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「漂流」あとがき

「漂流あとがき」

ほっこりな作風が定着したと。

そんなHitoYasuMiが全く違う作品に挑戦しようとしたのが、この「漂流」という作品でした。

ホームだった下北沢から離れ、八幡山ワーサルシアターという一歩大きな劇場に踏み込んだ作品です。

漂流チラシ裏

気合の入ったこのチラシは、実際の無人島で撮影するという気合の入れっぷり。

この時の私たちは、夢に溢れていました。(今もだけどネ)

挑戦したいことがたくさんあって、とにかくなんでもやってみような状態だったんです。

ですが…「漂流」は一番、本が上がらなかった作品でもあります。

命懸けで無人島で生きるとはどういうことなのか、経験したことのない世界を構築するのに何回も何回も座組みでディスカッションしました。その度書き直して、書き直して…24稿までになったのかな。色んなシーンが生まれては消えを繰り返し、この台本になりました。

小屋入り直前まで、完成しなかった台本。泣きながら書いた台本。
色んな人に助けてもらってできた台本、です。

初日に「開かない幕はない」と誰かが言った時、こんなに染みる言葉はないと思いました。

本当に漂流してるような気分で稽古期間を過ごしていました。

キャストスタッフ、先輩方には本当に感謝です。

申し訳なさと、不甲斐なさと、悔しさで、もう書くのやめるんじゃないかってくらい自信を失いました。

でも私は今、まだ書いてます。性懲りも無く。

あの頃より成長するために、きっとこれからも書き続けます。

そんな「漂流」振り返ってみたいと思います!



とにかく改変が多かった作品なので、お蔵入りになったシーンなども後ほど紹介してみましょう!

「漂流」執筆BGM

「漂流」の執筆中、延々と聴き続けたのがmatryoshka(マトリョーシカ)、world's end girlfriend(ワールズ・エンド・ガールフレンド)エレクトロニカ、ポストロックって言うんですかね。深層心理に入っていくような、雄大な自然を思わせるような曲です。アイスランド系ミュージックに近いかもしれません。シガーロスとか。

ご興味あればぜひ聴いてみてください。matryoshka の「Monotonous Purgatory」。これはテーマ曲ってくらい聴いたなぁ。
海とか、山とか、雪とか星とか自然が似合う曲です。


なぜ「漂流」

大きなテーマに挑戦したかったんです。究極の愛とか。今までカフェ公演で、ライトミールのような作品を書き続けてきたもので。劇場サイズのテーマを選ぶ時期なんじゃないかと思ったんですよね。

あと「夫婦愛」という、今まで書いたことのないものが書きたかったんです。

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つるうちはなさんというシンガーソングライターの方がいらっしゃるんですけど、めちゃめちゃいい曲を歌われるんですね。その中の「一緒にいようよ」という曲。これを初めて聴いた時に泣いてしまって。夫婦って美しいなあ、書きたいなあと思ったのもきっかけの一つです。「どんなことがあっても、一緒にいよう」こんな話が書きたかったんです。

あとは、この前の年に短編をいくつか書かせて頂いてて。その中で人身事故を扱った作品(『恋の快速急行』)もそうなんですが、命を扱った作品が書きたかったんです。暗くはしたくないし、怖れを全面に出したいわけじゃない。ただ、死を平等なものとしてフラットに描きたかったんです。
 中盤、波瑠が死生観について語るシーンがありますが、そのまま私の死生観です。

この作品を書くに当たって色んな資料を見ました。
 南国の生態系ももちろん。アナタハンの女王事件、海賊のこと、密航者のこと、市橋被告が潜伏していたオーハ島のこと。現実は小説より奇なり、ですが。いろんなことが実際に世界では起こってるんですね。
 今も実は逃亡犯がどこかの無人島に潜伏している…なんていうことはないようで、あるのかもしれません。

そんな人たちがもしいたら、どんなドラマを生きてるのでしょうね。

キャラクター

 誠一と真由美は、とにかく普通のラブラブな新婚さんでしたが、そこからすれ違って、離れて…汗まみれ泥まみれで本当の夫婦になっていくのがとても素敵でしたね。満の存在が出て来てから、不甲斐ない自分と見知らぬ男に対する嫉妬から、誠一がねじれてくのも面白かったです。最後の、龍司に土下座するシーンのセリフは、誠一を演じた俳優が自ら考えてくれたセリフでした。こんなこと言えちゃう男ってかっこいい以外のなんでもないですね…。本当素敵なキャラクターになりました。

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龍司とレイコの不思議な関係性も描いていて楽しかったですね。犯罪グループのリーダーと、その女。人には理解されないところで深く繋がっている二人は、演じていても楽しかったです。(大村はレイコ役でした)

 波瑠は、重たい作品の中で、特に重たい部分を背負ってるにもかかわらず底抜けの明るさとギャグセンスで全体を見やすくしてくれました。史郎との掛け合いも。小ネタが一番多かったです。

 満は…障がい者が犯罪グループに入っているニュースを見つけた時、盛り込みたいなと思って考えたキャラクラーです。もともと手足が縛られてるという設定はなかったんですが、キャスト達のアイディアの中生まれた一番すごいキャラクターだったと思います。江戸川乱歩の「芋虫」を彷彿させますが(大好きなんです)龍司の優しさや弱さを立たせる上でも重要なキャラでした。満役の彼は耳栓をして稽古に臨み、膨大な手話のセリフも覚えてくれました。

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 レイコの中国語や満と真由美の手話、龍司のアクション。今作の見所は指導の先生がめちゃくちゃ多かったっていうのもありますね。それぞれのキャラクターがどんなバックグラウンドで生きて来たか多くを説明しないゆえ、それぞれの言語や体で表現するというのは見ていてきっと楽しかったはず。

ご指導くださった先生方もみなさんとても素敵な方ばかりで。またこういう設定を盛り込んだものやりたいですね。大変だけど…w

少数精鋭で臨んだ舞台でしたが、一人一人のキャラクターで二時間スピンオフ作れるくらい魅力溢れるキャラクターだったと思います。

お蔵入りシーン

その①「救助ヘリがやってくるラストシーン」
初稿のラストシーンはヘリが迎えに来ていました。救難信号を拾ってくれたんですね。

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