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シリーズ「地域のために、わたしたちにできることってなんですか?」流通科学大学・長坂さんと考える、商店街・街、各店舗、消費者、東京の外部プレーヤー「四方よし」の地域経済の活性化。

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株式会社読売広告社・ひとまちみらい研究センターは、「地方創生のまん中に、ひとがいる」を理念に掲げ、地域が抱える課題に対し「観光振興」「産品開発」「移住・定住」「ブランディング」等、独自のワンストップソリューションで応えるプランニングチームです。

地域の潜在価値を掘り起こし、高めていくためのモノづくり・コトづくり・場づくり、そして最も私たちが重視する担い手(ヒト)づくりで、地域を熱くサポートしています。

今後さらに地域の方々に寄り添い、本当の意味で「地方創生のまん中に、ひとがいる」状態を目指すために、地方創生の第一線で活躍する方々と対談を重ねながら「地域のために、わたしたちにできることはなにか? 」をあらためて問い直す企画を始めることにしました。

その名も、「地域のために、わたしたちにできることってなんですか?」

もちろんこの問いに絶対の正解はありません。わたしたちに「できること」を見い出すために、地域に関わる第一線で活動されている方々と議論を交わしながら答えを模索していきます。

第3回目の対談相手は、流通科学大学商学部 准教授の長坂 泰之さん。これまで、全国各地の中心市街地活性化基本計画策定支援、中心市街地実効性評価事業・中心市街地診断サポート事業などを通じた支援のほか、阪神淡路大震災では新長田地区の小売市場や商店街の再生支援、東日本大震災では津波被災地のまちなか再生計画策定支援などを行ってきました。

●対談相手
長坂 泰之さん
流通科学大学 商学部 准教授
長坂泰之 流通科学大学商学部 准教授
横浜市立大学大学院都市社会文化研究科博士後期課程修了(学術博士)
1963年横浜生まれ。1985年独立行政法人中小企業基盤整備機構奉職。国の中心市街地・商店街再生、阪神・淡路大震災・東日本大震災の被災市街地の商業集積の復興を支援。2019年から現職。専門は、流通政策、商業まちづくり、中小企業経営論。著書に、「中心市街地活性化のツボ」(単著)、「100円商店街・バル・まちゼミ」(編著)(ともに学芸出版社)他。中小企業診断士(経済産業省)、地域活性化伝道師(内閣府)。
●ファシリテーター
岡山 史興さん
70seeds株式会社の代表取締役/ウェブメディア『70Seeds』編集長
「次の70年に何をのこす?」をコンセプトに掲げる70seeds株式会社の代表取締役編集長。
これまでに100以上の企業や地域のパートナーとしてブランド戦略立案からマーケティング、PR、新規事業開発を手掛ける。
2018年から「日本一小さい村」富山県舟橋村に移住、富山県成長戦略ブランディング策定委員などを務める。
●株式会社読売広告社・ひとまちみらい研究センター
角田文彦
センター長代理
1968年東京都世田谷区出身。テレビ局担当後、営業局にて、ビール・飲料、食品・出版・電力会社などを担当。2021年より現職、地方自治体では山梨県、長野県、島根県、大分県、熊本市など担当。ネブタ・スタイル有限責任事業組合職務執行者として青森のねぶた祭りの産品開発にも従事。

森 悠介
第1プロデュース部 担当部長
1977年京都府出身。営業・クロスメディア担当を経て、営業局にてビール・自動車・航空会社・内閣府等を担当。2021年より現職として中小企業庁の商店街事業事務局業務に従事。
※2022年3月時点。

つくしの芽を育てるように、地域で奮闘する人を応援したい

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長坂さんのキャリアの原点は、大学卒業後すぐに独立行政法人・中小企業基盤整備機構に就職したことから始まります。国の仕事に従事していた最中、より現場に寄り添った働き方がしたいと『中小企業診断士』を取得したことが地域に足を運ぶきっかけとなりました。

そこから人生が大きく変わった、という長坂さん。各都道府県の中小企業を支援するキャリアを歩み始めます。地域活性化伝道師、中心市街地サポートマネージャー、陸前高田市まち・ひと・しごと総合戦略策定委員他に就任し、著書『中心市街地活性化のツボ』『失敗に学ぶ中心市街地 活性化』などを上梓。長年にわたり、中心市街地・商店街の活性化、震災復興などの現場支援に携わってきました。

「商店街に限らず、地域を盛り上げようと頑張っている人、これからなんとかしようとする人たちの想いを、つくしの芽のように伸ばしていくお手伝いがしたい。それが一番やりたいことなんです」

そう話す長坂さんは、歴史ある商店街をこれからの時代にも残していくため、現場の若い人たちと対話を重ねながら、これまでのやり方にとらわれない地域再生を実践しています。

欧米ショッピングモールの参入によって変化した商店街を取り巻く環境

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岡山:まず最初に長坂さんの視点から捉える、これまでの商店街の変遷や課題について伺いたいと思います。

長坂:商店街の全盛期は、1960〜70年代。今から約50年くらい前ですね。そこから1985年のプラザ合意と1989年の日米構造協議により、欧米のショッピングモールの参入が認められ商店街の衰退が徐々に始まっていきました。

とはいえ海外のショッピングモールは日本の生活様式に合わないものも多く、撤退する企業も多くあったんです。最終的に残っているのがみなさんご存知の『イオン』さんだったんですね。で、結果的に「商店街 VS イオン」のような中心市街地と郊外の構図で捉えられることが増え、そもそも日本に存在しなかったショッピングモールの数も、気づけば約3000にまでなっています。

岡山:それによって商店街は疲弊してしまっているということですよね。

長坂:そうですね。ショッピングモールの数が増えたことで、中心市街地・商店街は大きな打撃を受けました。さらに言うとインターネットで買い物ができるようになったり、またコロナ禍の影響もあり、私たちはさらに街に出て買い物をしなくなりましたよね。商店街の役割は、0になったとは言いませんが、だんだん小さくなっているのは事実だと思います。

角田:そこでなんとか耐えている地域の商店街もありますが、すでにシャッター街になってしまっているところもあり、東京の広告代理店という立場からどうサポートしていくといいのか、なかなか難しいなと感じています。

長坂:そうですね。厳しい側面もありつつ、できるだけ支援しようと始まった取り組みの一つが、『がんばろう!商店街事業(旧:Go To 商店街事業)』です。商店街等が行うイベント事業のサポート、新たな商材開発やプロモーションの支援をすることで、改めて地域の魅力を知るきっかけになったり、地域の消費者と生産者がつながる場をつくれたらと思いますね。

いかに過去の成功体験を捨てられるか。商店街再生のカギ

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岡山:この50年で商店街を取り巻く環境もかなり変化したのですね。

長坂:昔はショッピングモールやインターネットがなかったので、買い物をしたければ商店街に行くしかありませんでした。なのでイベントごとをやれば、地域の人が自然と集まってきて賑わいがあり、稼ぎもちゃんとある時代だったんです。

でも今はイベントを主催しても客足は遠く、なかなか売上につながりません。足を運んでくれるお客さんも、買い物自体はインターネットやショッピングモールで済ませているので、ただ楽しい雰囲気を味わいに来ているだけだったりもします。

角田:たしかにイベントをやると文化祭のようでわくわくしますが、売上につながらないと、運営側は厳しいものがありますね。

長坂:そうなんです。ところが商店街が全盛期だった時代を知っている年配の方々は、今の時代とのギャップに気づかない。当時の意識のままイベントの効果を信じて同じようなことを開催し続けている商店街も少なくありません。

でも若い人たちは、気づいているわけですよ。するとそもそもイベントに参加する意味がわからなくなってしまって。たしかに文化祭みたいに盛り上がる楽しい側面もありますが、残るものがない。それに気づいている若い人とのギャップは大きいと思いますね。

岡山:実際に長坂さんが経験された、世代間ギャップはありますか?

長坂:ありますね。例えば、140年の歴史がある神戸の元町商店街。私たちまちづくりに携わっている者は、「元町商店街といったら、横浜と神戸にある商店街だな」とすぐに連想できますが、神戸の若い人たちは「元町なんて名前も知らない若者もいますよ」と平気で言うわけですよ(笑)。ベテランの年配者たちは、「え!そこまでいっちゃってるの?」ってショックを受けるわけです。

でも考えてみると、普段からインターネットやショッピングモールで買い物をする人は、商店街がなくても生活できるわけです。今の時代にあった商店街をつくるには、過去の成功体験にしがみついていては難しい。まず現実を直視するところから始める必要がありますね。

岡山:長坂さんのエピソードを伺って、読広さんも思い当たる事例はありますか?

森:私たちも商店街の年配の方々から「東京から来たよそ者が入ってくるな」と門前払いされてしまった経験はありますね。

長坂:ただ年配の世代でも柔軟な発想で、新しいまちづくりのあり方を提唱している方もいます。例えば、空室が多く家賃の下がった衰退市街地の不動産を最小限の投資で蘇らせ、意欲ある事業者を集めてまちを再生する「現代版家守」(公民連携による自立型まちづくり会社)による取り組み。この動きをリードしている清水義次さんは、著書『リノベーションまちづくり 不動産事業でまちを再生する方法』を上梓しており、私たちより上の世代です。

世代・肩書き・実績に関係なく、課題がよく見えている人たち同士が協力し合えば、化学変化が起こり、商店街の新しいビジネススタイルを生み出していくのではないかと思いますね。

人として信頼を得る。地域経済と外部プレーヤーの関わり

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岡山:保守的な考えの商店街組織は、外部からの新しい考えを取り入れづらく、地域で若い人も活躍しづらい側面があるということがよくわかりました。

長坂:ただ私としては、そこを少しずつ変えていくのが一番楽しく、やりがいを感じます。年配の方々のプライドを傷つけずに上手く懐に入れたらガッツポーズです(笑)。

岡山:上手く地域や商店街に入っていくコツはあるのでしょうか?

長坂:人として信頼してもらえるか?という視点は大事にしています。信頼を得るにはある程度の実績や肩書きも大事ですが、そればかりに頼ってしまうと上手くいきません。強みの一つではあるけれど、その人の全てではありませんから。

特に印象的だったのが、震災復興で陸前高田市を支援していたときのことです。震災後は、たくさんのコンサルタントが営業をしに来ては、消えていき、来ては、消えていき、その繰り返しでした。国からの職員でも信用してもらえないことも。それくらい地域の方々は、「本当にこの人は、信頼できるのか? 」と感覚を研ぎ澄ませているんですよ。

角田:少なからず外から来る人への警戒心はありますよね。私たちも、いかに人として信頼してもらえるか?人間力が重要だと思っていて。仕事や肩書きは一旦置いておき、人としてじっくりコミュニケーションをとるなかで少しずつ距離が縮まり、結果的に仕事でも良い関係性を築けた経験があります。

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長坂:「人として」とか「人間力」という部分は、有事のときも当てはまるそうで、震災後の避難所を取りまとめるリーダーは、地位やお金があってもなれないみたいです。特に避難所のような場所では、資本力があってもお金で解決できることは少ない。それよりも本当に困っている人に寄り添い、話を聴く力がある人に周囲は信頼を置くようです。

森:そう考えると広告代理店は、地域や行政、クライアント企業といったあらゆるステークホルダーとの関わりのなかで課題を解決するので、そのコミュニケーション力を活かして、地域の人とも関係を築いていけそうだなと思いました。もっというと、地域に足を運び、課題に耳を傾け、提案するところまで伴走したいですね。

「人」にフォーカスし、地域の魅力を伝える。読広ならではの情報発信

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岡山:長坂さんに伺いたいのですが、地域経済の活性化を考えたとき「商店街・街、各店舗、消費者」の三者に加え、読広さんのような東京の広告代理店といった外部プレーヤーも含めた「四方良し」の関係性を築くためには、具体的にどのような取り組みをしていけばいいのでしょうか?

長坂:商店街を例として考えたとき、その店ならではの個性的なサービス、営業、接客をされる方々ってたくさんいますよね。少なくとも大手チェーン店のようなマニュアル通りの営業はしていない。

その地域に、その店に、足を運ばないと出会えない「人」にスポットライトを当てて情報発信をしていくことは、読広さんのような地域に寄り添う広告代理店の得意分野なんじゃないかなと思うんです。

森:たしかに、商店街はお客さんとの距離も近いので、より「あの人から買いたい」「あのお店の人と話したいから行こう」という気持ちになりやすいですよね。

長坂:実は元町商店街でも「人」を発信していくことで他の地域との差別化を図ろう、と若い人たちと話しているんです。「元町という地域にはこんな面白い人がいるんだぞ」という発信を通じて、これまで元町を知らなかった人にも「なんか面白そう」と興味を持ってもらえたら嬉しいなと。

岡山:それこそ、「ひとまちみらい研究センター」という名前の通り、人にフォーカスしたプロジェクトは、より読広の強みを発揮できそうですよね。

長坂:商店街を再生するには、どうしてもその地域の人たちだけでは難しい側面もあります。外部プレーヤーの方々の力を借りながら、柔軟に発想を膨らませられれば、結果的に「人」だけでなく「もの」「こと」の魅力、ひいては地域全体の面白さが伝わっていくのではないかと思いますね。

もし長坂さんが読広の社長だったら、どうしますか?

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角田:ありがとうございます!では最後に、もし長坂さんが読広の社長だったら、どうしますか?という質問で締めさせていただきたいと思います。

長坂:規模や知名度のある読広さんだからこそ、これまでの実績を一旦横に置き、0から立ち上げるくらいのイメージで新しい取り組みに着手してみても面白いと思います。自分たちの成長を妨げているのは、過去の成功体験だったりもするので。そういう柔軟な発想を持って仕事ができるとより地域との関わりが面白くなると思いますね。

コロナ禍なこともあり、商店街の現状はたしかに厳しいです。でも一方で、時代の潮目が変わり、新しいビジネスチャンスが生まれる時期でもあると思うんです。ピンチをチャンスと捉え地域と東京の外部プレーヤー双方の力によって、これからの時代にあった商店街をつくっていきたいですね。

◯まとめ
テーマ:商店街・街、各店舗、消費者、東京の外部プレーヤー「四方よし」の地域経済の活性化
・商店街が衰退し始めたきっかけは、欧米のショッピングモール参入により「商店街 VS ショッピングモール」の構図ができあがってしまったから
・商店街が全盛期だった時代を知っている年配層と若い人との間に認識のギャップがある
・世代・肩書き問わず、過去の成功体験を捨て現実を直視できる人が新しい商店街を展開できる
・東京の外部プレーヤーが地域や商店街に入っていくには、人として信頼されることが大事
・他の地域と差別化を図るには「人」にフォーカスした情報発信がカギとなる
・これまでの実績を一旦横に置いておき、0から始めるイメージで商店街再生に取り組む

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※本取材は撮影時のみマスクを外し、インタビュー時はマスクを着用、感染症対策を講じた上で実施いたしました。

コンテンツ制作・監修 70seeds編集部
執筆:貝津 美里 編集:岡山 史興 写真:鈴木 詩乃 制作進行:大森 愛

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