった後に、執筆作業を開始しました。

12 月半ばから書き始めて、1月末に書き終えたので、1ヶ月半程度掛かりました。

いつもは Amazon Kindle(電子書籍)、およびアメリカの出版サービス Lulu での印刷書籍(オンデマンド出版)の2種類の出版をしていますが、今回は Kindle だけです。書きたい本がまだいくつもあるので、とりあえずしばらくは Kindle だけの出版に集中してみようと考えています。印刷書籍はいつも Adobe InDesign で組んでいますが、その作業も数日掛かるため、その時間があれば新しい本の執筆がしたいからです。でも、落ち着いた頃にまた印刷書籍でも出そうと思います。

新刊は約 82,000 字で、これまで出した本の中でも特に分量が多いです。だいたい新書1冊分です。それでも今まで以上にすいすい書けてしまいました。それは、新しい執筆方法を試してみたからです。

いつも書籍の執筆には Mac アプリの Scrivener を使っています。

Scrivener | Literature & Latte
https://www.literatureandlatte.com/scrivener/overview

このアプリを使うとどんな長文でもスラスラ書けてしまいます。ツリー表示ができるので、各項目を並べ替えるのが簡単です。メモを元にどんどん項目を作っていき、それを肉付けしていけば本になるのです。

これまでは Scrivener 自体にメモを書いていました。しかし、いかに使いやすい Scrivener とはいえ、大量のメモをあれこれまとめたり、全体を俯瞰して見るのはどうしても難しいのです。一応 Scrivener にメモをまとめる機能がありますが、私には使いやすいとは言えませんでした。

そこで、最近情報カードがマイブームということもあり、紙のカードにネタを書いて、それを使って本を書いてみることに挑戦しました。いわゆる「KJ 法」というやつです。

KJ 法では一旦カードにネタをどんどん書いていきます。すべて書ききったと思えばカードを分類し並び替えて構成を考えていくのです。その作業で足らない部分は追加のカードを書いたり、なんならいらないカードは捨てたりします。そうやってカード上でいわばゲシュタルトを形成することで、書籍へとまとめていくのです。要するに発想の流れをすべてカードで置き換えて作業化していくと自然と本が完成する、というわけです。

KJ 法で書こうと決めた時点でメモのカード化は進めていましたが、それまでに Scrivener に書いていたメモも大量にありました。そこで Scrivener のメモを一旦カードに転記しました。これが結構大変な作業でした。

すべてをカード化した上でカードを分類です。分類していくだけでだんだん本の構成がイメージできていきます。またネットの記事や長文のメモの場合は、普通に A4 用紙に印刷して、それもカードと一緒に分類しました(大きさが違って少し不便でしたが)。

そして Scrivener で一気に執筆__はしません。今回はまず Ulysses というアプリを使って執筆しました。

Ulysses
https://ulysses.app/

Scrivener はたしかに素晴らしいアプリですが、Mac と iOS アプリでの同期に関しては不安定な印象があり、使いづらいのです。そこで、いろいろアプリを試した結果、Ulysses が Mac・iOS 間での同期が問題なく動き、かつ執筆ツールとしても使いやすいと分かったのです。

たしかに Mac だけで Scrivener での執筆もできます。しかし、育児をしてパソコン(デスクトップ)を離れているときでも iPad で執筆をしたい。そう考えると Ulysses が便利なわけです。

実際に Ulysses での執筆は驚くほど快調で、電車やカフェといった外出先でも執筆がはかどりました。MacBook もありますが外出先で気軽に執筆を開始できるわけではありません。さっと使える iPad は執筆に向いていました。

そうやって Ulysses で一旦初稿を書き上げました。カードのメモをすべて原稿化したわけです。

この次にやるのが校正作業です。校正は PDF に書き出して、iPad の PDF Expert というアプリに入れます。それで Apple Pencil で手書きの赤入れを入れていきます。

PDF Editor and Reader for Mac | Free Trial | PDF Expert
https://pdfexpert.com/

校正作業はやろうと思えば Ulysses 上でもできなくはありません。しかし、矢印を書いたり、四角で囲ったりといった大胆なメモがしたいので、手書きがやりやすいです。校正作業では何度も何度も見直します。そのたびに印刷をし直していたら大量の紙を消費することになりますが、iPad と Apple Pencil があればそれもペーパレスでできてしまいます。

PDF への書き出しは Ulysses でもできます。iPad 用には B5 サイズで Color Code という名前のテンプレートで書き出すと見やすいです。しかし、そういった PDF への書き出しでは Scrivener のほうが高機能なので、細かい設定ができます。

というわけで、Ulysses から Scrivener への取り込みをして、この後の作業は Scrivener で行いました。

Ulysses から Scrivener への取り込みは少し面倒です。Ulysses の各項目の順番をそのまま維持するのに苦労しました。ここでは詳細は書きませんが、簡単にまとめると以下のような手順でやりました。

1;Ulysses でテキスト形式の単一ファイルで書き出し。
2;テキストエディタで正規表現などを駆使して整形。
3;Scrivener に取り込み、Keyboard Maestro を駆使して個別のノートに分けたりする。
4:テキスト置換等で最終調整。

Keyboard Maestro というのは Mac の自動化ツールです。

Keyboard Maestro: Work Faster with Macros for macOS
https://www.keyboardmaestro.com/main/

こうやって Scrivener に取り込みができました。

そして B5 サイズの PDF に書き出して、iPad で校正を何度も何度も繰り返しました。校正内容を Scrivener に反映させて再度 PDF へ書き出し。そして再度 iPad で校正・・・といった具合です。新書1冊分の分量なのでこれが結構時間がかかります。それと校正作業ではどんどん文章を削ることも多いです。読みやすさを意識すると、回りくどい表現などはどんどん削るからです。一時は 87,000 字ほどになりましたが、最終的には 82,000 字で落ち着きました。

このようにして原稿が完成しました。

Amazon にアップロードするために、Scrivener で ePub に書き出し、それを Sigli というアプリで微調整します。Scrivener では目次が書籍の先頭になるので(目次の位置は Scrivener では変更できません)、「はじめに」の次に移動させたりといったことは Sigli で行います。

Releases · Sigil-Ebook/Sigil
https://github.com/Sigil-Ebook/Sigil/releases

そして Kindle 用の表紙画像は Photoshop で作りました。推奨サイズの 2,560 x 1,600 ピクセルにしました(JPG ファイル)。

これで Amazon のサイトへアップロードです。書籍の情報を入力したりして完成。レビューが完了し出版が開始されるまで最大 72 時間掛かるそうですが、アップロードから6時間で出版が開始されました。検索結果として出てくるようになるには 12 時間ほど掛かりました。検索結果に出てくるのがなぜ重要かというと、「著者セントラル」に登録するには検索結果に出る必要があるからです。著者セントラルに登録することで、著者名をクリックして書籍一覧に登録した本が表示されるようになります(ただし、著者ページに表示されるまで最大5日かかるようです。実際は数時間で反映されました)。

今回新しい執筆環境を試してうまくいったので、次の書籍でも同じ方式でいこうかなとおもっています。

まとめると以下のような感じです。

・本のアイデア、構成は KJ 法であっという間にまとまる。
・原稿をガッと描くには Ulysses が最適。
・PDF や ePub への書き出しは Scrivener がいい。



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