NotebookLM~Google Workspaceに搭載されたカスタム性の高い言語モデル
Googleは9月18日に「NotebookLM」が「Google Workspace」の追加サービスとして正式に利用できるようになったことを発表しました。現在、「Google Workspace」の全ユーザーとWorkspace Individualユーザーのほか、個人のGoogleアカウントでも利用可能になっています。個人のGoogleアカウントでも利用可能ということで、Gmail利用するユーザーであれば誰でも利用できる点がうれしいところです。
「NotebooLM」は2023年の夏にリリースされたGoogleの言語モデルです。ユーザーがアップロードしたドキュメントの内容を、AI技術によって整理・分類・管理でき、情報検索や検索を効率化します。
原則として、自分でアップロードしたドキュメントや資料のみがデータとして蓄積され、その中でリサーチや分析、共有といった作業が可能です。他のLLM(大規模言語モデル)のように、各社独自のデータセットやインターネット上の情報を含まないため、LLMの課題であるハルシネーション(不確かな情報を最もらしく回答してしまう状況)を高確率で回避できます。
また、基本的にチャット形式でのやり取り作業が完結します。複雑な設定は不要で、画面上の直感的な操作で作業が完了していく点も特徴です。
2024年6月にはGoogleの高精度LLMモデル「Gemini 1.5 Pro」を搭載した最新版が公開されました。Gemini 1.5 Proでは、優秀な自然言語処理と推論能力を発揮しています。また、一度に処理できるトークンは100万と膨大で、動画なら1時間、テキストなら70万前後の処理に対応できます。
「NotebookLM」には様々な機能が搭載されていますが、その中で主要なものを紹介します。
1. 高度な要約・検索・質問応答
ChatGPTなどの生成AIをイメージするときに真っ先に考える機能が要約・検索・質問応答だと思います。「NotebookLM」も言語モデルですから、これらの機能を有していますが、他のLLMと比較しても高度な情報処理能力をもつといえます。アップロードしたドキュメントやデータが膨大であっても、内容の読み取りから要点の抽出、要約まとめの提示まで迅速に完了します。また、検索能力も優れており、キーワード検索だけでなく文脈や背景を踏まえた検索が可能です。回答を生成する際には、インライン引用により根拠となる引用データと引用場所を紐づけて提示するため、クリックするだけで該当箇所へ瞬時に移動できます。
2. データアップロードと質問・指示
「NotebookLM」では、様々な形式のファイルをアップロードできます。
・Googleドライブ上のGoogleドキュメントやGoogleスライド
・PDFファイル
・txt形式のテキストファイル
・Webページ上のテキスト
「NotebookLM」はGoogleのツールであり、GoogleドキュメントやGoogleスライドなどのサービスとシームレスな連携が可能です。また、書類のスキャンやダウンロードしたPDFファイル、手持ちのパソコンで作成したtxt形式のテキストファイルにも対応しています。さらに、Webページ上のテキストをコピーし、直接貼り付けて取り込めます。様々なドキュメントをインポートし、内容に関する質問や指示をチャットで入力することで、必要な情報の検索や処理を簡単に行うことが可能です。
3. ノートの使用
チャットでのやり取りやインポートしたソースから、内容の引用を扱ったノートや独自のメモを作成、保存できます。また、ノートエディタに思考や観察を入力した後、ソースから関連情報をコピー&ペーストして、内容を充実させることが可能です。1つのノートブックに複数のドキュメントをアップロードし、横断的に情報を分析するといった使い方もできます。整理ツールを使ったグループ化も可能で、階層を作成、編集しながらまとめていくことができます。
4. チーム共有・管理
複数人とノートやメモを共有し、リアルタイムで共同編集できるため、情報共有やプロジェクト管理に役立ちます。アクセス権限は、閲覧者と編集者を分けられるため、ニーズに合った権限管理が可能です。閲覧者は読み取り専用ですが、編集者はメモの追加や削除などを行うことができます。
「NotebookLM」の特徴はアップロードしたものだけを蓄積する点になります。ネット上に散在するデータには信憑性の低いものも多くありますので、ネット上のデータを参照するタイプの検索では、ハルシネーションが起こり易く、回答の真偽を判断するにも受け手側の知識が必要になります。参照するデータをアップロードしたものに制限することでカスタムチャットが作成できるサービスといえるのが「NotebookLM」なのです。例えば、家電や設備製品の取説書を読み込ませておけば、故障や不具合が発生した際にチャットで状況を説明し、解決方法を参照することが可能です。また、辞書のような膨大なデータ量でも迅速に処理し、整理・分類することができます。また、専門的な知識が必要なとき、論文や書籍の情報は通常ネット上にはありませんが、「NotebookLM」に必要な論文や書籍を読み込ませておけば、膨大な情報量をスピーディーに読み込み、要約や解読が可能です。読み込ます情報もPDFなどでいいので、PDFデータになっている本を、丸ごと「NotebookLM」にインポートすれば、瞬時に要約が出力できるため、内容理解が進みます。要約した内容やデータをマインドマップ形式でまとめることも可能なので、研究論文など膨大な文章から、重要なポイントを抽出し、関係性を可視化したマインドマップを作成すれば、情報共有も促進できます。
カスタムチャットになりえる「NotebookLM」ですが、単に情報を指定できるだけではありません。
例えば、PCメーカーの電話サポートマニュアルを読み込ませ、「新しいプリンタを接続する方法についての問い合わせには、どう回答すればいいですか?」と質問すれば、マニュアルの該当部分を元にした説明が出力されます。これだけであれば、元のマニュアルをファイル内検索するだけでも事足りると思いますが、「NotebookLM」の強みは、複数の場所に散らばった情報から必要なものだけを抽出してまとめられる点にあります。情報元として使用したマニュアルでは、冒頭に会話全体の流れとルールが書かれ、その後、問い合わせ内容に対する設定方法などの説明が操作の種類別に並び、さらにその後ろに問題が解決しない場合のトラブルシューティングが掲載されていますから、マニュアルに沿って電話対応を行う場合、ファイル内の複数箇所を行き来しなくてはなりません。
こういったケースで、現在対応している電話に必要な情報だけをまとめて確認できるようになれば効率は大きく向上するはずです。
その場合、必要としている情報を具体的に指定して「新しいプリンタを接続する方法についての問い合わせへの対応方法を、通話開始から終了までの流れも含めて教えてください。」と「NotebookLM」のチャットに質問するとどうなるでしょうか。
先の回答がプリンタ設定のみであったのに対し、「通話開始から終了までの流れも含めて教えてください」と指定した今回の回答では、通話開始時のあいさつや問題把握のための質問方法、問題解決後のフォローアップなどまで含めた情報が出力されるのです。実際に、電話対応をする際の流れと同じ順序でまとめられているので、後はこの回答に沿って対応していくだけで済むことになります。
参照するマニュアルも単一のファイルではなく、複数のファイルが存在する場合にはさらにメリットを感じられると思います。対応内容によってマニュアルが分かれている場合や、マニュアルとは別に従業員の研修で使用したスライドがある場合も、関連資料をすべてソースとして追加しておけばそれらを横断して必要な情報を得ること可能になります。
また、回答の根拠を確認しやすいことも「NotebookLM」の強みといえます。回答内には引用元を示す番号が表示され、クリックするとソースの該当部分が表示されます。引用元は2分割された画面の片側に表示されるので、チャットの回答を見ながらソースの全文を確認することもできます。まさに、使用者に寄り添った形での回答をだしてくれるわけです。世の中にあるすべての情報を必要とする人はいません。必要な情報を正確に利用できること重要なのです。必要なファイルを読み込ませて利用できるカスタムチャットはまさに「痒い所に手が届く」有能なパートナーになるのではないでしょうか。
「NotebookLM」でサポートされているファイルもGoogleドキュメントやPDFなどの数種類で、1つのソースにつき最大500,000語という制限があるため、膨大な情報量の専門書などを利用する場合は、ソースを分割する必要があります。PCで英語の文章を入力する場合、A4サイズ1枚に500~600語入力できるとされていますので、500,000語だと833~1000枚分になります。
A4サイズの本はあまり見かけませんが、PDFだと考えても1000ページあればほとんどの書籍が対応できることになります。広辞苑のような辞書タイプでなければ利用できると判断してもいいと思います。1つのソース内の語数制限はありますが、ソースのファイル数には明確な制限はありません。1000ページを超える場合は、分割して読み込ませれば問題ありませんので、ほとんどの場合で気にする必要はないかもしれません。
AIが日進月歩で進歩していく中、「人間のパートナーとしてのAI」が出現しつつあります。実用的なの機能を搭載されたAIが溢れた社会で人間が振り回される未来がこないように、人間の側もブラッシュアップしていかなくてはいけませんね。