『初めての面接官』

 課長が出張で不在中にアルバイトの面接が入り、「これも経験だから」と主任と二人で面接官をすることになった。今までの人生で企業に面接をしていただく側は何度も経験しているけれど、面接官として採用するかどうかを決める立場は初めてだ。事前に主任と面接の流れを共有し、自分なりに質問したいことを手帳にまとめるなどして思いつく準備をしておいた。その時に脳裏をよぎったのは、大学時代の就職活動や社会人になってからの転職活動の時の自己分析や面接対策。イチニシアチブは主任が握ってくれているのだから、思い切って聞きにくいことを質問することに徹しようと決意する。別に意地悪をしたいのではなく、お互いのミスマッチを防ぐためやたった数十分で応募者の人間性を知るためには、当たり障りのない質問だけでは難しいのではないかと感じたからだ。


 面接当日は、パートさんたちに加えて新人と派遣社員への指示、おまけにトラブルが頻発して昼休憩も結局取れないまま十三時半からの面接に臨むことになった。地に足がつかないまま応募者が待つ会議室へと向かいながら「今まで自分の面接をしてくれた人の中にもひょっとしたら忙しい合間を縫ってくれた人だっているかもしれない」などと、ふと考えてみる。「緊張するねぇ」という主任の一言で我に返り、会議室に入ると「慣れてないからかもしれないけど緊張するのは決して応募者だけじゃない」と思い知る。


 「差し支えなければ、前のお仕事を辞めてしまった理由を教えてください」

 「一緒に仕事をするパートの方々は優しい人たちですが、時には厳しいです。やっていけそうですか?」


 面接の終盤に、応募者である二十五歳の女性へ一丁前にこの二つの質問をぶつけた。結果的にこの応募者は不採用となったけれど、少なからず他人様の人生の選択に関わってしまったことに恐縮する。たった数十分であの人の何がわかったのだろうとも思う。しかし、そのたった数十分で「パートさんたちと上手くやっていけないだろうな」と直感したことも恐らく間違っていないのだと思う。送られてきた履歴書の入った封筒の宛名が修正テープで修正されていて、ヨレヨレのTシャツにジーパン姿で面接中に父のことをお父さんと呼び、志望動機が「家から近いから」「お父さんに求人のチラシを見せられて」と語っていたことが全てだ。「たった数十分で何がわかるのか」ではなく、残酷ながらきっとそのたった数十分に生き様全てが現れてしまうものなのだということをまざまざと知った。


 面接をした会議室は、約二年前に自分自身も面接を受けた場所だった。時の流れと成長を実感すると同時に、結局は面接うんぬんに関係なく、改めて日常をしゃんと生きなくてはならないと、人知れず背筋を伸ばしていた。

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