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優しさ、恋に酔う、そして決して離れないと、

いつの間にか春は去って、気づいたら私だけを残したこの季節はあるがまま、ないような弱々しさだけを残してどこかにいった。凛と瑞々しい花の匂い。私はまだ追いかける。

少し前に、君の姿を見て、文字通り心が踊る、ということを知った。世界に色があることを知った。

心の中で持て余していた馬鹿みたいな行き場のない「好き」という感情を、君を思うことで溢れさせた。どの瞬間も君は美しくて、人には見せない小さな悪態ですらも、私の心を喰らっていった。

君がいなくなった夏、私はまるで子供のように泣いた。暗くて、湿った小さな部屋で、全身を涙なのか汗なのか区別がつかないくらいに濡らして、涙が乾くまで、泣いて、泣いて、泣いて、自分の顔を鏡でみたら不細工すぎて、君に見せられないなんて思って、そこで初めて泣くのをやめた。

その後は、一人でご飯も食べられたし、友達とも笑い合えたし、嫌いな学校だって、そこそこうまくやったよ。

淋しかったし、夜はただ一心に怖かったけれど、それでも、息がしやすくなるように頑張って生きた。

君にまた会った夏、私はやっぱり泣いた。
今度は違う心だったけど、涙は枯れてなかった。

君のことを好きでいることが出来る自分が、好きだった。君がいないと私は、感情を忘れた人形のようだった。君にしか見せられない感情があることを知った、君以外はいらないとも思った。でも伝えることはしなかった。出来なかったよ。

「君はぼくの全て、っていま流行りの合言葉とかなにか?」って好きな歌手が書いていた。それを君が笑いながら歌ってた。もしも、合言葉になっていたとしても、君は本当に私のすべてだったんだからしょうがないよね。君にこっちを向いてほしかった。

髪をかけた時にだけ、黒髪から覗く、少し光った茶色の気分屋な髪が好きだと笑っていた。

風になびいて目に留まる、あの日の熱を思い出してまた君が離してくれない。

もう桜は散っていて、花が身体のまま降る時に、君がシャッターをきる、流し始めたよく知らないインディーズバンドと耳に伝う風が心地よくて、きっとそこには永遠があった。

君が眉毛をくいっとあげて、悪戯げに私をみて、後ろを通り過ぎるタクシーも、足元を走り去る疎らな猫も、夢をみているみたいに君を思い出す。

私にないものを君は全て持っていた。それが羨ましいとか、私もそうなりたいとかじゃなく、君が持っていた全てのものが私の形にしっかりとハマって、私の土台となり、私はそのまま倒れずにすんだ。

花はいつの間にか枯れていて、また新しい名も知らない花が。

生臭い、酔いが回りそうな花が、身体にこびりついて離れない。

これが不快なのか、心地いいのかわからないまま、少しまぶたを閉じていた。

君はただ「ゆっくりね」って私に言うだけだった。

  

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