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地球温暖化を考える~CO2回収技術「DAC」の展望

地球温暖化といわれてかなりの年数が経ちましたが、一向にその進行が止まる気配はありません。
日本でも気温が35度を超える日が珍しくなくなり、10代、20代の若者からすると「夏は30度超えるのが普通」と聞きます。40代以降の方からすると「子供のころは25度でも異常な暑さだった」という記憶が嘘のような気候になっています。

地球温暖化の要因としてよく挙げられるのが「CO2排出量の増加」です。調べてみると、世界のCO2排出量は1850までは気候に影響するほどではありませんでした。1860年からCO2排出量は増えましたが、それでも地球のCO2濃度は少し上がった程度でした。

1900年までCO2排出の主な要因は石炭でしたので、劇的にCO2排出量が増えたとは思えませんが、1910年頃から石炭に加え石油の消費によるCO2排出量が増えた為、CO2排出量の増加が顕著になりました。石油によるCO2排出量は10年ごとに倍増し、1970年には60億トンを超えました。
この時期から石炭、石油に加え、天然ガスの消費も増え、CO2排出量は150億トンに達しました。1940年には50億トンに満たない排出量でしたから、たった30年で3倍に増加したことになります。そして、CO2濃度も急上昇し、1970年に約320ppmだったCO2濃度が、2000年には約370ppmにまで上昇しています。

1750年のCO2濃度が約275ppmだったことを考えると、1750年から1970年までの220年間の増加量以上の量をたった30年で増加させたことになります。2000年のCO2排出量も240億トン余りですので、1970年の150億トンと比べると、30年で90億トン余り増加しています。この量は、1960年のCO2排出量と同程度で、産業革命以降160年での増加量に匹敵します。

石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料を消費することで発展してきた人間社会ですが、その化石燃料も無尽蔵ではありません。エネルギー資源庁によると、世界のエネルギー資源確認埋蔵量は2019年末で、
・石  油:1兆7339億バーレル(50年分)
・天然ガス:199兆立方メートル(50年分)
・石  炭:1兆696億トン(132年分)
・ウラン :615万トン(115年分)
と発表されています。この埋蔵量を見て、どのように感じますか。世界のエネルギー需要量は2040年には2014年の約1.3倍になるともいわれている状況を考えると、限りある資源をめぐって世界で資源獲得競争が激化することが懸念され、僕には決して十分な量ではないと感じます。特に日本は資源の乏しい国ですから、これから如何にしてエネルギー問題をクリアしていくか、政治が本気で舵取りしなければなりません。

資源に乏しい国、日本ではエネルギー資源の大半を輸入に頼っています。一次エネルギー資源のおよそ4割が石油で、さらにその86%を政情が不安定な中東に頼っています。過去に2度の世界的なオイルショックに陥ったように、石油供給が滞るリスクをはらんでいます。さらに、1986年に急落して以来1990年代にかけては安定した価格が続いていた原油価格ですが、2000年代は中国やインドなど新興国の石油需要の増大や、主要産油国である中東地域の政情不安、さらに短期的な価格変動に着目した投機資金の大量流入などにより、原油価格は大幅に変動しています。石油に頼っている日本にとっては価格上昇もリスクといえます。

これほどエネルギー資源を諸外国に頼っている日本ですが、電力消費量は世界でもトップレベルに高いのです。一人当たりの電力消費量は、8010kWh/年であり、カナダ、アメリカ、韓国に次いで4位の消費量になります。世界平均が3260kWh/年と比べるとその高さは一目瞭然です。国別の電力消費量の割合でも、日本は世界計24.7兆kWhの4%にあたります。中国28%、アメリカ17%、インド5%などと比べると、総人口の多いインド(14億人)と肩を並べることに驚きます。

2度にわたる石油危機の経験から、日本はエネルギー源の多様化を図るため、石油に代わるエネルギーとして石炭・天然ガス・原子力等の開発に取り組み、エネルギー需給構造の改善に努めてきました。その結果、石油依存度は一定程度低減されたものの、日本の電力は依然として価格変動が激しい化石燃料の輸入に支えられています。日本の電力の約8割が火力発電により賄われていることを考えても、火力発電の依存度を下げ、他の発電方法を主力とする方策が必要となります。もちろん、すでに動いている電力会社もあり、「プルートLNGプロジェクト」により安定したLNG(天然ガス)の調達に取り組んでいたり、火力発電の効率化を目指して「コンバインドサイクル方式」を導入することで、熱効率を従来の約42%から世界最高水準の約60%へ向上させることを実現しています。太陽光、水力、風力といった再生可能エネルギーによる発電の推進を促すために、メガソーラーの営業運転や、水力発電所、風力発電所の新設にも力を入れています。

エネルギー問題の解決に向かい足掻いているのが今の日本かもしれません。現在の人間社会では電力は不可欠なものになり、電力なくして生活をすることはできないと思います。その為、供給側の苦労を述べてきましたが、まだまだ克服すべき課題は山積みです。

先述した通り、地球温暖化の要因とされるCO2を含めた温室効果ガスの排出もその一つです。日本は2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を当時の菅元総理が宣言しています。これは、CO2だけに限らず、メタン、N2O(一酸化二窒素)、フロンガスを含む「温室効果ガス」を対象にしたものであり、宣言の中にある「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」とは、「排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする」ことを意味します。

つまり、排出せざるを得なかったぶんについては同じ量を「吸収」または「除去」することで、差し引きゼロを目指しましょう、ということです。言葉では簡単にいえますが、これを実現する技術を実用化する必要があります。

その為に、政府は「CCS」の技術開発を推進しています。「CCS」とは「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、「二酸化炭素回収・貯留技術」と呼ばれています。CO2を発電所や化学工場でといった排出源から集め、地中深く等の貯留場所に安全に補完する技術をいい、温室効果ガスの排出削減と気候変動対策の一環として世界中で注目されている技術です。他にも技術開発は進んでおり、「CCUS」や「DAC」も世界中で導入が進んでいます。

「CCUS」は「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略で、CO2を分離・回収・貯留するCCSに対して、分離・回収・貯留したCO2を利用しようというものです。例えば、アメリカでは、CO2を古い油田に注入することで、油田に残った原油を圧力で押し出しつつ、CO2を地中に貯留するというCCUSが行われており、全体ではCO2削減が実現できるほか、石油の増産にもつながるとして、ビジネスとして確立されています。「DAC」は「Direct Air Capture」の略で、大気中からCO2を回収する技術をいいます。一例になりますが、特殊なフィルターや吸収剤に大気を通過させることでCO2を捕捉させ、フィルターや吸収剤からCO2を分離することで純粋なCO2を回収します。純粋なCO2は貯留もできますが、合成燃料の製造などにも利用できます。この例以外にも、物理吸着、化学吸収、膜分離、ドライアイス化などよる回収技術もあります。DACは大気からCO2を回収するので、大気のCO2濃度を下げることを目的とした技術になります。DACは、二酸化炭素を効率的かつ直接的に取り除くことができるため、次のような利点があります。

・CO2は、地球上のどの場所でも同じ濃度で大気中に存在している為、DAC設備を特定の排出源に接続する必要がなく、世界中どこにでも設置することができます。
・回収されたCO2は資源として有効活用することができ、セメント、機械、エンジニアリング、再生可能エネルギーや廃棄物エネルギーとして利用することができます。

CCSやCCUSに比べると後れを取っているDACですが、実用化に向けて技術革新が進んでいます。東京都立大学では、DACの研究が進められており、相分離を利用した新しいDACシステムの開発に成功しています。開発されたDAC技術は従来の技術と比べ二酸化炭素回収速度が2倍以上早く、またその他の二酸化炭素回収にも応用可能な汎用性の高いシステムである為、新しいDACシステムとしての実用化が期待されています。この素晴らしい技術であるDACにも、クリアしなければならない課題はあります。

・「維持管理コスト」
低濃度のCO2を大量に回収するためには大量のアミンが必要となり、アミンを大量に使用するとこれに伴いDAC施設が大きくなり、多くの維持管理コストが必要となります。
・「DACプラント稼働による汚染物質やCO2の排出」
DACはまだ技術開発の初期段階であるため、技術的な問題が発生する可能性があります。例えば、DACプロセスの中で使用される溶剤や吸着剤は、環境に悪影響を与える化学物質である場合がある為、適切な処理が必要です。また、DACプラントが稼働することによる排出される温室効果ガスの量についても考慮する必要があります。

課題解決に向けて研究が続いているDACですが、今後の気候変動対策において重要な役割を果たすと考えられており、新しいDAC技術の開発と実装により、効率的かつコスト効果的な二酸化炭素の回収と利用が可能になり、ゼロカーボン社会の実現に大きく寄与すると考えられます。このような技術開発には膨大な支援が必要ですから、政府はこのような、これからの技術にも大きな支援をしてもらいたいものです。

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