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『LIVE / Hitomi Nishiyama Trio parallax』 ライナーノート


2020年9月末日、ホームグラウンドとして演奏していた神戸のライブ・スペースが閉店しました。

こちらで録音したライブ・アルバム『LIVE』(2016年4月発売)は、一般販売ではライナーノートを付けておらず、ライブ会場でご購入した方にのみ、私の書いたライナーノートを付けておりました。

その全文を、下記に置いておきます。


▶▶ liner notes

2016年は、私がスパイス・オブ・ライフからデビューアルバム『CUBIUM』をリリースして、ちょうど10年にあたります。その10年目に、休止を挟みながらも変わらず続けてきたバンド、パララックスのライブアルバムをリリースする運びとなりました。
今回の録音は、神戸のクレオールというライブスペースで、2日間のライブを録音したものです。2015年は例年になく定期的にバンドでライブができたので、その勢いで年末に録音してしまおうということで、東京から信頼するエンジニアを呼んで録音しました。

ライブ盤を関西で録音したい、というのは、とても自然な気持ちです。よく全国各地で、「関西のライブは盛り上がるでしょう」と声をかけて頂くことがありますが、まあ盛り上がるといえば盛り上がりますし、静かな音楽の時はちゃんと静かに聴いて下さいますし、他の場所とそこまで変わらないです。
しかし、いつでも感じる関西が他の地域と少し違う部分は、お客さんがよく笑うことと、休憩時間が賑やかで、偶然隣り合わせた方とすぐ喋って仲良くなったりしていることです。こればかりは本当に土地柄だなあと、いつも見ていて思います。
こういう環境で演奏活動を始めていますから、やっぱりこの環境が愛おしいんですよね。

今回の録音場所である神戸のライブスペース・クレオールは、開店以来12年にわたり出演し続けている、私のホームグラウンドのライブハウスです。パララックスの最初のライブもここで行いましたし、CD発売ライブやコンペティションの受賞記念、自分の主催イベント、自分のキャリアの何かの節目に必ずお世話になっていた、大事な場所です。こちらは三ノ宮からハンター坂を上がったところにあり、北野の異人館に近い観光エリアなので、観光と絡めて来られるお客様もいらっしゃいます。お店はレンガ貼りの赤い建物で、店内も床は板張り、ホームページはオレンジ系。なので、ジャケットの色を決める時に、クレオールの色のイメージに近いオレンジ色を選びました。

パララックスは、開始当初は全員関西に住んでいましたが、その後皆住むところはバラバラになり、それぞれのフィールドで活動しています。それでもずっと一緒に演奏を続けられるのは、バンドとして居心地が良いのと、聴きたいと言ってくれる方が沢山いてブッキングしてくれるからで、本当にありがたいことだと思っています。他のバンドに比べ、デビュー前から長い期間やっている分だけあって、皆さんに支えて頂いて活動できているなあと、ライブのたびに実感しています。特に、関西でずっと応援して下さっていた方々と共に歩んできているので、やはり関西のライブを録音したいなと思っていました。

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バンドを始めた時と、活動環境も、私の音楽に対する考え方も、随分変わっています。それは勿論メンバーも同じことで、それぞれ悩みながら音楽を続けてきたのですから、変わって当然です。私はといえば、以前より頑張って曲を書かなくなりました。というのは、手を抜いているわけではなくて、メンバーに任せた方が面白いところは任せてしまえるように、自分に余裕ができたからだと思います。

以前のトリオからベースを坂崎君に替えて「パララックス」という固定バンドにした時に、音楽的にやりたかったことは、スピード感があり、メロディーは綺麗でキャッチーだけど、ハーモニーが練られて尖っているピアノトリオでした。
リズミックなアプローチのものは、テクニカルになるあまり、音楽の持つ歌の成分が希薄になる可能性があります。それに対し、いわゆる美メロと呼ばれるものは、メロディーの強さと美しさを強く押し出そうとすると、ジャズの持つリズムの推進力が削がれてしまうことも多くあります。ハーモニーを複雑にすると、どうしてもただ難解でとっつき難い音楽に陥りがちです。しかし、どの側面も振り切って充実させた音楽がやりたい。この3点をバランス良くクリアして、それぞれが推進力を持って良い影響を与えながら、ポップにも密度濃くも聴こえる楽しい音楽ができたらいいなと、曲を書いてバンドで演奏してきました。

今回のアルバムには、「Heavens Fall」、「Keys」、「Rainbow Pepper」の3曲が新曲として収録されていますが、3曲ともあまり書き込まず、とてもざっくりした曲です。
「Heavens Fall」は、テーマもソロも、常に全員同じウェイトでアンサンブルが進行するように気を付けて書きました。そのために全員が動けるスペースをとっています。
「Keys」はアリシア・キーズの「If I Ain’t Got You」の雰囲気に似せたポップなビートで、捻りは入れずにシンプルに書きました。それぞれが、ジャズを踏まえて演奏しなくてもいい、自然に歌えるような曲を書きたかったのです。
「Rainbow Pepper」は、ライブでお客さんと一緒に楽しめる曲を書こうと思って、お客さんの方を向いて演出を考えた曲で、ぜひライブで聴いて頂きたい曲です。
このバンドに限った話ではありませんが、以前よりは、自分が書きたいものというよりは、誰かの方を向いて曲を書くことの方が、圧倒的に多くなりました。今までの経験で学んだのは、誰かのプレイをイメージして曲を書くと、私が思っていたよりも必ず上回った素晴らしいプレイで返してくれるんですよね。これは私の想像が至らないのではなくて、ジャズミュージシャンという人種の、面白くて素晴らしい習性だと思います。
私はあなたのことをちゃんと考えていますよ、見ていますよ、聴いていますよ、というメッセージは、曲の中でもアンサンブルの中でも、必ず伝わるんですね。当たり前のことで、以前からわかっていたことではありますが、今、より一層深く実感しています。
話は少し逸れますが、演奏の現場だけでなく、例えばこうやってCD制作をする時に、ディレクター、デザイナー、A&Rなど、制作チームとの関わり方も、アンサンブルと全く同じだなと思います。それぞれが最大のパフォーマンスを発揮できて、良い仕事ができたなと思って頂けたら、リーダーとしてとても嬉しいです。

音楽は本当に面白いです。まぐれやミラクルは起こりません。ただ、自分に有るものしか出ないので、100%の自分を、技術力、音楽力、ジャズ力に加えて、人間として成長していかないといけないなと、デビュー10年目にして毎日実感しています。

20代前半の時に、「25歳までにはジャズミュージシャンとして一人前の仕事を。30歳までにはジャズミュージシャンとして自分だけにしかできない仕事を」という目標を立てていました。まだまだ全然できていないと思います。特に25歳からは、毎年思いも寄らない仕事や演奏機会が飛び込んでくるので、何かやってくるたびにそれに取り組んで、ということを繰り返して現在に至りますから、目標に向かうというよりは、結構行き当たりばったりでした。20歳ぐらいの時に、とあるミュージシャンの先輩に、仕事をするにあたって「迷った時は、よりチャレンジの難しい方を、逃げの選択にならない方を選ぶ」ということを言われた記憶があり、何か機会を与えてもらうたびに、その言葉を思い出しています。

これからの10年も、どんな形で音楽していくか、全く予想がつきません。時期によってメインで動くバンドが変わっていますが、このパララックスは、以前のように多少のブランクは挟んだとしても、これからも永く続けていくバンドだと思います。
以前、清水君が渡米のために3年間ライブを休んでいましたが、面白いなと思ったのが、バンドは休止ですけれどそれぞれがミュージシャンを休止しているわけではないので、また音を出した時に皆がそれぞれ前に進んでいるのがわかって、結果的に休止っていう休止じゃなかったんですよね。坂崎君も、清水君も、10年後もっと良いプレイヤーになっているでしょうから、私ももっと音楽充実させて次の10年を迎えたいです。
デビュー10周年のアニバーサリーイヤーだから、記念コンサートとかしないの?と言われますが、10年ぽっちで記念イベントやるのなんて、まだマラソンで言ったら10kmぐらいしか走っていない程度ですから、まだまだです。一生かけて、音楽をしていきたいと思っています。

2016年4月  西山 瞳

収録曲(録音日):
1. Heavens Fall ヘヴンズ・フォール (23日)
2. Keys キーズ (23日)
3. Move ムーヴ (22日)
4. Analemma アナレンマ (22日)
5. T.C.T. – Twelve Chord Tune -
 ティー・シー・ティー -トゥエルヴ・コード・チューン-(22日)
6. My Favorite Things マイ・フェヴァリット・シングス(22日)
7. T.C.T.S. – Twelve Chord Tune Six - ティー・シー・ティー・エス -トゥエルヴ・コード・チューン・シックス- (23日)
8. Rainbow Pepper レインボー・ペッパー (22日)

録音:神戸 acoustic live CREOLE、2015年12月22日、23日
プロデュース:西山瞳
録音エンジニア:春日洋
ジャケット写真:橋爪亮督
Special Thanks:秋田昌則 (Creole)  http://creole-live.net


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