1人舞台に魅せられた私たち
私が20代の頃に働いていたカフェで
毎日来ていたお客さまの話
茶色の革ジャン姿に髪型はオールバック
切れ長の目で高身長の50代くらいの男性だった
少し笑みを浮かべてお店に入ると決まって私たちから見て右側の丸テーブルの席に座った
トレーにお水とおしぼりをのせ その男性の席に向かう
「いらっしゃいませ。ご注文はホットでいいですか?」
「ホット」
男性はうんと頷いて決まってホットコーヒーを頼んだ
ここからこの男性の独り言が始まるのだ
なんか聞こえる?くらいの声の大きさで何かをぶつぶつ身振り手振りをつけながら言っている
何を言っているかまでは私たちからは分からない
席を離れるお客さまはいたけれどそれで苦情がくることもなかった
ぶつぶつ言っている光景は毎日の光景になり溶け込んでしまって私たちもいつものか、くらいで
特に気にならなくなっていた
それだけ日常になっていた独り言男性
ある時 真っ白なスーツに身を包んでお店に来た男性はいつもとは立ち振る舞いも違っていて
1人で来ているんだけどそこに誰かがいるような動きをしていた
お水とおしぼりを持って行き注文を聞くと
いつも通りのホットコーヒー
その日の男性はよく笑っていて
声も少し大きくて目に見えない誰かと対面で
ずっとお喋りしてるようだった
1時間くらいお喋りしてただろうか
急に席を立ちさっきまで笑っていた顔とは違う
顔つきでお会計をし男性は外にでた
その瞬間男性は、誰かをかばうように目には見えない誰かに回し蹴りを1蹴り2蹴りし目には見えない誰かに何発もパンチをして帰って行ったのだ
あまりにもその光景は衝撃的でお店のすりガラス越しに見ていたお客さまも外にいた人たちも
一瞬時が止まったみたいにかたまっていた
なんやったんいまの…
一瞬止まった時間がとけたかのように私たちも他のお客さまも男性の話でワっと盛り上がった
私たちは男性が次の日からどんな感じでくるのかいろいろ聞きたい事だらけの男性に喋りかけてみるかどうかの話をしていた
触れたいけど触れてはいけないんじゃないかと言いながらその日の男性の話で持ちきりだった
でも次の日男性は来なかった
それから先も来ることはなかった。
男性は毎日隣に座っている女性のお客さまのことが気になっていた
声をかけるかかけまいか毎日考えていた
やっとの思いで声をかけデートすることが決まった
あまりにも嬉しくて男性は全身白いスーツで
デートに挑んだ
お店に入り椅子をサッと引きどうぞという
座った後はコーヒーを飲みながらたわいもない会話をしながら楽しんでいる
そこにチンピラ風の男たちがいちゃもんをつけて2人の楽しい時間に邪魔をしに入ってきた
腹を立てた男性はチンピラ風の男たちに外に出ろと言い先に店内から出す
お会計を済ませた男性は女性をかばいながら
チンピラ風の男たちに回し蹴り1蹴り2蹴り
パンチを1発2発した後、2度と邪魔するなと言い放って女性と帰って行った
男性と彼女は今頃どうなってるのかな…
私たちの中でこんな茶番な妄想ストーリーが出来上がってしまった
とても変わったお客さまだった
でも来なくなるとどうしてるのかと気になるもんだ
素敵な1人舞台を魅せてもらった話
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