背筋をしゃんと伸ばして

信号待ち、ぼんやりとあたりを見渡したら、横断歩道の先にハッと目を惹く人がいた。
知り合いでもなく、特別背が高いわけでも、目立つ服装をしているわけでもない。それなのに、雑踏のなかでもなぜかその人の輪郭だけがはっきりしていて。
どうしてだろうと思い巡らせたのち、ああ、そうか、と気がついた。

姿勢がとても綺麗なんだ。

寒かったりスマホを見てたりするせいで背中が丸まっていることが多い人混みで、その人はすっと背筋が伸びていて、自然と胸を張っていて、まっすぐ前を向いて立っていた。
美しいな、と思った。見惚れてしまう。

そういえばちょっと前にも同じように思ったことがあったなあ。あれはいつ、どんなシュチュエーションだったっけ？頭の中で思い返すと、またすぐに答えが見つかった。
モロッコで見た、伊佐さんの背中だ。

軽やかで、自然体なのに、洗練された佇まい。画になる背中に何度もシャッターを切った。伊佐さんも姿勢が綺麗だったから、何気ない瞬間も雰囲気があって魅入ってしまったことを思い出した。

（よし、私も、）

まっすぐな背筋は美しい。最初は意識的にでも、続いていれば無意識にできるようになるかもしれないから。
信号が変わる。歩き出す前の一瞬、きゅっと顎を引いて、しっかり前を向いてみる。背筋をしゃんと伸ばして、大きく一歩を踏み出した。