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無料から始める歌モノDTM(第10回)【分析編①『“Allegretta”アレグレッタ』】

はじめに

はじめまして方ははじめまして。ご存知の方はいらっしゃいませ。
ノートPCとフリー(無料)ツールで歌モノDTM曲を制作しております、

金田ひとみ

と申します。

気づけば8月から始めたこのnoteも記念すべき10回目となりました。
(自己紹介編含めて11回目です。)

今までの記事で、
【ツール】を揃え【コンセプト】を立ち上げ
【構成】を考え、具体的な作曲である【フレーズ】を作り始める足掛かりにやっとたどり着いたといったところです。

それぞれの記事でテクニック的なことを解説し始めると膨大な量になってしまいますので、どちらかと言えば考え方に重きを置いたざっくりとした内容で、具体例は提示しつつもやや駆け足でここまで来たかなと思います。
初心者向けを兼ねているにしてはちょっとレベルの高い話もあったかと思います。初心者の定義って難しいんですよね。

いつもの料理の例えで言えば、料理を食べたことが無いという人はいないけれど、台所に立ったことは無いという方はいくらでもいます。(義務教育の家庭科の調理実習くらいはあるはずですが。義務教育は本当にあらゆることの基礎を教えてくれていたんだと歳を取ってから思います。)
そういった方に調理器具の使い方や食材の扱い方を示すのも初心者向けと言えますが、いくら玉ねぎを高速スライス出来るようになろうが、カレーのスパイスの調合レシピを何万通り書けるようになろうが、結局カレーそのものは出来上がりません。
最初は下手でも不味くても、誰かの真似をしながらでも作り方の手順を覚えて実際に作ってみなければ自分で出来るようにはなりません。
そのうちに調理器具を上手に扱えるようになり、自分で食材を選んだり組み合わせたりが出来るようになってきて初めて、その人のオリジナルカレーが作れるようになります。
私の考える初心者はその手順を知らない方です。ですので調理器具や食材については最低限必要なことしか書きません。その辺は説明の上手い方に任せます。
(私が今までに出会った料理が下手な人は、いきなりレシピに書いてない食材をぶっ込んだり、計量すらしなかったり、手順を無視したりする人ですね。基礎が身に付いていないのにオリジナルに無謀に挑戦する。あと高級調理器具や高級食材を手に入れては、扱い方が分からず腐らせる人。テリーヌとかそうそう一般家庭で作れるはずもないのに、有名シェフとやらの料理教室に通って高級なテリーヌ型を買わされた人もいました。催眠商法の壺か布団みたいなあくどい商売をやる方もいるもんです。)

DTMで言えば、ソフトやプラグインの使い方、音作りの仕方、前回飛ばしたコード理論なんかも調理器具や基本の食材に当たります。コード進行も半分は手順ですが、あれこれ使い回せるって考えれば基本調味料の「さしすせそ」みたいなもんです。(砂糖、塩、酢、正油、味噌を入れる順番の覚え方。手順を間違えると味が入らなかったり、やたらしょっぱかったり甘かったり落ち着きのない味になる。味噌を最初に入れると風味は飛ぶわ最悪爆発することもあるわ……。ホントですよ。)
そういった基本的なことはちょっと調べたら出てくる、まさに無料で情報が手に入る時代です。
突き放すようですが、そういった簡単に手に入る情報すら自ら探そうせず与えられることを待っている方は、そもそもオリジナルを作り出すことに向いてません。
私の本業もモノを作る仕事でして、そこは共通していると思います。

ま、偉そうなこと言ってても面白くないんで、さっさと本題に移ります。
今回は前回の予告通り、自作品を分析してみます。私がどういう手順で曲を作っているか感じていただければなと思います。

【作曲編】の以前の記事を読み直していたほうが理解しやすいと思いますので、まだ読まれていない方は一読していただくことをオススメします。
ただしくっそ長いです!自分でも読みたくないくらい長い。

何事も積み重ねです。この情報、無料ですよ。

自作品を分析してみる

今回取り上げるのは予告通りこの曲。↓

12曲目『“Allegretta”アレグレッタ』(めろう)。
投稿が2022年1月31日ですので、初投稿から約半年と半月、DTMを始めて8ヵ月くらいの時の曲です。
学生時代に軽音サークルに入っていたとはいえブランクが10年以上ありますしこの曲は完全に新曲です。学生のバンド活動ではこんな曲やったことありません。
アイデアはいつも貯めていますが作業としてはちゃんと20日以内で仕上げています。前作は1月11日、次作は2月15日投稿となっています。次がやったら早い。
フレーズのカケラも何にも無いところから始めて、その何にも無い普通の当たり前の日々をそのまま題材にした感じです。

この作品を取り上げる理由は前回も書きましたが、補足的な部分も加えると、
ABサビ構成を念頭に置いて組み立てられていること、
私の他の作品に比べ、変則コードや転調が少なく理解しやすいこと(楽器ソロのみ転調)、
理解しやすさの要因として、ヒット曲の超王道コード進行「カノン進行」を基本軸に使っていること、
Aメロとサビがそのまったく同じコード進行なのに違うフレーズを生み出していること、そのサビに前回解説のサビの要素が入っていること、
でも実はコード進行からではなくベースギターから制作していること、
そしてアレンジ、歌詞など全編に渡りコンセプトとの一致が見られること、
などでしょうか。

【作曲編】からの繋がりの話なので、主に①~⑤について分析を中心に進めますが、自分で見直してみるとが結構面白い。
1回の記事ですべて解説するとまた膨大な量になりそうなので、の「カノン進行」との「ベースギターからの制作」の詳細については次回以降に回そうと思います。この二つはどちらかというと理論的な話になってきますので、今回は手順のお話優先で、1曲がどのような流れで出来上がっているのかを中心に紹介したいと思います。

先にコード譜を載せておきます。コード譜の見方として縦線( | )が小節の区切りです。歌詞の都合で揃えるのが難しい部分もありますが、できるだけ小節の区切りが縦に整列するように表記しています。
8分の8拍子でテンポはBPM=117。
8分の8拍子ということは1小節に8拍入るということです。四分音符が1分間で117回刻む速さ。再確認大事。

赤=Aメロ、青=Bメロ、サビ=黄色。
紫はブレイク、緑は楽器のみのイントロや間奏。

細かいコードを書くと[Eadd9][Esus4][F#m7][G#m7][B7][B6][AM7]とかをおそらく追加で書けるのですが、できるだけシンプルに大枠のコードのみを表記しています。そのへんはアレンジ用コードです。あとのせエモエモ。
そもそも私は自分の曲をちゃんとコード譜に起こすことはそんなにありません。作曲時にメモ程度に書き留めておくだけです。楽器ごとにわざと違うコードを弾いて、それを重ねることで厚みや複雑さの効果を狙っている場合もあります。先の⑤はその一端です。

コンセプト

先に面白いと言っていたコンセプトについてざっくり解説しておきます。
曲のテーマは「何でもない毎日が物語」。
テーマとはその曲に込めている伝えたい想いや考えの部分です。ただ、音楽の世界だと「テーマ」という単語自体に「主題となる旋律」という意味がありますので、混同を避けるためざっくり「想いや考え」としておきます。また良い単語が思い付いたら使うようになるかも。「スピリット」が私の感覚的には近い単語ですが、スピリチュアルっぽい雰囲気もあるので別の表現のほうが良いかなと考えています。
コンセプトは「世界名作劇場や懐かしい子ども向け冒険アニメのEDソング」です。
コンセプトはその想いや考えをどのような表現法で具現化しているかを具体的な一文で表したものです。どんな曲ですか?と聞かれてこんな曲ですと答えらえるものとも言えます。フレーズや歌詞を考える時に、世界名作劇場、ディズニーアニメ、80~90年代の子供向け冒険アニメをいくつか参考にしています。そこに自分の想いや考えを乗せています。
シンガーはめろうさん。
優しいお姉さんの雰囲気を持つめろうさんでないと歌えないと思います。英語も入っているし小学生のきりたんには無理無理。(何やら怖い視線が画面の奥から……。)
アレンジに当たる使用楽器は、フルート、ピッコロ、ハープ、マリンバなど優しい音色の楽器に、シェイカー、カスタネット、トライアングル、タンバリン、ギロ、ウィンドチャイム、ボンゴ、コンガなど冒険先で出会う人々の民族楽器を彷彿とさせる打楽器類。アコースティックギターがそれを支えています。(以前カリンバを使える力量が無かったと言ったのはこの曲です。)
イラストは『不思議の国のアリス』『ピーターパーン』『人魚姫』『オズの魔法使い』をモチーフにしていてこれも子ども向け。動物もたくさん出てきます。
歌詞も「おとぎ話の~」から始まり「君と往く道のその先を見てみたい~」「まだ冒険は始まったばかり」など冒険アニメのEDで流れる、次回を予感させるような歌詞を取り入れています。
歌詞中に「シナリオ」や「ストーリー」という単語が出てきますが、「シナリオ」とは登場人物の台詞や行動を書いた物語の台本のことです。対して「ストーリー」はお話全体のあらすじ。物語そのものです。
脚本の考え方では「シナリオ」と「ストーリー」のあいだに「プロット」があり、どのシーンをどの順番でどこに配置するかを示しています。私の作曲法に無理矢理当てはめるなら、シナリオがAメロBメロサビといった各パートとそこに登場する具体的な台詞や行動としてのフレーズ。プロットが構成、ストーリーがコンセプトやそこに込められた想いや考えという感じでしょうか。
動画をゆっくりのスライドショーにして歌詞を固定で下に表示しているのもアニメED感を出すため。同時にスタッフロールが流れていてもおかしくない感じを狙っています。
それからアニメソングって放送時間の関係で1番が1分30秒で収まるように作られています。幕開けの「ラララーンラン、ランランラーン♪」の後、イントロの繰り返しを半分にすると12秒削れて、上掲コード譜の間奏まででピッタリ1分30秒でフェードアウトできます。それに収まるようにテンポや小節数なんかも調節しています。
そんなとこまで考えてるの!?とこの曲のコメントでもいただきましたが、そうなんですよ。考えて作ってます。コンセプトに沿って誰も気づかないであろう細部にこだわっちゃう。

基礎固め

『アレグレッタ』は何でもない毎日を冒険の日々に変えていくような明るく前向きな曲がコンセプトです。しっかり道を踏みしめて軽快に歩いていくイメージ。
ということは使うキーメジャーが良いですね。物悲しいマイナーキーでは雰囲気に合いません。
歌声は雰囲気に合わせてめろうさんと先に決まっています。なので音域はめろうさんが一番歌いやすいところにしています。NEUTRINO公式サイトに推奨音域が載っていますので使う音域はだいたい決まってきます。最低音A3~最高音E5がめろうさんの推奨音域です。元から広い。それより低かったり高かったりも多少出ますが、ちょっと苦しそうに歌います。
できれば高音の伸びがキレイなめろうさんの声を活かしていきたいところ。E5を含む高音域をサビに持っていきます。

構成は子どもにも分かりやすいABサビ構成。ということは三幕構成を使えます。そのままA→B→サビと行っても良いんですが『アレグレッタ』の名前の由来の音楽用語「アレグレット(やや速く)」のテンポはBPM=96~120。
タイトルの“Allegretta”はイタリア語の“Allegro”(陽気な)+“-etto”(「少し」の接尾辞)+“-a”(女性名詞形)の造語です。
『アレグレッタ』はBPM=117で作っています。
このテンポで普通にA→B→サビを作るとあっという間に1番が終わって、アニメEDの1分30秒に足りません。無理に伸ばすとABサビそれぞれが間延びしてしまうかもしれません。どこかを繰り返す必要があります。
Aメロ4小節×2回 + Bメロ4小節をまとめて繰り返して、1回目のABを<第一幕>、2回目のABを<第二幕>、サビを<第三幕>として1番の構成を考えました。
先のコード譜で見ると最終的な小節数は以下のようになっています。

(イントロ) 4
<第一幕>12小節
 Aメロ前半 4
 Aメロ後半 4
 Bメロ 4
<第二幕>12小節 (∔ 1小節)
 Aメロ前半 4
 Aメロ後半 4
 Bメロ 4
(ブレイク 1)
<第三幕>10小節 or 12小節
 サビ前半 4
 サビ後半 4
 サビ終わり 2
(間奏) 4
 最後のサビ終わりと間奏が被っているので、間奏前半2小節をサビの一部として考えると12小節です。
Aメロ:Bメロ:サビの比率が、2:1:2.5 or 3。
各幕の比率が、1:1:1になっています。
2番はABの繰り返しが無いのでそのままA:B:サビが、2:1:2.5 or 3。
曲全体で見ると1番:2番:ソロ+ラストサビが、間奏やブレイクでのズレはありますが、2:1:2程度。
全体的に作りやすいと言っていた1~2:1:2~4におおむね沿っています。

パートごとに分析

それでは、それぞれの幕やパートにどんな音を持ってきているか分析していきます。曲と聞き比べながら読んでいただけると分かりやすいかと思います。(秒数はおおよそです。BPM=117なので1秒以下のズレはあります。)

まずイントロ(0:00~0:21)。幕が開く前です。
「ラララーンラン、ランラーンラーン♪」のボーカルコーラスで明るい歌だというの予感させて、その後はずっとアコースティックギターがメジャーコードの[E]を弾いています。実際には[Eadd9]や[Esus4]を追加していますが、これはアレンジの分野でのコードです。ルート音は変わりません。
キーがEメジャーでコードもEメジャー。これ以上無い安定感
ですが、それだけだと退屈に感じますので、追加コードや楽器を増やしていくアレンジ要素を取り入れることで少しずつワクワク感が溢れるようにしています。
(実はこの「ランラーン」の部分が推奨音域を飛び出した最高音なのですが、掛け声みたいなものでメインの歌唱ではないです。)

第一幕
Aメロ(0:22~0:37)。
始まりはイントロから繋がる明るい雰囲気を残しつつ、まだ動き始めていない安定感のあるコードを入口に置いておきたいですね。明るく安定感のある[E]から始まっています。
ただイントロと違って半小節目で早速動き始めますボーカルも入ってきて「お、物語が始まったな」と分かります。ボンゴとコンガのリズムもアレンジとして良い感じに盛り上げてくれています。
ボーカルメロディーのリズムを取り出すと「おとぎーばーなしのー♪」「タンタタ―ンターンタンタンタン」と跳ねるような繰り返しが3回。「~ね、Don't you think」が「タンタンタンタン」と安定。4小節での区切りが分かります。それを2回繰り返してAメロ8小節。
ボーカルメロディーの音域は低~中音域を主に使って大きな音程の上下もありませんが、音程の運びが似ています。ちょっと上がってすぐ下がる。
楽器数も少ないままです。静かな始まりを感じさせます。

そしてBメロ(0:38~0:46)。
ベースギターが入ってきました。音に厚みが増して変化を感じます。
コードは[C#m]から始まっています。マイナーなのでちょっと物悲しい響きのコードです。歌詞も「だけど」と否定語から始まります。
コードのルート音やベース音の流れを見てみると、
「C# B A G# F# G# A B」
と音階が前半で下がって後半で上がって来ます。最後の[B]の後はすぐ第二幕。明るく安定感のある[E]に戻る下準備です。
ボーカルのメロディーラインの前半はリズムを短く切るAメロと違って、長めに伸ばして差別化しています。
「だけど生きる―ことはー♪」「タンタターンターンターンターン、タタターン」。
後半は短めの同じリズムを繰り返しながら最低音からが上がっていきます。
「まだ誰も知らないストーリー♪」「タンタンタターン⤴タンタンタターン⤴タンタタターン⤴」「タンターン⤵」。
Bメロ全体で見ると、コードは物悲しいマイナーコードから始まってルート音とベース音の音階も下がって行く。でも後半は逆に上がってくる。メロディーもゆっくり伸ばしていたのが、後半はリズミカルに戻って音程が上がってくる。「タンターン⤵」で落ち着きを取り戻す。
最初気分が落ち込んでいくようだけど、後半でまた明るい気分に戻ってくるように感じます。

第二幕
Aメロ2回目(0:47~1:02)。
ドラムスが入ってきて楽器がおおよそ揃いました。
やっぱりバスドラムが入るとどっしり土台でいてくれるので、曲の安定感が増します。
<第一幕>は楽器も少なくて少し心細い不安な感じでしたが、ベースギターとドラムスが揃うことで、<第二幕>はしっかり歩いて進んで行けそうな安心感が生まれます。
Bメロ2回目(1:03~1:11)も<第一幕>より何だか安心感があります。
歌詞は否定語ではなく普通の「道草も石ころも♪」。何でもないものが「新しいルートの道しるべ♪」になっていくと先を予感させます。
最後の「~るべー♪」のメロディーは第一幕と変わって「タンターン⤴」と上がっています。サビに繋がる1回目と2回目の変化です。

そしてブレイク(1:12~1:13)。「ジャッ!ジャッ!ジャ!ジャーン!シャラーン」(擬音多い。鼻歌みたいな。)
全部の楽器が同時に同じリズムを刻んで一気に気分が高まります。
リズム自体それまでの8分音符中心とは一味違う、より跳ねる感じ。付点8分・付点8分・8分・4分音符+シャラーンで1小節です。
ここから一番盛り上がるぞ!と一発で分かります。

第三幕
ついにサビ(1:14~1:34 or 1:37 )。
Aメロとまったく同じコード進行なのに、まるっきり新しいメロディーを乗せています。コードが同じということはルート音も同じ。「何度も通った散歩道」のルートも、「新しいルートの道しるべ」だったってことです。うまいこと言った?(笑)
「君と往く道の♪」で最高音E5まで一気に駆け上がります
「みーちーのー♪」の部分が最高音域です。そして少しだけロングトーン
「さーきーのー♪」も同じリズムを繰り返して短いリフレインの連続
ちゃんとサビの3要素が入っていますね。
後半にも同じリフレイン。短い時間でリフレインをリフレインさせて、いやが応にも印象に残ります。
そしてダメ押しの追加。「冒険は♪」と低い音から駆け上がって、「始まったばかり♪」の最後は間奏と被せつつ、イントロと同じ[E]に戻って安定感と落ち着きを取り戻します。

その間奏(1:35 or 1:38~1:42)もイントロと違い、ドラムスやベースギターが入ってさらにどっしり安定していますね。
ここまでで1分42秒なので、イントロの繰り返し1回分の12秒を削るととピッタリ1分30秒です。

これ以降2番も聞いてみると、Aメロのベースギターがめちゃくちゃ軽快に動いています。1番との差別化のためです。足元のベースがステップを踏んでいるような面白さがあります。
歌詞の「Step by step」「泣いて怒って笑って泣いた」「Ups and downs」と相まって浮き沈みを表現しています。
1番だけでなく曲全体を三幕構成で考えたときに<第二幕>に当たる2番は変化させないと1番で飽きてしまいます。そのための変化。
2番のサビが終わるとソロ転調。動画では今までのシーンのイラストが想い出のようにヒラヒラと舞い上がっています。ソロ楽器のピッコロとフルートもヒラヒラとトリルを多用しています。(細かく音程を上下させる奏法。歌声のビブラートのような効果。)
その後に落ちサビではなく、なんと落ちBメロ。脇役に光が当たります。動画では主人公のめろうさんではなく、その周りの動物やキャラクターたちがメインで登場します。歌詞の「ふたつの瞳で見守ってね♪」は共に冒険していく動物やキャラクターたちのことでもありますが、私のP名の「ひとみ」とも掛けています。Pは裏方です(笑)他の曲でも意図的にちょこちょこ「ひとみ」という単語を入れています。
そしてブレイクのリフレイン。変化盛りだくさんの勢いで<最終幕>ラストサビに突入します。
2回繰り返すラストサビの1回目、「君と覚えたい♪⤴」は音程が上がって2回目のラストサビに盛り上がったまま繋がっています。
最後はタイトル入りのラストサビ。コンセプト全開です。
実は1番サビの歌詞の「ありふれた」とラストサビの「アレグレット」は少し韻を踏んでいます。子音を取り出すと「a-r-f-r-t」「a-l-g-r-t」。口唇や舌の動きが似ています。
サビで終わるかと思わせてアウトロにも歌詞とメロディーを乗せています。ずっと続いていく冒険のようです。
その「始まったばかり♪」「続いてゆく♪」「どこまでも♪」「続いてゆけ♪」のリフレインも音程が後半ほど上がっていきます。最後は最高音E5で締めくくり。アウトロはずっーと[E]だけを弾き続けているのに退屈には感じず明るい気分が盛り上がったままで終幕。
なんだかハッピーエンディングの映画を見終わったあとのような気分ですね。

分析終了

いかがでしたか?
ところどころ歌詞やアレンジにも触れましたが、コンセプトや構成に沿った一貫性をもった流れで作られていることを感じていただけたでしょうか。
Aメロは、安定感のある繰り返しのリズムやメロディー。低~中音域でフレーズを作っています。
Bメロは、Aメロから一転不安定感。前半は繰り返しも無く、明るい曲なのにマイナーコードから始まってどんどん下がって行く。でも後半でちゃんと上がってくる。
印象付けるブレイクを挟んで、サビは出だしから最高音やロングトーンやリフレインを詰め込んでいる。Aメロと同じコード進行で安定感も残したままです。
2番以降の曲全体もコンセプトや構成に沿って一貫性を持たせています。

正直こうやって細かく分析してみるまで、自分でもどういう手順で作っているのか言語化できるほど理解していませんでした。感覚的な無意識でやっていた部分も多いと思います。
すべての作品でこれほどはっきり分かるような作り方をしているかは、それぞれ見直してみないとなんとも言えませんが、私の作曲法はこういった考え方を基本にしていることは間違いないようです。

フレーズだけの切り貼り作曲をするとこうはいきません。
サビがどれほど印象的でも、AメロもBメロも最高音を使っていたりメジャーコードばかりだったりすると一番伝えたい事がボンヤリしてしまいます。
フレーズの中でも一番の魅せ所であるサビに、高音・ロングトーン・リフレインの3要素やメロディアスでリズミカルな変化を持って来くることで、より印象付けることができます。
そのために、安定感のある、悪く言えば単調なAメロを作ることもあるし、明るい曲であっても物悲しいマイナーコードから始まるBメロを作ることもある。イントロ間奏アウトロはずっと[E]でコード進行すらしていません。
フレーズからの作曲で意識しておきたいのは、各パートや使う音に役割を与えてあげることです。
私が考える上手い作曲は、それぞれのパートや音がそれぞれ輝く瞬間がある作曲です。いつも言ってる「真価を発揮させる」ってやつですね。

結び

紹介するかどうか迷いましたが、『アレグレッタ』の参考にした作品を4つほど挙げて今回の結びにします。
人によっては「パクリだ!」と思われるかもしれませんし、否定もできません。パクリとオマージュとの線引きは難しいです。
私は1曲を作るためにかなり大量の情報を集めますので影響を受けないほうが難しいです。下手に耳が良いせいか【フレーズからの作曲 前編】で例に挙げた『世界に一つだけの花』や『Built to Last』のように途中で気づくことも少なくありません。結局のところ有限の音程や音符の組み合わせなので、どこかに似たものはほぼ確実にあります。ハーモニーであるカノン進行だってパッヘルベルのパクリだと言われたら誰も否定できません。
むしろ一曲も音楽を聞いたことの無いの人が新しい曲を作れるとは思えません。最初はみんな真似からです。

では一つ目。

魔法陣グルグルED『Wind Climbing~風にあそばれて~』(奥井亜紀さん)。
コンセプトに合わせて曲全体の雰囲気はかなり参考にしています。
イントロのアレンジやサビ前のブレイク、サビで一気に高音に駆け上がる感じがとても好きです。
ソロでの転調→落ちBメロのインスピレーションもここから得ています。

二つ目。

トム・ソーヤーの冒険主題歌『誰よりも遠くへ』(日下まろんさん)。
Aメロの「重たい靴を脱いで気づいた」の歌詞は2番のサビ「重たい靴など脱いで生きようぜ」から影響を受けています。「のんびりと陽気に力強く」の歌詞や海へ向かうというテーマも海生まれの人魚をモチーフにしためろうさんとの共通点を感じます。タイトル元の単語”Allegro“もイタリア語で「陽気な」という意味でしたね。
『トム・ソーヤーの冒険』というタイトルですが、案外冒険でもなくて近所での何でもないドタバタコメディだったりします。
さすがに曲調は当時の時代を感じさせます。『アレグレッタ』とは全然違うものです。

そして三つ目。

リトルフットの大冒険主題歌『If We Hold On Together』(ダイアナ・ロスさん)。
サビの「君と往く~」の音程運びが「If We Hold On~」と実は一緒です。リズムは違うので違うフレーズになっています。
歌詞も結構読み込みました。「Live your story」(直訳:あなたのストーリーを生きて)という歌詞も登場します。
『リトルフットの大冒険』自体、恐竜の子どもが仲間たちと冒険していくお話です。

最後四つ目。

地球防衛企業ダイ・ガードED『走れ走れ』(遠藤響子さん)
冒険アニメではないですが、アニメエンディングのスライドショーの感じやアレンジの使用楽器は影響を受けています。ちなみに編曲は例の菅野よう子さん。
イントロ前の「ラララーンラン~♪」は「走れ走れ走れ~♪」のコーラスを参考にしています。
リズムやメロディーは違いますが、使用楽器のアコースティックギター、ボンゴ、ピッコロなどもここから。Bメロからベースギターが入るところのなどのアレンジも参考にしています。徐々に楽器が増えていきますね。
この曲のタイトルである『走れ走れ』、そしてサビの「走り続けるのさ たまには景色を楽しんで」の歌詞も通ずるところがあります。

その他イラストの『不思議の国のアリス』『ピーターパン』『人魚姫』『オズの魔法使い』は言わずもがな。一通りあらすじなどは読み直しています。
(『ピーターパン』のイラストは『人類は衰退しました』(田中ロミオさん原作)のアニメの妖精さんの影響です。笑)

パクリとオマージュの違いって、私はそこにリスペクトがあるかどうかだと思っています。そしてその要素を自分のものとして再構築できているか。
『アレグレッタ』を初めて聞いて、参考にした上の4作品がすぐにわかった方はいらっしゃるでしょうか? 上4つを混ぜたパクリだろ、と。
私が逆に視聴者の立場なら「あ~!なんか懐かしいアニメのEDっぽい!しゅき。」くらいしか思わないような気がします。
そしてそのコンセプトやそこに乗せた想いや考えは私の内側から出てきたものです。これは誰かのパクリでもオマージュもでもない、私だけのものです。
それを表現する方法として、上のような作品群をお手本に教わった、と私は参考にした作品とその作者の方々を尊敬しています。
どの作品も大好きな作品たちです。

次回予告

次回は、今回解説しなかった「カノン進行」、そして「ベースギター」の謎を理論的な方面から紹介します。
カノン進行は定番中の定番なので、メジャーキー曲を作る時には必ずといっていいほど出てきます。知っていて損はないと思います。
ついでにコード理論にも少し触れますが、理論的なことを知っている方には退屈かもしれません。
ベース音については、『アレグレッタ』のAメロとサビのベースギターの音が、コード進行のルート音と実は違うものになっているという、ちょっとテクニック的なお話です。
そのまま『アレグレッタ』を題材に、ベース音を変えたらどうなるのか、といったハーモニーに関するお話をできればと思います。
主にリズムを支えるドラムス、ハーモニーを支えるベース、そしてボーカルのメロディーが揃えば、それだけでその曲だ!とわかるくらいに一曲の骨格が出来上がります。フレーズだけでなくアレンジにも使われるごちゃごちゃしたコードそのものを勉強する前に、土台が何で出来ているかに触れていたほうが、曲全体を見渡す時に足場になってくると思います。

というわけで、次回もよろしくお願いします。
Thank you for reading!

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