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クラウドサービスとAIの連携~GeminiによるGoogle Workspaceの新たな可能性

クラウドサービスが当たり前の世になり、日常で利用する人も多くいると思います。AIも、生成AIだけでなく、クラウドサービスの中に組み込まれる場面も増えています。

Microsoftは2023年2月に検索エンジンである「Bing」にAIチャット機能を搭載した「Bing AI」をリリースしました。現在は「Copilot」と名称を変更していますが、この名称からも分かるようにWindowsに搭載されているAIアシスタント「Copilot」は旧Bing AIを利用しています。ChatGPTで有名なOpenAIは2024年7月に「SearchGPT」を発表しました。SearchGPTは生成AIを用いてリンクを収集することで、ユーザーの質問に会話調で回答します。これにより、ユーザーが探しているものをより素早く容易に見つけられるようにするという仕組みだそうです。他にもAI チャットボットを活用した調査および会話型検索エンジン「Perplexity」など検索エンジンにAIを搭載することは相性がいいようです。

検索サービスといえばGoogleを思い出す人も多いかと思いますが、もちろんGoogleもAIをサービスに取り入れています。2023年8月にはGoogle検索の生成AI「SGE」が日本でも運用を開始し、2024年5月には自社が開発する生成AI「Gemini」を検索サービスに本格的導入し、文章で質問を入力すると生成AIが知りたいことを調べて回答をまとめる機能を盛り込むと発表しました。

こう見ると「AIって検索サービスだけ?」という印象を受けますが、生成AI同様、対話型で利用するAIと検索サービスの相性がよかったので、まずは検索サービスからということだと思います。クラウドサービスには検索サービス以外にも様々なものがあります。メール、クラウドストレージ、WEBアプリなど様々ありますが、GoogleはそれらにもAIを取り入れようとしています。クラウドコンピューティングサービスのGoogle Cloudは2024年8月1日に開幕した「Google Cloud Next Tokyo '24」で、Geminiアプリでの「Gemini for Google Workspace」対応など、Google CloudとGoogle Workspaceの新機能を発表しました。Google Workspaceとは、Gmail、カレンダー、Meet、Chat、ドライブ、ドキュメント、スプレットシート、スライドなど12種類のサービスを提供するクラウドベースのグループウェアで、2020年まで「G Suite」と呼ばれていたものです。今回、Gemini アプリでは、新たにGoogle Workspace向け拡張機能(ベータ版)を発表しました。これは、Geminiアプリ上でGoogle WorkspaceのGmail、Google ドライブ、Google ドキュメントに連携できるもので、Geminiがユーザー所有ファイルや共有ファイルをデータソースとして参照できるようになるため、プロンプト内で参照先を指示して、メールの要約や検索、データ集計・整理など、企業における日常業務を大幅に効率化できるようになります。

これにより、複雑な開発や運用の手間なく、RAG(検索拡張生成)による自社データとの連携が可能になります。例えば、市場調査結果を取りまとめたい場合、Gemini アプリのプロンプト内に「@Google Drive」といれることで、拡張機能を呼び出しながら、「Cymbal社のヨーグルトの売上を分析し、製品別、顧客別に表にまとめてください」と指示すると、Geminiがアクセス権のあるGoogle ドライブ内のドキュメントとPDFファイルを参照します。その分析結果をもとに製品別、顧客別のグラフを作成します。Gemini アプリでは、棒グラフや折れ線グラフなどを生成する機能も備えており、会話からグラフを作成できるようになります。追加でGemini アプリに「上記の表を降順のグラフにし、表とグラフを併記して」と指示すると、Geminiアプリ上で棒グラフが表示され、グラフを画像としてダウンロードしたり、コピーしてスライドなどに貼り付けできるようにしたりします。蓄積された膨大なデータから必要なデータを抽出し、まとめ上げるのは時間のかかる作業ですが、Geminiを活用すれば、大幅な時間の削減につながることは間違いありません。これだけでも仕事の効率化が大きく進むことになります。

また、Google Workspaceの新機能である「サイドパネル」が日本語をサポートすることも発表されました。サイドパネルには、Gemini 1.5 Proが搭載され、使用しているアプリを使いながら、Geminiがコンテキストに応じたプロンプトを提案します。これにより、メールのドラフトやレポート作成の時間を削減できるようになります。100万トークンという圧倒的なコンテキスト長に対応したGemini 1.5 Proモデルにより、数千ページのPDFなどの大容量ファイルでも、前処理することなくそのまま要約・分析できるようになります。コンテキスト長とは、LLMに入力で許可されるトークンの最大数に、プロンプトに対して生成される出力を加えたものです。つまり、コンテキスト長は、LLMがどのくらい長い文章を扱えるかに直結します。因みに、GPT-4oが12.8万トークン、Claude3が20万トークンなので、Gemini 1.5Proの100万トークンは主要LLMサービスの中では最長のコンテキスト長といえます。一度に読み込めるデータ量が多くなるということは、多くのデータを利用した分析や生成が可能になるということですから、より精度の高い結果を得られることになります。このサイドパネルは単独作業で活躍しますが、Google Workspaceの特徴であるデータ共有においても活躍します。例えば、Gemini アプリで作成した市場調査結果を元にGoogleドキュメント上で市場分析まとめ、上司に共有する必要がある場合に、右上の星型のアイコンをクリックしてサイドパネルを起動し、下のウィンドウで「市場分析結果が含まれるスライド」を指定して「市場分析結果を挿入してください」と指示すると、サイドパネルは指定されたスライドを参照して、市場の分析結果をまとめた文章を作成してくれます。これにより文章作成の時間は大幅に削減されますので、あとは作成された文章にミスがないかチェックをするだけですぐにでも共有できます。

このように、サイドパネルは Google ドライブに蓄積された業務データであるスプレッドシートやスライド、ドキュメントを指定して、新たな文章を作成したり情報をまとめるのに役立つツールといえます。Gmail、Google ドキュメント、Google スライド、Google スプレッドシート、Google ドライブのサイドパネルの日本語サポートは、2024 年 9 月に Workspace Labs とアルファ版に移行され、その後まもなく一般提供開始が予定されています。

Gemini for Google Workspace は、業務の質と生産性向上を実現する可能性をもつ、非常に大きなサービスだと思います。これと同様のことをローカル環境で実現しようとすれば、共有ストレージを用意し、AI処理が快適に行える高性能PCが必要になるため、企業側の導入コストは高くなり、二の足を踏むことが予想されます。いくら素晴らしいAIサービスがあっても利用されなければ意味がありません。クラウドサービスで実現できる点に大きな価値があると思います。少しはローカル環境にも依存しますが、AI処理の大半をクラウド側で処理しているだけで導入する敷居は低くなります。利用方法も簡単で、Gemini for Google Workspaceの拡張機能を搭載したGemini アプリは、企業向けの Gemini BusinessもしくはGemini Enterpriseアドオンで利用可能ですが、一般のユーザーは、Google One AIプレミアム の無料トライアルで利用可能となります。無料期間の1カ月を過ぎてGeminiが提供するサービスを利用し続けたい場合は、月額2900円で利用可能になります。個人事業主や小規模事務所などでも個人のGoogleアカウントがあれば利用できるということで、様々な業態や事業規模が活用されることが期待できます。AIは人間を手助けしてくれるパートナーだと思います。少しでも気になった人は、まずは試してみることをお勧めします。

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