レポート;プレヴォー後編

さて、作品とホロスコープの話に戻る。私は、こういったファム・ファタールもののヒロインは作者のアニマに相当しているのではないかと推測した。
アニマとは、男性の中の女性性のことで、ホロスコープ内では月や金星に相当する。女性の中の男性性はアニムスといい、太陽や火星が関係する。これらはリズ・グリーンの『占星学』の第5章に詳しい。

この中で、アニマ・アニムスはしばしば理想的な異性の姿として現れる、と述べられている。男性(または女性)は自分の内にある女性性(男性性)を、しばしば現実の相手に投影し、恋に落ちるのである。「彼女(彼)はまさに理想の女性(男性)だ!!」なんて私たちは思うのだが、実際には自分の理想を相手に押し付けているだけに過ぎないことが多い。

これでアニマやアニムスがまっとうならいいのだが、時々、本人は至って真面目なのに、なぜかひどく破滅的な女性に恋をするというケースがある。まさに『マノン・レスコー』のように。この場合、アニマ・アニムスに関わる星に大惑星のタイトなコンジャンクションやスクエアが見られることが良くある。
この大惑星が海王星だったり冥王星だったりすると、かなり人間関係に苦労することもあるのだそうだ。
例えば月、金星、海王星がコンジャンクションという場合は、海王星の「自分を犠牲にする聖なる女性」というイメージが理想の女性に投影される。女性に対してはとても優しく、きめ細やかな気遣いを見せるが、相手にも同じかそれ以上の犠牲を(しかも無償で)払うことを無意識に求める、という感じだろう。
ちなみに、これは太宰治が持っているアスペクトである。蟹座の月、金星、海王星コンジャンクション。何度も女性と心中を繰り返した人らしいアスペクトだろう。どうやら強さよりも、弱さでモテるタイプだったようだ。女性は強い男性より、自分に共感してくれる優しい男性に惹かれるもの、と筆者は常々思っている。もちろん人それぞれだが。

閑話休題、プレヴォーのアスペクトでは牡牛座の金星は特に目立つアスペクトはないが、獅子座の月は冥王星の近くにある。出生時間不明のためはっきりとは言えないが、ひょっとしたらコンジャンクション、そうでなくとも同じサインということになる。
十惑星のうち、一番破滅的な女のイメージに近いのはまさに冥王星ではないだろうか。蠍座のルーラーであり、死と性と富を司り、支配欲、根こそぎの破壊とその後の再生を意味する。そのイメージを持つ女性がプレヴォーの理想の女性となる。贅沢で、性に奔放なマノンのイメージにぴったりである。そういった女性に破滅させられたい願望があったのではないだろうか。

また、月と冥王星が位置しているのが獅子座というのも興味深い。マノンは男を取っ替え引っ替えするが、最後まで主人公のデ・グリュのことが一番好きだと主張している。
それでもデ・グリュを捨てたのは金がないデ・グリュが悪いのである。つまり、最終的に相手を選ぶ権利はマノンにあるのだ。
彼女のように男から精神的に独立した自我の強い女性というのは、17世紀ヨーロッパの知識階級のような品行方正な女性を求める社会からすれば、あばずれ扱いされてひどく嫌がられたことは想像に難くない。
その反面で、型にはまった、決まり切った清楚で品の良いつまらない女性よりも、自分の意思を持って未来を切り開く強い女性に魅力を感じた男性も当時多かったに違いない。プレヴォーのマノンの他、『椿姫』のマルグリットもまさにそういう女性だった(作者である小デュマの月と金星は獅子座である)。

と、月のアスペクトを中心に見たが、金星が牡牛座というのもマノンのキャラクターに影響しているのだろう。マノンは贅沢が大好きで、部屋のインテリアや服装にとてもお金をかけていた。この辺りはとても牡牛座の金星らしい。
プレヴォーのホロスコープは牡羊座の太陽火星がタイトなコンジャンクションで、火のエレメントの要素が強い。一転、他のエレメントは牡牛座の金星のみである。
それを念頭において作品を読んでみるならば、たしかに主人公のデ・グリュは生まれながらの上流階級で、今まで金に困ったことはなかったし、金や自分の地位を大事と思ったことがなかった。堅実さよりも情熱やロマンを大事にする、世間知らずで浮世離れした青年である。金を稼ぐにしても単にマノンを引きつけるため、ひいては自分のプライドを保つための道具として、である。地に足を着けて、お金や生活を長く続けていく気は全くない。例えば、マノン=主人公自身の牡牛座の金星の象徴と見るならば、彼女(金星)としっかり向き合わなければ、いくら稼いでも稼いでも決して満たされることはないのである。もちろん、マノンを現実の女性としても同じことが言えるのだが。
リズ・グリーン流に言うならば、これは抑圧された地のエレメントからの無意識の復讐である…と言えるのかもしれない。ようは、上手く自分の欲望を制御し切れなかった、ということだろうか。筆者としては、夢見がちなロマンばかり追って、現実をちゃんと生きていなかった報いというところか。

ということで、プレヴォーの『マノン・レスコー』とは作者自身の、破滅的かつ魅力的な理想の女性を描き切った作品であり、そのアニマを体現する姿は今なお我々に様々な教訓−−例えば女性の付き合い方やらお金のことやら−−を与えてくれるのである。

作品はこちら↓

同じくファム・ファタールものを読みたい方は、小デュマの『椿姫』もおすすめ。オペラとしても有名なので教養として読んでおいても損にはならないだろう。
また、小デュマはこれを書くにあたってプレヴォーをかなり参考にしたらしく、似通った部分がよく見られる。牡羊座と獅子座で行動や心理が微妙に違うので、比較してみても面白い。


そして、我ら日本人が誇る文豪、谷崎潤一郎の傑作である『痴人の愛』。(文豪の後に(笑)と入れるか悩むところだが)。谷崎潤一郎も獅子座で、プレヴォーや小デュマと似たようなところはありつつ、お得意のサディズムとマゾヒズムがミックスされていて、また違った味わいの物語となっている。

谷崎潤一郎はただの変態と誤解されやすいが、ホロスコープの観点で言えば日本で五本の指に入るくらい複雑怪奇で面白いので、今度改めてレポートを書きたいと思っている。

2020/04/14

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