見出し画像

レジ

「久しぶり」
そう呼びかけられて、ふと前を向くと知った顔があった。僕の自分勝手な自己陶酔の果てに悲しみと青春の痛みを与えてしまった彼女が。
気怠いコンビニの深夜バイトが始まった冷たい春の夜の初めに彼女は現れた。

「引っ越ししてここ近所だからよく来るんだよね。」
そんなことを言っていたかもしれない。そんなことがわからなくなるくらい僕はショートした機械のように停止する。大学から近いからという理由だけでバイト先を選んだ自分に拍手を送りたい。

「今は何をしているの?」
彼女は社会人1年生。その存在が眩しすぎて、もう遠い存在になってしまったことを改めて思い知らせる。一方、僕はまだあの時の葛藤からなかなか抜け出せなくて違反付きの大学5年生だ。

「本当に馬鹿だね。」
飽きれ心配そうな顔で笑いながら彼女は言う。何度もその顔を見たいと思った。こうやって話していると昔と変わらない。昔より髪は伸びて大人っぽくなったとこは違うけれど。その笑顔は同じだ。

本当は謝りたかった。
悲しい思いをさせてごめん。
辛い思いをさせてごめん。
もうそんなことしないから。

「これからどうするの?」
そう聞かれてもわからない。僕はその答えを探している。
綿菓子のようには甘くないふわふわしたこと言うことしかいえなかった。

「いろいろあるけど頑張ってね」
そう言い捨てて、彼女は去っていった。

あの時の懐かしい匂いがした。

読んでくださり,ありがとうございます。