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彼は秘密の女ともだち

飯田橋のギンレイホールの年パス買って、今年はいっぱい映画が観れるとホクホクしている。ギンレイホールは今や少なくなってしまった名画座で、今でも2本立てで上映している。年パス買うと放映されるものはできるだけ観たいので、選んで観るということをしなくなるのだけど、思わぬ名作に出会うこともある。ギンレイで観る映画は、基本的にあまり予習しないで観る。この日も何をやるのかもよく分からず観に行ったのだけど、「彼は秘密の女ともだち」という映画だった。”彼”は”女ともだち”なのね。そのまんま、彼が彼女になるんだけど、いやあ、ぶっ飛んでた。

観終った後知ったけど、監督はフランソワ・オゾンだった。この監督の作品はいくつか観ててわりと好き。「スイミングプール」なんてすごくいい。この作品も「スイミングプール」も、下手な人が撮ったら観ていられないようなストーリーだと思う。

俳優も大好きな「スパニッシュアパートメント」のロマン・デュリスだった。スパニッシュアパートメントの後「ロシアンドールズ」「ニューヨークの巴里夫」と続編があるんだけど、私は彼と同じ歳で、映画も彼の年齢に合わせて話が展開していくから、自分を重ねて観て来たし、やはり同じ時代を生きてる人なので、勝手に親近感を持ってる俳優。

そんなロマン・デュリスが、オジサンになったロマン・デュリスが、女装してた。それも、コメディじゃなくてシリアスに。もうその辺が何とも微妙で、美しいと言えなくもないけど完全に男なわけで、彼って華奢だと思ってたけど、やっぱり本物の女性と並ぶと大きいのね。ものすごくごつい。正直、設定だけでコメディにしかならない感じがするんだけど、そこはオゾン、やっぱりすごい。

最初は主人公であるクレールの親友ローラのお葬式シーンから始まる。ふたりが幼かった頃から結婚するまでの回想シーンが続くのだけど、幼い頃のふたりのシーンなんてそれはそれは美しい。実にフランス映画らしい美しく危ういロリータ映画みたい。それが、クレールがローラの旦那さん、ダヴィッドを訪れるところからガラリと変る。いきなりここで彼の女装を見ちゃうというね。

彼は女装が好きだったけど、ローラと結婚している間はその欲求がなかった。でもローラが亡くなってまた女装したくなってしまう。そしてクレールに買い物に付き合ってくれるように頼み、そこからふたり、つまりクレールと女装したダヴィッド(ヴィルジニア)は会うようになり…という展開。ダヴィッドは女装が好きだけど、男性が好きなわけじゃないのね。好きになるのは女性。そしてクレールはすごく素敵な旦那さんがいて、夫婦関係はわりと順調。なのにヴィルジニアに惹かれていく。ダヴィッドじゃなくて、女装したヴィルジニアが大好きという、もう訳がワカラン状態。

なんだけど、そんな訳分からん状態の話なのに、惹きこまれていくし分かるような気がしてくるのがオゾンのスゴイところだと思う。ダヴィッドの美しくなりたいという切ない思い。ごつくて大女だけど女装している時は自分らしくいられる。少し痛々しくて、でもどこか清々しい。そしてクレールと惹かれあっていく。

性別を超えて、それぞれ人間として大好きなんだろうから、それならそれでいいのではないかという気持ちになる。なにより心と体のギャップによる切なさ。自分自身がそれほど性に拘りがないというか、絶対女の格好じゃなきゃ嫌!みたいなのがなくて、もし男に生まれてたらそういうもんだと思って男をやってる気がするのでそこまで深くは分からないのだけど、ロマン・デュリスが上手なのか、ごついオカマであるという演出が上手いのか、痛々しさと切なさをぎゅーっと感じました。クレール役の女の子も控え目だけど可愛くて、少しずつ大胆になっていく様子がよかったです。