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無料から始める歌モノDTM(第11回)【分析編①補足・カノン進行、オンコード】

はじめに

はじめまして方ははじめまして。ご存知の方はいらっしゃいませ。

ノートPCとフリー(無料)ツールで歌モノDTM曲を制作しております、

金田ひとみ

と申します。

今回の記事は、前回解説しきれなかった自作品『アレグレッタ』に基本軸として使われているコード進行
「カノン進行」

「ベースギターからの制作」
についての記事です。
コード理論をある程度ご存知の方には今更な情報ですので今回はスルーしていただいて構いません。
一応、前回の記事は理論だけではない私なりの観点で切り込んでいますので、未読の方は一読していただけると嬉しいです。

私の記事の方針で理論面の解説は必要最低限しかやりませんが、今回の2項目はほぼ確実にあらゆる楽曲で登場しますので押さえておいたほうが良いかなと思います。

まず一つ目の「カノン進行」は定番中の定番コード進行で、コードを学び始めるにも最適だと思いますので取り上げておきます。
数多くのヒット曲にカノン進行とその派生形が使われています。エモさやクールさは弱いですが、ポップス、ロック、バラードなど様々なジャンルに対応できる万能コード進行です。
またカノン進行の項で、コードの表記法も解説します。謎の呪文にならないよう気をつけてください(笑)

もう一つは「ベースギターからの制作」です。
コード理論をかじったことのある方であれば「オンコード」という言葉を聞いたことがあると思います。今回のお話はそれを土台にしています。
コードをよく知らないという方に普通は先に紹介しない特殊コードです。ですので今回はコードの基本の必要最低限なことだけ先に解説しておきます。
でもおそらく何十個もコードを覚えるより、前々回で解説したルート音と今回のオンコードの2つの考え方を理解しておいたほうが、実際のDAWでの打ち込みや作曲そのものに一歩先に近づけるのではないか、と私は考えています。

今回は前回の補足ということで、自作品『アレグレッタ』と1番のコード譜を再掲しておきます。(何回載せてんねん。)

見慣れたもんです。

というわけで始めます。

コードとコード進行の基礎

まずコードコード進行とはなんぞや、というところから始めます。

コードは今までにもたくさん出てきた[C](Cメジャー)や[C#m](Cシャープマイナー)などの、複数の音を同時に鳴らした組み合わせのことです。和音ですね。
(クラシックの世界の和声の考え方とも被っていますが微妙に違う意味です。このnoteは現代の歌モノ曲を主な対象にしていますので取り扱いません。私も少しは勉強を進めていますがクラシックは専ら聞くばかりでまったく詳しくないです。習い事をやったこともありません。)
C]なら「C・E・G」(ド・ミ・ソ)の3つ、[C#m]なら「C#・E・G#」(ド#・ミ・ソ#)の3つの音が同時に、あるいは少しずつタイミングをずらしながらも重なって1つの響きに聞こえるなら1つのコードです。
このnoteで対象にしている音楽の3要素、リズム、メロディー、ハーモニーの内、ハーモニーを支えています。
メロディーもこのコード構成音上と同じ音程を使うと安定感があります。音数が少ないので退屈なメロディーにはなりますが音痴にはなりません。

コード構成音の音階を表記するときは普通のアラビア数字の「1、2、3、4、5、6、7、……」を使います。
ルート音を「1」と置いて、そこからの音程に番号を振っています。
「……」と書いたのはそれに続く「9」「11」「13」とかの数字もコード名に出てくるからですが、最初から覚えなくていいですし実際に登場回数も少ないです。

[C]は「C・E・G」の音で構成されていて、音階で見ると「1・3・5」です。ドを1番目として3番目のミと5番目のソの3つの音を同時に鳴らすとCメジャーコードになります。
これが[D]や[E]になるとそれぞれ「D・F#・A」(レ・ファ#・ラ)と「E・G#・B」(ミ・ソ#・シ)となりますが、ルート音である「D」「E」をそれぞれ1番目として見た場合、同じく「1・3・5」が構成音です。
この「1・3・5」で構成されたコードを「〇メジャー」と呼ぶわけですね。

ちなみに「〇マイナー」は「1・♭3・5」です。
慣習的に「#2」ではなく「♭3」で表記します。♭が有るか無いかでメジャーコードと比較しやすいからだと思います。

まずはメジャーコードが「1・3・5」、マイナーコードが「1・♭3・5」くらいを覚えておいて、あとは数えれば対応できます。DAWなら全選択してズラすだけなのでキーの何番目がどの音かを暗記する必要はありません。

そしてコード進行はそのコードの流れの組み合わせです。
数個だけの短いものからある程度の数を組み合わせたもの、組み合わせは同じでも演奏する長さの違うもの、オマケの音をくっ付けてエモい感じやブルージー(ブルース風)な感じを醸し出したものなど様々な組み合わせがあります。
組み合わせなのでいくらでもパターンは生み出せるのですが、心地良く聞こえるものは限られています。無限に生み出せそうでありながら結局はある程度お決まり選択肢に絞られてくるので、まずは定番をいくつか知っているだけで充分です。自分の作りたい曲のジャンルを参照すると必ず似たようなパターンが出てきます。

解説動画とかでよくある「最新のエモいコード進行!○選」みたいなのはほぼオマケです。否定まではしませんが、ぶっちゃけその手の解説を見てもクオリティーアップや新しいアイデアの元になることはあっても、作れるのは曲全体のワンフレーズ程度にしか相当しません。下手に一部分だけ使うと曲全体にマッチしないこともあります。カレーに刺身乗っけるみたいな。それこそ初心者向けではないです。

今回紹介するのはコード進行の中でも定番のカノン進行についてです。こっちは覚えて損は無い。数百年の歴史があります。
王道過ぎて使い古されてる感もありますし、クールなカッコいい曲にはなりにくいですが、どれほど最新のヒットソングでも多少の変化を加えながら絶対に出てくる定番中の定番です。コードから作曲する際は知らないとヤベー奴です。
と、これだけ作曲しておきながら何気に私はよく知らずに使っていました。てへ。
まあ文法の規則やその名前を知らなくても日本語を喋れるみたいなもんです。「てにをはが助詞で……」なんて普通は考えながらしゃべりません。作曲も同じです。「ん?使い方があやしいな」と感じたら理論と突き合わせるくらいで、慣れれば自然と使えます。

カノン進行

カノン進行の名前の由来は以前も紹介しましたが、ドイツの作曲家ヨハン=パッヘルベルの『カノン』です。『カノン』は17世紀後半くらいに作られて現代の最新ヒットソングでも同じ進行が使われているくらいなので、コード進行界の不死身の化け物と言っても過言ではない。すごい。

カノン進行のコードの流れを一番分かりやすいキー=Cメジャーで書くと、
C → G → Am → Em → F → C → F → G
です。

パッヘルベル『カノン』だとキー=Dメジャーなので、
D → A → Bm → F#m → G → D → G → A

『アレグレッタ』のキー=Eメジャーを借りて書くと
E → B → C#m → G#m → A → E → A → B
となります。

これが音楽理論的な表記ではどれも、
Ⅰ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅲm→Ⅳ→Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ
となります。キーが変わっても表記は同じです。

コード進行ではローマ数字を使います。
Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ、Ⅶの7つです。
このローマ数字のことをディグリーネームと言います。degree=「度」です。温度とか角度の「度」ですね。なので日本語で読む時は1度2度…となります。
mはマイナーコードを表しています。

今回解説の『アレグレッタ』では後半を少し変化させた
E → B → C#m → G#m → A → G#m → F#m → B
ディグリーネームで、
Ⅰ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅲm→Ⅳ→Ⅲm→Ⅱm→Ⅴ
となっています。
こんな感じで一部を変化させたり、他のコード進行に繋げたりというのがよくある手法です。なのでいくつか定番を知っているだけでどんどん膨らませていけるわけですね。ゼロから考える必要はありません。

このディグリーネームは、前々回お話したキーの音階の最初の音(主音)を「 としたときの1番目から7番目までの音階に対応しています。
分かりやすいキー=Cメジャーなら、
Ⅰ=C、Ⅱ=D、Ⅲ=E、Ⅳ=F、Ⅴ=G、Ⅵ=A、Ⅶ=B
です。「ドレミファソラシ」ですね。
キー=Eメジャーなら、
 Ⅰ=E、Ⅱ=F#、Ⅲ=G#、Ⅳ=A、Ⅴ=B、Ⅵ=C#、Ⅶ=D#
に対応しています。
ついて来れてますか? かく言う私もまだすぐにはついて行けません。
「えぇっとEがⅠだから4番目のⅣがAで……」なんて数えちゃいます。その程度の学習度です。へっぽこ(笑)。
マジで説明は上手な方に任せたい。
でもこちらもコードと同じく、DAW上なら全選択してずらすだけです。

私の場合コード譜ヒット曲集で大量のギターの弾き語りをしていたので、どのコードがどのディグリーに相当するのかすっかり身に染み付いているようです。
その辺で流れてるBGMや他の方が作った曲でも、よほど変則コードを使っていない限りはギター1本あればその場ですぐコード進行を耳コピできます。カラオケでキーを掴むような感覚に近いです。
(むしろ自分の曲のほうがコード譜に起こそうとすると変則コードや変則進行が多くてついて行けないという……。コード作曲2割程度なんでコード進行に縛られずかなり自由に作曲してます。でも定番が身に付いてるからできることです。いきなり最初からやっちゃダメなやつ。)
さらに、ギターはコードを弾く時などに「セーハ」という人差し指でフレット(指を置くとこ)全部を押さえる基本技術があって、押さえるフレットをずらすだけで半音、全音……と一気にすべての音程をずらしていけます。これがピアノだと白黒鍵盤が混在するので別個に覚える必要があります。
極端な話、ギターはキーが分かればセーハ位置を移動させるだけで全コードに対応できます。視覚的にも分かりやすい。DAWでずらすのと同じように対応できます。

再確認すると、
コード構成音はアラビア数字の
「1・2・3・4・5・6・7……」、
コード進行のディグリーネームはローマ数字の
「Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ、Ⅶ」
で表記します。ごっちゃにならないように。
コード構成音はルート音を「1」としてそこから数えます。なので「8」はオクターブ上の「1」と同じ音階です。別の音として扱います。
ディグリーネームは、キーの主音を「Ⅰ」としてそこから数えます。曲中で転調したら、転調したキーの主音がⅠです。オクターブは考慮せず、Ⅰに戻って同じものとして扱われます。
は~ややこし。こんなだから理論だけ最初に勉強するとつまづくんですよ。英語の文法の授業みたい。

改めてカノン進行は、
Ⅰ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅲm→Ⅳ→Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ
それに少し手を加えた『アレグレッタ』の進行はⅠ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅲm→Ⅳ→Ⅲm→Ⅱm→Ⅴ

後半にマイナーコードが入っていて、元のカノン進行に比べてちょっとエモい感じが出ています。カノン進行のままだとちょっとあか抜けてない野暮ったい感じが残ります。
ピアノでこの進行を鳴らしたサンプルを作っておきました。聞き比べてみるとわずかですが後半の違いが分かるかと思います。

上の段がカノン進行、下がアレグレッタのコード進行。
それぞれ上列にボーカルメロディーラインも載せています。

絶対カノン進行がダメというほどではないですが、
E → B → C#m → G#m → A → EA → B
だと後半の[E → A]が明るく安定感が強すぎて流れを止めてしまうように感じます。[G#m → F#m]のほうが感情がこもったように落ち着いて聞こえます。
また[E → A]はこの区切りの後に来る[E]に繋ぐ役割を持つ[B]より一歩先に明るい雰囲気を出してしまうようです。
コード進行中の各コードにもちゃんと役割があるんですね。

カノン進行はめちゃくちゃ多用されるコード進行です。覚えておいて損はありません。
私の他の曲だと以前紹介した『I/O』の他、カノン進行の前半だけを使ったものや後半を変更したものが半分くらいはあるようです。細かく探すともっとあるかもしれません。
最新曲(2022年10月25日投稿)もサビ前半はカノン進行を使っています。
(ホラーっぽい作品なので閲覧注意です!サビ以外は気持ち悪いコード進行でまったく参考になりませんのでそちらも注意!気持ち悪さを出すためにわざとやっています。そもそもコード進行から作っていません。)

うへ〜。
アレンジのリコーダーやエレピ(電子ピアノ)もわざと音を外してますし、ベース音もBメロは半音ずつ下がったりと定番ガン無視です。
やっぱり自作品でコード進行は参考にならない。
というわけで明るい曲に戻りたいのでさっさと次の解説に移ります。

ベースギターからの制作

普通、作曲入門や解説を読むと、リズム、メロディー、ハーモニーの内、主にハーモニーの分野であるコードやコード進行についての解説が大部分を占めてくるか、そこまで詳しく解説していなくて他のコード専門解説に頼らざるを得ないかどちらかです。確かに覚えなければいけないことが多いのは間違いないです。
解説ブログや解説動画でもコードに関するものは人気で、閲覧数や再生数も多くてよく見かけます。
でも、いざ作曲してDAWに打ち込もうとすると必ずつまづくのが、コードを奏でるピアノやギターなどウワモノ楽器の前に何よりベースではないかと思います。ベースはピアノの低音部やストリングスのコントラバスが担当する楽曲もありますが、多くの場合はベースギターがその役割を担います。

コードをある程度理解してくればコードのルート音を並べていくだけでもそれっぽくはできるのですが、ルート音だけだとどうしても単調で素人感が拭えない感じになります。
かといっていきなりうねうね動くベースラインを作るには、それなりに他の楽曲から学んだりセンスを磨いたりしながらの試行錯誤が必要になってきます。
コード構成音だけを使ったとしても4拍子のメジャーコードで動かそうとするなら「1・3・5・3」とか「1・5・3・5」とか「1・5・3・1」とかいくつもパターンを考えられますし、リズムを変えたりオクターブ上に動いたりも含めると一筋縄ではいきません。
そのコード構成音さえ理論だけを勉強するのはかなりつらい。
さらにコード構成音以外を使うことすらあります。ぐえっ。
「このコード進行さえ覚えればエモい作曲ができる!」なんてのは正直あまり当てになりません。

さらにベースはハーモニーの土台としての役割だけでなく、リズムにもしっかり絡んでいます。「ボーンボーン」とゆっくり弾くのか「ベンベンベンベン」と早く弾くのかで曲の雰囲気やジャンルも変わります。ベースラインそのものがメロディーラインのように動くこともあります。
ということはメロディーにもやっぱり絡んでいて、あまり動き過ぎてボーカルやウワモノ楽器を邪魔してもいけませんし、動かな過ぎて単調でも盛り上がりに欠けたりします。めちゃくちゃ奥が深いです。

コードそのものから学習すると、いざ打ち込みを始めた時に、コード→ルート音→コード構成音→コード構成音以外→リズミカル&メロディアスに動くベース音→カッコいいベースライン!までの道のりが非常に遠いのです。
結局はコード構成音もある程度勉強しないといけないのですが、それでもルート音だけでもベースからの打ち込みに慣れておいたほうが曲の完成には一歩先に近づけます。
なにせベースラインは基本的に1本しかありません。
3つも4つも5つも音の重なったコードとさらにそのコードを組み合わせたコード進行を網羅して覚えるよりは、とりあえずコード進行の中からルート音を拾えばなんとかなるベースのほうが、とっつきやすいのではないかと思います。

最初は曲の最後までルート音だけでも良いので1本のベースラインを打ち込んで、そこにメロディーを乗せてみる。ドラムスは「ドンツードンツー」とかのバスドラムとスネアだけでも構いません。それも難しいならDAW付属のメトロノーム音だけでも。
一曲を通して土台を作ってみると全体が見えてきます。
Aメロが長すぎるんじゃないかな?とか、サビの盛り上がりが足りないかな?とかの構成の見直しをしてみて、それから細部を作り込んでいく。
下手にぶち込んだエモいエモいと言われているコードが雰囲気を壊しているかもしれません。

ギタリストはベーシストに倣うべし、と個人的には密かに思っております。たった1本の音の流れで弾き語りもできて、曲も作れてしまうのですから。エモいアレンジや超速弾きを練習する前に、音楽の基礎であるリズムにもしっかり絡んでいるベースギターを意識したほうが良いと考えます。
逆にベーシストはギターコードを勉強すればさらに複雑なベースラインを作れるようになるかもです。
楽器もお互いの得意なところから学んで高め合えると思っています。

ということでベースギターからの制作を優先して解説します。

ルート音とベース音の違い

前々回のルート音の解説の所で、ルート音とベース音が違うことがあると述べました。
『アレグレッタ』2番Aメロのうねうね動くベースももちろん違っていますが、基本的に各コードの構成音です。構成音上であれば少々動いてもそのコードだと分かります。また前回解説の通り2番のベースはコンセプトや構成に合わせたアレンジ分野のお話ですので今回の話題とは別です。
制作当初は今から解説するベースラインで最初から最後まで通して土台を作りました。その段階で小節数やテンポを調整してあとからウワモノを乗せています。ドラムスやボンゴ、コンガなど打楽器もあとからです。
Aメロもサビも同じベースラインで、Bメロは前回解説の通り下がって上がるやつなので、土台に関してはホント大して難しいことはやっていません。

2番のうねうねベースではなく、それよりも根本的に各コードのルート音とベース音が違うことに気づいていただけたでしょうか?
『アレグレッタ』のAメロとサビのコード進行とベース音を並べて見てみます。

コード進行
E → B → C#m → G#m → A → G#m → F#m → B

ベース音(各音を8分音符でベンベンベンベンと4回ずつ弾いています)
E → D# → C# → B → A → G# → F# → B

2番目の[B]で「D#」、4番目の[G#m]で「B」を弾いています。
ルート音と違いますね。
そこで[B](Bメジャー)と[G#m](Gシャープマイナー)のコード構成音を確認してみます。
こちらのページからお借りしました。↓


各メジャーコードの構成音。赤枠が[B](Bメジャー)
各マイナーコードの構成音。赤枠が[G#m](Gシャープマイナー)

[B]=「B・D#・F#」
[G#m]=「G#・B・D#」

コードの構成音に入っていますね。ということは、同時に鳴っても違和感が無いということです。
でもなぜわざわざ?と思われるかもしれません。
うねうね動くベースラインではなくて、同じ音をベンベンベンベンと4回ずつ弾いているだけですから、ルート音でも問題ないはずです。
実際問題ありません。
でもその全体の流れに気づいたでしょうか。
楽譜に起こすとよくわかります。楽譜自体は読めなくても構いません。そういう図案だと捉えたほうが特に今回は理解しやすい。

上はボーカルメロディーライン、下がベースライン。
五線譜の間にコード、一番下にベース音を表記しています。

画像が横長で音符の高さが分かりにくいので、縦に3倍に引き伸ばして見てみます。

赤いラインがなだらかな階段状。

なだらかにどんどん低い音程に下がって行ってますね。最後の「B」で次につながる「E」にポンッと軽快に戻ってくるような動きです。
ちなみにルート音通りだと以下の流れに。

ガタついた階段?

下がったり上がったりちょっとウロウロしてますね。ダメではないですが上と比べて落ち着きの無い動きです。
一応、音も鳴らしてみましたので聞き比べてみてください。

後者のルート音の通りに弾くとちょっと落ち着きの無い感じと、こなれていない野暮ったい感じがします。良く言えば初々しい。でもお姉さん感を狙っためろうさんの曲としては不採用です。感性的な部分なのでもちろん後者でも問題はないのですが、音楽は感性的な要素も大切です。
前者のほうが画像で見ても落ち着いた感じであるように、耳に聞こえてくる音としても落ち着いた安定感のあるものに聞こえます。
実際に楽器をお持ちの方であれば、ピアノやギター(あるいはベースギター)で弾いてみると、指の動き自体が自然でなめらかに気持ちよく弾けることがわかります。あっちこっち指を広げて飛んだりしない、馴染むような感覚です。

ついでに前項目のカノン進行の解説で鳴らしたピアノと合体させてみます。
前半はカノン進行+さらにそれに合わせたルート音。
後半は『アレグレッタ』のコード進行+ベース音。

ラインはわざと強調気味に引いています。

画像で見るからに、上はコード進行もウロウロ、ルート音もそれに合わせてウロウロ。落ち着きが無いです。
下の本来のラインは全体のゆったりした流れがあって、最後まで溜めて溜めて[B]の瞬間にしっかり上がって戻ってきています。

上で鳴らしているピアノのコードそのものも構成音の音階の順番を入れ替えることでよりなめらかに演奏することができます。
コードの「転回形」と呼びます。
メジャーコードであれば、「1・3・5」を「3・5・1」とか「5・1・3」の音程順に入れ替えることで、コード進行の次のコードとの音程差を小さくして全体のなめらなか流れを作れます。
前にルート音を外すとそのコードだと分からなくなると述べましたが、コード進行中の一部だけであれば最低音がルート音から別の音階に変わっても、ちゃんとそのコードだと分かります。
このルート音ではない最低音を使ったコードのことを「オンコード」と言います。
表記するときはそれぞれ
[B on D#]、[G#m on B]
または
[B/D#]、[G#m/B]
と書きます。
/」(スラッシュ)で書くと数学の分数のようにも見えることから「分数コード」とも呼びます。
これを知っていると知らないとでベースの打ち込みや作曲そのものの幅がグンと変わってきます。
曲全体を落ち着きのあるなめらかなものにしたり、エモい雰囲気を出したりできるわけです。

コード構成音の中でも特にそのコードの響きを特徴付けている音をオンコードの最低音に当てたりもします。
分かりやすいのはメジャーコード「1・3・5」とマイナーコード「1・♭3・5」の一番の違いである「3」と「♭3」です。「♭3」を最低音としてしっかり響かせることでマイナーコードであることが強調されます。
他には、いずれ出てくる[〇7](セブンスコード)や[〇6](シックスコード)、[〇M7](メジャーセブンスコード)など、単体だと不思議な響きを持つコードを特徴付けている構成音を、最低音そしてベース音として使うことがあります。めちゃエモくなります。

オンコードはコードの構成音であることが多いですが、必ずしも構成音である必要もなくて、まったく別の音程を持ってくることもあります。聞いてなめらかな気持ちの良い楽曲はかなりの確率で入っています。
わざと手前のコードの構成音を残したり、2つのコードの構成音の中間の音を加えてなだらかな音程差で繋いだり、エモさやブルージーさを醸し出すために構成音から外れた音を加えたりもします。
これもなかなか奥が深い。

このあたりを頭の片隅に置いておいてコードを学習していったほうが、同時に作曲やDAWへの打ち込みも進めやすいのではないかなと思います。

クリシェ

構成音やオンコードを利用しながらあちこちに動くベースラインを作ることもできますが、今回の『アレグレッタ』のように階段がなだらかに繋がった音の動きをするものを特別に「クリシェ」と呼んだりします。
ベース音の場合、「ベースクリシェ」とも呼びます。
本来のフランス語の意味では「常套句、決まり文句」といったネガティブな意味で使われることの多い単語ですが、音楽の世界では音程を全音や半音で変化させてなだらかに繋げたもの、というテクニック的なポジティブな意味で使われます。(確かに乱用するとなめらか過ぎて退屈になってしまうこともあるので、本来の意味も残っていますが。)

クリシェはベースだけでなくコード進行にも使われるテクニックで、コード構成音の一部だけが半音ずつ下がったりというのはよく使われる手法です。
自作曲だとこちらのAメロのコード進行はクリシェを使っています。↓

3曲目『ミニクイアヒル』(東北きりたん)。
オンコードにもベースにもクリシェをかなりぶち込んでいますし、Aメロのコード進行自体かなり変則的。初心者向けとしてはまったく参考にならないです(汗)。よくもまぁ作ったもんだ。

最後に制作秘話みたいなので締めくくります。
『アレグレッタ』はベースギターから制作してあとからメロディーや歌詞、アレンジを乗せていった曲なのですが、そもそものベースラインだけを取り出して聞いてみるとある曲にそっくりです。
お気づきでしたか?

実は『パッヘルベルのカノン』のメロディーラインそのものです。
一応再掲。↓14秒当たりからです。

『カノン』のメロディーを低音域に下げてベンベンベンベンとBPM=117で鳴らすとそのまんま『アレグレッタ』のベースラインです。区切りの最後から一個手前のコード(『カノン』は[A]、『アレグレッタ』は[F#m])だけが違っています。
DTMを始めた頃はカノン進行という名前だけはなんとな~くどこかで聞いたことはあって『カノン』自体は知っていたものの、ディグリーネームとかの概念すら言葉として知りませんでした。以前紹介した『I/O』を制作している時に、あぁこれがカノン進行と言うのか、と改めて認識したくらいです。
だったらこのメロディーをそのまま使えるんじゃないかとベースラインにしてみたという、なんとも挑戦的というか浅はかというか……。
実際うまくキレイにまとまりましたし、やはり歴史に残る名曲というのは懐も広い。
誰もが知っている今まで何とも思っていなかったものから、新しいものが生まれてくる……『アレグレッタ』のコンセプトにこのベースラインはピッタリだと思っています。

結び&次回予告

今回で『アレグレッタ』の分析と、そこで使われている作曲のテクニック的なことの基本は終了します。
アレンジの要素もかなり大きな曲ですが、そこまで解説し始めると数カ月かかるんじゃないかというくらいボリュームがありそうなのでこのあたりまでにしておきます。
基本のコード進行とベース音が揃えばハーモニーに関しては何とか作曲の土台が出来上がりますので、あとはコンセプトや構成と突き合わせながら膨らませていく感じです。
『アレグレッタ』の場合、ブレイク以外大きなリズムの変化もありませんので、ドラムスを「ドンドンツー・ドン・ツー」と言った感じでバスドラムとスネアだけ打ち込んで、解説したベースギターや自動ストローク弾きのアコースティックギターを追加すれば、骨格としてはほぼ同じような曲が再現できます。

あとはメロディーを乗っけていくわけですが、おそらくそれが最難関。
私のようにいろんな曲を参考に引っ張ってくるのも一つの手ですが、上手く自分のモノにできないとただのパクリです。私もいつもいつもオマージュというわけではありません。
メロディーを作るにはまずは今までに解説したリズム。これをしっかりつかんでおくこと。リズムに乗らないとメロディーではなく音の羅列です。
そしてまだ解説していないシンコペーションや刺繍音といったテクニックを使って
……といきたいところですが、もっと大切な主役を忘れています。
このnoteで作る曲は歌モノ曲でしたよね。
フレーズともうひとつの主役がいます。
「歌詞」です。

もし、「作曲が苦手だなぁ」「上手くいかないなぁ」と感じている方で、さらに歌詞まで自分で考えるとなると、
「いや無理だろ」
と思うかもしれません。
最初から良い歌詞を書こうとしたらそれは無理だと私も思います。私もいつもうんうんうなってます。
文筆の素質がある人のほうが当然有利です。
でもこのnoteを継続して読んでくださっているなら思い出していただきたいのですが、歌モノ曲において歌詞とフレーズは密接に関係しているものです。「だるま/さんが/ころん/だ・・」ですら感じられるくらいに。
「フレーズ」と「歌詞」、二つでやっと主役が揃います。

プロデューサーが舞台のコンセプトを立ち上げて、作家がお話の構成を練って、フレーズという主役の一人がまだまだアレンジというメイクも施していないですがやっとステージに到着したところです。
いきなり一人芝居を始めますか?
少なくとももう一人の主役の歌詞が到着して、合わせてリハーサルくらいやってからのほうが良いんじゃないでしょうか。

というわけで、次回予告になってきましたが、次回は「歌詞」について触れていきたいと思います。
取り上げる曲は『アレグレッタ』の一曲手前の作品、自分の中でも転機になったと思っているこの曲です。↓

11曲目『ねぇ、』(No.7/SEVEN/セブン)。

本来この曲はめろうさんが歌う予定でした。
それまでアニメ声の癖の強いセブンちゃんの扱いは、自分の中でも難しいなと感じていて少し敬遠していました。7曲目『re-style』は完全にアニソン風で作りましたし、そういった曲を作れないと歌わせられないなぁとぼんやり思っていたものです。
それが覆されたのがこの作品です。アニソンではなくまさかのバラード。

私の作品のコメントで調声についてよくお褒めの言葉をいただくのですが、
この曲は調声の奥深さにも突っ込み始めたきっかけの曲です。
そしてシンガーと曲、そして歌詞がグッと一体感を持ち始めた曲でもあります。

次回はこの曲の制作経緯などを紹介しながら、歌詞に繋がる話を書いていこうと思います。
それでは次回もよろしくお願いします。
Thank you for reading!


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