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左利きの大型センターバック渡邊泰基:2023 J1 第15節 アルビレックス新潟×ガンバ大阪

とんでもない塩試合を見せつけられた俺たちの新潟。これは半端ない負けっぷりだった。

そんな試合でも今後の明るい材料として扱えるのは渡邊泰基のセンターバック起用である。左サイドバックとして出場した第4節の川崎戦で家長山根を完全に抑え込んだプレイは記憶に新しいが、シーズン途中でセンターバックへとコンバートされてパフォーマンスも上々である。

そんな渡邊泰基が今後大活躍することを予想しつつ、泰基に要求されるプレイとはどういったものになるのかという部分を解説していきたい。

左利きの大型センターバック

泰基のプレイヤーとしての特徴は身長180cmで左利きという要素となる。センターバックをこなすには十分となる身長とセンターバックとしてはレアなスキルの左利きである。何よりも新潟の下部組織で育った地元っ子である。

エルゴラ選手名鑑アプリで検索すると左利きのセンターバックはJリーグ全体で49人で身長180cm以上となると39人。右足のセンターバックが216人ということを考えれば稀少性が高いと言える。代表クラスだと川崎の車屋とかマリノスの角田、札幌の福森などがいる。今シーズンからは湘南の杉岡も左利きのセンターバックとして活躍しているし、浦和のホイブラーテンもいる。2025年に新潟への新加入が発表された稲村隼翔も左利きのセンターバックである。2年後であってもスタイルは絶対に変えない宣言をしてくれた俺たちの新潟。

ではなぜ左利きのセンターバックなのかということになる。

左利きのセンターバックは稀少性が高いばかりでなく、新潟のように最後方から繋ぐことをスタイルとしてるサッカーにおいて戦術的に非常に有益な存在なのだ。

サッカー経験者なら「それ説明いる?」という直感的なレベルの話でしかないのだが、サッカー経験がない人には左利きセンターバックを意識して観戦すると新しい発見があるのではないだろうか。今回のnoteはサッカー経験者が読んだところでなにも得るものはない。

まずは、左利きのセンターバックが左のエリアでボールを持つケースを想像してもらいたい。多くの場合は右方向からパスが来る。

この時、左利きなら左足で受けて左足でそのまま精度高く蹴ることができるし、ロブやフィードを左足インフロントで蹴るとタッチライン側からピッチ内側に落ちるボールとなるのでタッチラインを割りにくいし遠くまで蹴れてサイドハーフやサイドバックがトラップというアクションを気にせず爆走するだけで良くなる。アーリークロスを蹴ればマイナス方向のキックとなるのでキーパーが触りにくいボールを蹴ることもできる。

左サイドにおいて左足で蹴るとタッチラインを破らないのでより遠くまでボールを飛ばすことができる。アーリークロスならキーパーから逃げるボールとなる。

こういったキックアングルの話は大事な要素になるのだが、右から来るボールを受けるそれ以前、左足で受ける動作の流れの中で体の向きがピッチ正面を向くことになるので最後方から前方を広い視野で捉えることが必然となる。いわゆるオープンな状態で受けることができるというやつだ。育成年代では「パスは遠い方の足で受けろ」と言われたりもする。とにかく遠い方の足で受けると結果的に視野が確保できるのである。

右から来るボールを左足で受けると正面を向く必然。ボールを持ち替えずに次の動作に繋げることもできる。右足で受けると左サイドの視野を確保できない。

この所作、プロレベルなら右利きだろうが左利きだろうが違いとして出にくいのかもしれないが、相手にプレスを掛けられた時に左利きのセンターバックであることのメリットが大きく現れる。

ボールを受けた状態でプレスを掛けられた際、左センターバックの位置において右足でボールを持つとプレスに対してボールを晒してしまうことになるが、左利きなら精度の高い技術でボールを隠すことができる。隠すことができれば奪われにくいし、左足で蹴ればプレスの届かない場所から安全にパスを通すこともできる。

左足でボールを扱えると内側からのプレスに対応しやすい。

こういった理由から、後ろから繋ぐチームであれば左右両方遜色なくボールを散らしたいのは必然。

右利きと左利きの両方のセンターバックを揃えられるのであれば揃えた方がいいのだが、左利きで長身フィジカルと足下の技術も持ち合わせたセンターバックの稀少性から実現できるチームはそう多くない。

以上が左利きのセンターバックが有益である所以である。

これを踏まえて泰基のプレイを確認してみよう。

泰基のパス分布。左足で左サイドに通すのが基本だが縦パス一閃も光る。右足のパスはコンドゥクシオンからの流れ。キーパーから逃げる軌道のアーリークロスにも期待したい。

左足で左サイドに蹴る場合、状況からしてレシーバーのミス以外でインターセプトされることは基本的にない。右足で蹴る場合と左足で蹴る場合のパス角度の違いというのは非常に重要なのである。

サイドバックとして長くプレイしていたこともあり足下の技術は十分だしプレスを外してコンドゥクシオンで持ち上がるタイミングも会得している。左足でボールを持ってコンドゥクシオンができるので内側からのプレスをいなしてモリモリ持ち上がることができる。千葉も左サイドでモリモリとコンドゥクシオンで持ち上がるが、左利きが左サイドでコンドゥクシオンするのはより高い質が担保されるということになる。

とにかく、マイケルからのボールをオープンな姿勢で左足で受けると同時に前進する所作が本当に美しい。トラップとドリブル&ランがシームレスに繋がっているコントロールオリエンタードなのだが、コンドゥクシオンと言えば渡邊泰基と呼ばれる日がくる予感さえする。

個別のプレイをピックアップすると、後半69:20のインターセプトからのダブルタッチ→サイドチェンジはロマン溢れすぎていたし、後半86:35の高木に付けた30mの閉じている守備を切り裂いた縦パス一閃にも痺れた。後半91:00には中央でジェバリにいなされてサイドを抜け出されたが猛烈ダッシュでカウンターを止めて素早くリスタートという試合を諦めない姿勢にも惚れる。

新潟のセンターバックとして必要なものを全て獲得している渡邊泰基。これからの活躍に期待せずにはいられない。

試合雑感

全く出口の見えない最下位ガンバにはさすがに勝つだろうと思っていたら、とんでもない塩試合を見せられた。これはキツい!

ガンバの守備については後述するが、新潟はいつも通りにやればいいのに何故か相手のやり方に合わせてしまう。

新潟攻撃時にはジェバリが空気で実質11対10なんだからなんでもやりたい放題のはずなのにどうしてこうなってしまうのか。谷口と高木のパフォーマンスがなかなか上がらない(高木は後半動けるようになった)。

ガンバの守備は4231ゾーンと呼ばれるものなのだが、正直練度もスペックも足りていない。

4231ゾーンは523ペンタゴンの上位互換というか、よりプレイヤーの基本スペックが要求される守備なのでガンバのスカッドと噛み合っていなさすぎた。この守備は新潟シフトだったとのことでいつものやり方じゃなかったみたいなんだけど、ガンバはこの試合開始前時点で失点30とワースト2位なので守備に課題があるチームがやる守備戦術じゃない。

4231ゾーン、2-3のブロックで中央封鎖しつつワントップが猟犬超プレスでボールをサイドに追い込んでサイドハーフやサイドバックで奪い切るというものになるので、あそこまで動かないワントップだと実質9人で守備しているようなもの。

攻略のセオリーとしてはコンドゥクシオンや新潟式523ペンタゴン攻略法のヤンをど真ん中に置いてペンタゴンを内部から破壊というものになるのだが、千葉が開始直後のフワフワ失点を引きずっているのか全然持ち上がらない。持ち上がらない何かがピッチ上にはあるのかもしれないが。

※改めて観たらペンタゴンの中央から崩そうとしていたがガンバが付き合ってくれないので意味なし!みたいな流れだった。噛み合わねぇぇぇぇ!!!!!!

ガンバは特にプレスしてこなくてブロックという構え。新潟が前に運ばないので結果として相対的にガンバの人数が多く新潟陣内に残る状況に。

ガンバのミドルブロックは特に機能していなくて、新潟が押し込むとガンバが亀になるのでそこに引っ掛かってカウンターというのが全体的な流れ。先制点がとにかく痛かった。とはいえ、ブロックに恐れずいつものようにトライアングル作ってロンドするだけで良かったんじゃないか?とは思う。

ガンバが勝てない理由、これは監督とスカッドのミスマッチとしか言いようがない。中学生に微分積分教えようとしているような感じじゃないないだろうか。ポヤトス監督も多分譲歩できないというか監督と選手の前提知識が違いすぎるんじゃないかな?と思ったけど試合後インタビューではやれてるのに勝てないという状況らしい。ポヤトス監督がそんなだとは思いたくないが、結果だけ眺めると勝てなかった時の岩政鹿島と同じ状況。

この試合の後半は勝ち点3が取れるかどうかという興味しか無くなってしまった塩試合なのだが、何か盛り上がる要素が欲しかったものの結局90分ずっと塩試合を見せつけられて辛い。

鹿島横浜FC柏そしてガンバと何故か下位と上手く戦えない。後半は前半よりも楽しめまたけど3失点ともあり得ない失点シーンで頭抱える。なんだかんだでジェバリが凄くて、ガンバはジェハリに預けてあとはよろしくのスタイルがどう考えても強いだろと言いたい。

勝たなくてはいけないのは当然なのだが、数年単位の長期的に新潟のフットボールを育てているという視点に立てばこういった敗戦も気持ちの整理ができる。新潟のフットボールとは中野社長の言う選手コーチサポーターステークホルダー、そして新潟県という視点でのフットボールなのだ。秋春制なぁ。

高木や谷口の起用に違和感を持つ人は一定数いると思うが、札束で殴って選手を獲れない新潟は現有戦力でなんとかしなくてはいけないので、なんとしてでも谷口高木には輝いてもらわなくてはならない。輝くためには一定時間試合に出る必要がある。サッカーはサッカーをする事で上手くなるのだ。

高木は後半持ち味を出してきたので、もしかしたら涼太郎との併用が良く無いのかもしれない。昨シーズンの至恩が抜けた後の高木トップ下で涼太郎が左サイドという形が良いのかもしれない。

Twitter眺めていたら高木起用は涼太郎が夏移籍だからみたいなこと書いてあって、そう言われればそれなのか。現有戦力だとシマブク、小見、星、陣平あたりがコンバート含めてピースになるんだろうか。

ネスカウはかなり良くなってきた。見ていて心理的に何か変化があったんだろうなと思う表情とプレイだし、孝司と似たような動きを意図的にしているシーンもいくつかあった。ネスカウは時間を掛けて2年後くらいに「ネスカウ最初の頃はな」みたいな思い出話がしたい。新潟式フットボールに欠かせない偽9番を標準装備しつつ自分のストロングを活かせるフットボーラーになってほしい。

そして谷口。これはちょっと根が深そうでマズイ。正直今日も何も出来ずに終わってしまった。セカンドボールも拾えずターンエンドというシーンも散見されてチームに貢献できていないのだが、そんなのは本人が一番苦しんでいるところだと思う。とにかく頑張ってくれとしか言いようがない。

とんでもない塩試合でしたが、不思議と色々語れるな。

「これでわかった!サッカーのしくみ」をコンセプトにアルビレックス新潟の試合雑感を中心に書いています。