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練習は本番のように 本番は練習のように


 出番前のステージ裏で胸に手を当ててみたら心臓の鼓動が明らかに高鳴っているのが伝わってきた。何度か深呼吸をして「練習どおり」と自分自身に言い聞かせる。こんなに緊張するのはいつぶりだろう。しかし、この緊張状態の中でも早くマイクを掴んで歌いたくてウズウズしていた。リハーサルである程度の手応えを掴んでいたし、またそれはひとえに、ライブ当日も含めて計3回スタジオ練習をしたことや夜寝る前に歌い込みをするなどして練習を積んできたからでもあった。


 そもそも練習の大切さを突きつけられたのは、全国大会常連の強豪校の剣道部に所属していた高校時代にまで遡る。当時は何ひとつわかっていなかったけれど、補欠にすらかすりもしなかったあの3年間を振り返る度に努力が足りなかったことをただただ痛感する。そして、あれから15年以上が経った今も努力を怠ったあの3年間がどこかで呪いのように付きまとい、あの頃の自分自身を反面教師にすることで、この罪滅ぼしめいたことをこれからも続けていくのだと思う。どうか少しでもかっこいい奴になるために。


 「練習は嘘をつかない」

 「練習は本番のように 本番は練習のように」

 今回のライブが決まった時、高校時代に耳にタコができるぐらい聞いたこれらの教えを真っ先に思い出した。それから、何度もそのライブに背中を押されたTHA BLUE HERBのBOSSもインタビューや曲間の語りで「練習しておいて良かった」と言っていたので、練習だけはしなければと思った。そして、BOSSではないけれど「練習しておいて良かった」と、ライブを終えてからこの身を持って実感したのだった。


 人生初のライブを経験して、ライブでしか辿り着けない感情の爆発がまだ自分自身にあることを知った。昨夜のステージ上からの景色とあの時確かに聞いたフロアからの歓声は、後ろ髪を引かれるように少しずつ日曜日の白昼夢へと化していく。

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