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『博士と狂人』

初版の発行まで70年を費やし、世界最高峰と称される「オックスフォード英語大辞典」の誕生秘話を、メル・ギブソンとショーン・ペンの初共演で映画化。原作は、全米でベストセラーとなったノンフィクション「博士と狂人 世界最高の辞書OEDの誕生秘話」。貧しい家庭に生まれ、学士号を持たない異端の学者マレー。エリートでありながら、精神を病んだアメリカ人の元軍医で殺人犯のマイナー。2人の天才は、辞典作りという壮大なロマンを共有し、固い絆で結ばれていく。しかし、犯罪者が大英帝国の威信をかけた辞典作りに協力していることが明るみとなり、時の内務大臣ウィンストン・チャーチルや王室をも巻き込んだ事態へと発展してしまう。マレー博士役をギブソン、マイナー役をペンがそれぞれ演じるほか、ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のナタリー・ドーマー、「おみおくりの作法」のエディ・マーサンらが脇を固める。(映画.com https://eiga.com/movie/87566/ より引用)

 メル・ギブソン、執念の人である。

主演を務めるメル・ギブソンが原作小説の映画化に真っ先に名乗り出たのが20年前。これを聞いただけでも気が遠くなるような話だが、実際にOEDが完成するまでに70年掛かっているというのもとんでもない(マレーも少なくとも20年以上OEDに関わっている…)。どちらも本当にあった事というのが恐ろしい。

 そんな執念に取り憑かれたようなメル・ギブソンとの相手は生半可な人間では務まらないだろう。20年。生まれた子供が成人になる年月だ。だが、ここで登場するのが名優中の名優ショーン・ペン。この番付だけでもうとんでもない勝負が始まる予感しかしない。

 映画は原作にあったディテールを攻めていくスタイルとは打って変わり、人間模様に重点を置き映画的な味付けをしっかり付けた印象だった。

 特にマイナーと未亡人・イライザとの恋愛模様が相当脚色されている。この脚色が映画の決定的な転換点(マイナーの自傷行為)への導入をスムーズにする、潤滑油の役割を果たしておりその手際は大変見事だと感じた。原作ではマイナーが自らの手で去勢を行ったあとに、どうしてそうなったかの説明が後でされるのだが、映画ではイライザとの関係が結構丹念に描かれているからマイナーの行いへの納得がしやすい(それでも支離滅裂ではあるが)。また、マレーがウインストン・チャーチル(当時の内務大臣)にマイナーの釈放を求めるシーンも劇的に演出されている。

 ただ、観ている最中に気になった点は時間の流れがほとんど分からなくて微妙に混乱をしてしまう点だけ。マイナーが仕事を始めてから2年経っていたり、マレーとマイナーの文通は実は20年近くに渡っていることもわかりにくい。その点はマレーの子供の成長具合をよく見てみるとわかったのかもしれないが。が、そういった欠点すらも映画を観ている最中は気にならないのが監督の手際の良さとでも言うべきだろう。

 


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