ウィキペディアが好きというだけの話
ウィキペディアというインターネット百科事典がある。
万物の記事を万人が閲覧・編纂できるという、人類の知の結晶だ。
難解な物理学の理論からパンの袋の留め具の名前まで、分からないことがあればウィキペディア。知りたいことがあればウィキペディア。
多くの現代人がこの百科辞典の世話になってきたはずだ。
僕はウィキペディアが好きだ。
単なる百科事典としての便利さもさることながら、何よりも、記事中の単語に「別の記事へのリンク」が張ってあるのが素晴らしい。
何か調べたいことがあって記事を読んでいたはずなのに、気が付けば全く関係ない記事に飛んで、その内容に没頭している自分がいるのだ。
このnoteを書きながら、すでにブラウザにウィキペディアのタブがどんどん増殖し始めている。
そもそもタブ開きすぎなんだけど、こういう性分なので……。
リンク先の記事を読みながら気になるリンクをまた別のタブで開いて、どんどん読んでいく。
それを読んで何かを得たいわけじゃない。
ただ読みたいから読むだけ。
ただ知りたいから知るだけ。
言わば、知的好奇心に任せた道草的な大冒険だ。
実用的な知識というメインストリートから逸れて、未開の知の原野をかき分けていく楽しさったらない。
小さい頃から、商品パッケージに書かれた細かい文字を読んでは親に「活字中毒だねほんとに!」と言われてきた僕にとって、ウィキペディアは大量のエサを与えてくれる偉大な存在なのだ。
そういうわけで、僕はこのインターネット百科事典が好きだ。
もちろん、ウィキペディアの全てを肯定する訳じゃない。
出典不明の怪しい記事も溢れているし、「俺っち、ウィキペディアに載ってるんだぜ」なんて言いたいだけの人が自分で編集しているような人名記事もたくさんある。
万人が自由に編纂できる以上、情報の正確性は書物のそれに比べてもちろん低くなるので、このサービスを頼りにレポートや論文、新聞記事などを書くのは軽率な行為だろう。
とは言え、画面の前にいる読者諸君はnoteを駆使しているくらいだから、相当のインターネットリテラシーがあるとお見受けする。
インターネットの情報の不確かさは心得ているだろう。心配いるまい。
それになんと言うか、欠点がある方がカワイイじゃないか。
ウィキペディアの全ての記事が完璧だったら、それはそれでディストピア的な怖さがある。アカシックレコードじゃあるまいし。
ちなみにウィキペディアには自己批判的な記事もあったりする。
ちょっと人間臭さがあっていい。
・ウィキペディアへの批判
・なぜウィキペディアは素晴らしくないのか
さて、つらつらと書いてしまったが、僕がウィキペディアのヘビーユーザー……というか道草食いだということはお分かりいただけたかと思う。
調べるべきものをほったらかしにして、多くの時間を道草に費やしてきた。
その時間をすっかり無為にしてしまうのも、何となく気が引けるってもんだ。
そこで、僕がウィキペディアをさまよって見つけた、その道草の成果たる「面白い記事」をnoteで紹介していきたい。
どうだ、陳腐な発想だろう。
そんなもんGoogleで「ウィキペディア 面白い記事」と調べればいくらでも記事が羅列されたページが出てくる、確かにそうだ。
僕もそういうサイトを見て、知的好奇心の旅に出かけてきた。
だが、そういったページはあくまでも記事のタイトルとリンクを羅列してあるだけだ。
記事の詳細が書いてあったとしても、ほんのさわりだけ。
僕はもう少し発信する側として、読者に歩み寄ってみたい。
同じように羅列するだけなら簡単だが、そんなことをすると僕の心の中にいる、意識の高い方の僕が「そんなんで”伝えた”と言えるのか貴様!!!」と怒り出すだろう。
だから、「リンク張っとくから読んどいて~」的な文章にせずに、「こんなことあったんよ!!」「こんな人がいたんだぜ!!」という熱量で書いてみる。
ウィキペディアの記事はちょっと形式ばっているところがあるので、そのあたりも噛み砕きながら。
別にページビューを稼ぎたいわけでもないし、いいね!を貰いたいわけでもない。
これまでウィキペディアの記事を読みたいように読んできたように、このnoteでは書きたい欲求のままに好きに書いていくのだ。
うそです。いいね貰えると嬉しいです。
そんなわけで、基本的には一記事ずつ紹介しようと思う。
noteには「マガジン」という記事をひとまとめにできるサービスがあるようなので、それを使っていく。
いま読んでもらっているこの記事もマガジンに入れておくので、購読してもらえると嬉しい。
(ウィキペディアに乗っかっている分際だし、お金なんて取らないよ)
ただの所信表明なのでこの辺で筆を置こうかとも思ったが、せっかくなので予行演習を兼ねて記事を一つ紹介したい。
偽エチオピア皇帝事件
・1910年にイギリスで起きたいたずら事件
・大学生が偽のエチオピア皇帝とその随行団に変装して、イギリス海軍の戦艦に乗り込んだ
ずいぶん古い時代の記事からのスタートになってしまったが、気に入っている話なので紹介したい。
1910年と言えば今から100年以上も前だ。
日露戦争や第一次世界大戦があった二十世紀初頭、軍隊は今よりもずっと存在感のある組織だっただろう。
そんなご時世に、一介の学生グループが天下のイギリス海軍を相手にヘンテコないたずらをやってのけたのだ。
この壮大ないたずらの実行にあたって、彼らはまず、外務省のお偉いさんの名前でイギリス海軍本部に「戦艦ドレッドノートでポートランドまで行って、エチオピアの王族一行を迎えてくれ」という指示を電報で送った。
電報を受け取った海軍はまんまと騙されて、戦艦を向かわせてしまう。
ちなみにドレッドノートはイギリス海軍を代表する大型戦艦で、日本でも「超ド級」という言葉にその名前が残っているよ。
学生たちは「エチオピア王族ご一行さま」に見えるようにそれぞれ変装し、海軍は電報で指示された通りにポートランドで彼らを歓迎した。
戦艦にたやすく乗り込んだ学生たちは、担当者に艦内を案内されながらロンドンまでの船旅を存分に楽しむことに。
偽エチオピア皇帝たちはあらゆるものを指さして「ブンガ、ブンガ!(Bunga, bunga!)」と意味のない言葉を叫んで褒め称え、士官たちに偽の勲章を授与した。
海軍士官たちはうやうやしく、勲章を受け取ったに違いない。
「人は見た目が9割」なんて本もあったが、この事件に関して言えば文句なしの10割だろう。
それっぽく変装してはいるが、エチオピアの民族衣装とはかけ離れたものだった。一番左の人物は付けひげをした女学生である。
かくして、偽エチオピア皇帝たちはロンドンに到着してしまった。
誰にも気付かれず、あまりにもあっさりと。
海軍には一人、エチオピアに詳しい将校がいたらしいが、学生たちはその人物が長期出張中だということを事前に調べていたという。
なんという周到さだ。
出迎えたイギリス海軍が「ザンジバル」という別の国の国歌を演奏してしまうというトラブルもあったが、どちらもそれに気付かなかったらしい。
絵面が間抜けすぎやしないか……。
ロンドンに降り立った学生たちは、デイリー・ミラーという新聞社に「王族」の写真を送りつけ、ネタばらしをして真相が明らかになった。
この事件を翌日の新聞各社は大きく取り上げ、メンツを失ったイギリス海軍は学生たちを海軍大臣室に呼び出したが、法律を犯したわけではなかったために罪には問うことはできなかったという。
大英帝国海軍の威光に泥を塗られたんだから、何かしらの理由を付けて痛めつけてもおかしくないような気がするが、法に触れていないという一点で放免するイギリスはやはり紳士の国なのだろうか。
ただ、学生たちは逮捕されることはなかったものの、世間からは「非国民だ!」と批判を受けたという。
以上、偽エチオピア皇帝事件でした。
馬鹿と天才は紙一重、という言葉を聞くと思い浮かべる記事の一つ。
いい記事でした。それではまた。
ちなみに、写真の一番左に写っていた女性はのちにヴァージニア・ウルフという名前で小説を書いて、イギリスを代表する作家となったよ。
自己投資します……!なんて書くと嘘っぽいので、正直に言うと好きなだけアポロチョコを買います!!食べさせてください!!