一首鑑賞 よん。(芍薬)

未補の一首鑑賞文。
四首めは、芍薬さんの歌です。

腕まくりした肘を撫で「これは象」と呟く冬、このままでいて/芍薬

冬に腕まくりをする。どんな場面だろう。
小春日和のあたたかい日。長袖が少し暑くて、腕まくりをしたのかもしれない。
家の中でなにか、作業をすることがあって(たとえば電球を取り替えたりだとか、掃除をするとかで)腕まくりをしたのかもしれない。
でも、「撫でて」だと、前者の方がしっくりくる。二人で外を歩きながらデートをしている場面。
服の袖をめくり、露わになった肘を撫でて、「これは象」とつぶやく。
恋人や夫婦であっても、あまり普段あらためて肘を撫でることは無い気がする。
でも、ふと肘を見たとき、気になってしまうくらい見るからにカサカサしていたのでしょう。撫でてみたら、象の皮膚を思い出してしまうほどとても乾燥していた。思わず、肘が象であることを口に出してしまうほどに。
(腕まくり、という日常のささやかな出来事、肘の小さな気づきから、象という動物に飛躍する発想は見事)
でも、最後の「このままでいて」はとても意外性があって。
なんで「象」のままでいてほしいのだろう。普通なら、いつまでも若くみずみずしい肌でいてほしいって思うものじゃないのかな。
このままでいてほしい理由に思いを馳せてみると、この歌の主体は、肘の感触が象に似ている、ということから象と恋人を重ね合わせたのだと思う。
きっと、恋人は、象のようにとても優しくて、とても器用で、とても力持ち。(こうやって書くと、最初この歌はデートの場面と書いたけれど、やっぱり、恋人が力仕事のような作業をしている場面だと読むほうが自然かな)
だから、このままずっと「象」でいて欲しいと願った。変わらないあなたのままで、ずっと一緒にいて欲しい。象のように、長生きして欲しい。
そんな気持ちが「このままでいて」に詰まっているような気がします。

冬の場面の歌だけれど、冬の寒さや侘しさを感じない、読んでいてあたたかい気持ちになれるような、これから廻る季節を共に生きる二人が浮かぶような歌でした。

一首鑑賞はいつもどの歌を書こうか迷いますが、今回は混迷を極めました。
それくらい、芍薬さんの短歌は上手だなと思うものが多かった。
(選べなさ過ぎて、半ばあきらめかけていた。)
歌を選ぶ過程で、多くの学びをいただいた気がします。

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