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子どもっぽい

 ポーランド語の授業で、年齢を聞くイディオムを学んでいた時のこと。練習に、いつも明るいポーランド人教師のマグダレーナ先生が、学生一人一人に歳を聞いていった。私の番になり「マム、トゥシェジェシィチ、ラト!」と正直に自分の年齢を言うと、先生は聞き間違えたのかと思ったらしく、もう一度聴き直し、私がまた同じように答えると、さらに黒板に数字を書いて私に確かめた。私が頷くと「信じられない!」と驚愕の表情を見せた。私は昨年の9月に30歳になったけど、先生は22歳か23歳くらいだと思っていたという。日本のアニメが大好きで日本びいきなウクライナの女の子は、「日本人だからよ。日本人は歳をとっても若く見えるものよ」とフォローを入れてくれる。先生が私に「どうして?何か秘訣はあるの?」と聞くので、「そんなの、わからないよ。」と困っていると「わかった!寿司ね!私も明日から寿司を食べるわ!」と自己完結して、周囲を笑わせた。私は元々、背は低めだし、胸があまりなくて体の線も全体的に子供っぽいし、その時たまたま子どもっぽくみえる赤い刺繍のセーターを着ていたせいもあっただろう。

 年齢より「若く」みられるのはいいけど、ヨーロッパでは(多分他の多くの地域でも)「幼く」みられるという事は端的に言って「ばかっぽい」ということなので、もしそうなら恥ずべきことだな。でも、日本の女性たちの間では「幼く」みられることはそれほど悪いこととして認知されていないように思う。逆に幼く見られても喜ぶ女性の方が多いのではないか。「子どものように素直で正直な心」や、「子ども心を忘れない」はいい事だけれど、子どものように自分の好き嫌いだけでものを言ったり行ったり、自分の利益だけを考える分別を持たない大人が多くなれば、日本の社会はどうなってしまうだろう、と、少し悲観的になる。ちなみに、日本人がポーランド人たちからどう思われているかというと、「ポーカーフェイス(本心を見せない)」「先輩後輩文化が根付いていて、自分より年齢が上の人に対して敬いの気持ちがある」「コスプレが好き」「韓国と日本は仲が悪い」「毎日寿司を食べている」だって。

 画廊巡りをしたり、絵を描く人が集まる場所に行くと、高い確率で、子どものような目の輝きを持っていたり、少年や少女のようなオーラを纏ったような人に出会う。年齢不詳の人も多い。自分の世界に没頭していると、現実の時間の経過が止まるのだろうか、と思ってしまう。 私の周りで絵を描く人たちの中には、「数日間絵を描いていないと、ストレスが溜まってくる」「絵を描かなければ生きてはこれなかった」という人が何人もいる。そのような人たちの中には、感受性の強さ故に他人の集団である社会に適応できない、という理由であらゆる事を断念し、絵を描き続ける人もいるだろう。そういう人は、1人で行える制作を通して自己対話を始める。制作を通して自分の生きている実感を得たり、作品を通して始めて自分が存在する理由を確認することができる。そのような人たちが自分を出せる唯一の場所が画廊や展示会場だとしたら、そのような場に子どものまま大人になったように見える人が多いのは当然と言えば当然のことだ。

私も、制作中はまだ許されるとしても、その他の面では「幼い」から、脱さなければ。。

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