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電車時間

 片道1時間半。往復3時間。
 家と駅の間の自転車の時間も含めた電車通勤に要している時間だ。大学生の時以来、12年ぶりにまたこの駅から電車に乗るようになって3ヶ月が経った。


 プラットホームで晩夏の朝の空気を吸い込むと、懐かしいようで振り出しに戻ってしまったような思いがこみ上げてくる。金曜日の帰りに車窓から見えた夕焼けが綺麗で、ふと思い立ってスピッツの『遥か』をイヤフォンから流した。この『遥か』を中学2年生の時の自然教室で歌った。ふとした時に今でも聴いてるのは恐らく自分ぐらいだろうなどとぼんやり考えながら、車窓越しの茜色に染まった空に目をやって、電車の揺れに身を預けた。


 この通勤時間をどう過ごすかで、今後の人生を左右すると実は大真面目に考えている。かといって、それは電車の中でテスト勉強をしている高校生や大学生のように切羽詰まったものとも少し違う。業界のニュースをチェックしたり、仕事で気づいたことを手帳に書き留めたりすることの割合はごく僅かの時間で、どちらかと言えば「どうすればこの通勤時間を楽しめるか」という意味合いの方が断然大きい。


 今更ながらApple musicを始めてみた。聴いてみたかったけど聴けていなかったアルバムや、名前は知っていても聴かずじまいだったアーティストを聴くことができて、目から鱗が落ちる。それから、読書。行きは音楽を聴いて、帰りは小説やエッセイを読むことが多い。眠気に襲われて同じ行ばかりを読んでしまったり、没入し過ぎて降車駅を通り過ぎたりしてしまうこともあるけれど、スマホ中心の生活にホッと一息も入れてくれる。


 あの駅で降りて、今日も8時15分の普通電車を待つ。12年前のように地下鉄には向かわない。5分後には、電車がやってくる。イヤフォンから流れるあの曲の歌詞が、職場に向かう電車に乗り込む背中を押す。


 かわる!かわる!
 かわってく覚悟はあるはずだ



ひとくちギョウザ

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