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サクマドロップスと宇宙


3歳の娘が、飯台に向かって椅子を押している。

お目当てはその上のサクマドロップス。

椅子に上半身をヨイショと乗せて、短い右足を振り上げ、全身を使ってよじ登る。
さながら登山家である。

山頂から雑多な飯台を見下ろし、小さな巨人は金色に煌めく四角いそれに手を伸ばす。

なんとも満足げに拾い上げたあと、耳元で何度も何度も振ってみせる。

ガラガラ

カランカラン

コロコロ

コンコンコン

「オカーチャン!!お耳!!」

目をキラキラと輝かせて、私に耳を貸せと言う。
そうして私の耳元で、また同じように箱を振る。

ガラガラ

カランカラン

コロコロ

コンコンコン

繰り返し音を聴いて満足したところで、ようやく開栓。

ザラザラザラ〜

真っ逆さまにして、全部出してしまう。

赤、オレンジ、黄色、白、紫。
机の上で、娘が山頂から持ち帰った鉱物のお披露目会である。

「ワァ〜...キレ〜(綺麗)...」

うっとりとした眼差しで、ひとつひとつをじっくりと眺める。

今この瞬間、まさしく彼女の眼にはそれらが宝石のように映っていることが分かる。

言われてみれば、ドロップのデザインはとても美しい。
私も一緒に覗き込んで、「綺麗だねぇ」と心からの共感を伝える。

開発した人たちが、こういう宝石のような形が好きだったのかな。

食べる人たちが、形も楽しんでくれたら良いなと考えたのかな。

思いを馳せてみる。

ひとつひとつの美しさをじっくりと堪能したあと、娘はスーーーッと深呼吸して、
「いいにおーい!!!」と満面の笑みを浮かべる。

そして、
「ムスメチャンっ、コレにしゅるっ!!」
と言って、その日のお気に入りを選抜する。

頬張って舌で転がすと、小さな両手を丸い丸い頬に押し当てて、

「あまじゅっぱいッ!」

嬉しそうに楽しそうに、飴玉のようにコロコロと笑う。


娘にとって、ドロップを食べるという行為ひとつが、五感をフルに使った大冒険なのだ。

大人になってから、私はこんなに楽しんで飴を食べたことはないし、サクマドロップスひとつでこんなに五感をフルに使うことが出来るとは知らなかった。

いや、知らなかったのではなくて、たぶん、忘れてしまった。

娘は、自分の内側にある無限の宇宙と繋がって、この世を丁寧に味わい尽くす旅人。

そしてきっと、私もそうなのだ。

彼女と出逢ってから、そのことを時折思い出す。


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