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やめておけば、よかった04

04 傷だらけの犬

このまま忘れておけば、何事もなく日常に戻れただろう。けど思い出してしまった今は、無視した方が後味が悪い。

私は、彼に会わなければならない。素性も分からない幸薄美青年に。

「いや、見る人が見れば美味しい状況だけどね」

ご褒美って思える程、日頃の徳を積んでいないので。ひねくれてるって言われたらそれまでだけど、どうしても悪い方にしか考えられない。嫌な女だよね、私。

「君もさ…律儀に返さなくていいから」

コンビニの袋を提げて、儚げに笑う青年に声をかけた。あぁ、もう本当に。昨日もだったけど、何でこの子はこんな綺麗に笑えるのかしら。女として自信が無くなるくらい整った顔…。目の保養を通り越して憎たらしく見える。

「お姉さん、昨日はありがとうございました」

彼は立ち上がって軽く会釈した。えらくヒョロっとしていて…モデル体型って言えば良く見えるけど、傷んだ髪や薄汚れた服のせいで不健康なイメージ強い。

彼はポケットからクシャクシャになったティッシュを取り出し、中を確認してから渡してきた。両手を添えて、感謝をするように。

「ありがとうございました。これ、借りてたお金です」

「……だから、それは上げるから。ったく、今日はお金を受け取りに来たんじゃないの。ほら、どうせ今日も何も食べてないんでしょ?」

買ってきたサンドイッチや飲み物を渡して、さっさと帰るつもりだったのに。彼が一向に受け取ってくれないから、二人して途方に暮れてしまった。

「……それじゃ、ここに置いておくから、いらないなら捨てておいて」

「え、あ…!待って、俺…」

だから、その捨てられた犬みたいな顔、止めて。私が悪いみたいじゃない…。責められてる気分になって、いい気持ちになれない。

「…君ってさ、何歳?」

「え、18歳ですけど…」

ギリギリセーフ?いや、未成年だからアウトか。境界線なんて気にしたことないから分からない。そもそもこんな時間にこんな場所にいるのは良くない。私みたいな人間になるな、青年。

「帰りなよ、家に。補導されるよ?」

君の為を思って言ってあげてるんだから、そんな顔しないでよ。私に感謝してるなら、忠告を聞いて私を良い人にしてよ。

けど彼は、眉間に皺を寄せるだけで、黙り込んでしまった。反抗的な態度がカッコいいと思う年頃なのかしら。

「ーー家には帰りたくないんです」

「…何で?」

しばらくの沈黙の後、彼は迷うようにシャツの裾を握りしめた。そして少し捲って…帰りたくない理由を見せてくれた。

「帰ったら、殴られるから……痛いのは、いやだ」

真っ白い肌に、青黒い痣。古い傷跡、歪んだ皮膚。彼は暴力の的になった弱者だった。


……To be continued



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