ワンピース×考察:2年後の麦わらの一味は幸せを選択している?【Ep15】
こんにちは、ひとかどさんです。
先週ご紹介した"選択理論"から何か得るものはありましたか?
おさらいですが、先週は「人は刺激を受けて意識的に反応し、その時自分にとって最善と思われる行動を“選択”している」という"選択理論"を紹介しました。
グラッサー先生の"選択理論"では、他の誰でもない自分の人生を、自分で責任を持ち、主体的に行動することで、積極的に幸せを"選択"していこうと説きます。
一方で、人はいくつかの基本的欲求が満たされないことを他人のせいにしたり、他人をコントロールすることで自分の望みを叶えようとするとき、人は不幸になるので、「人は不幸を選択している」と説明されます。
・・・。
う〜ん。言っていることはなんとなくわかるけど、難しいですよね。
そこで、今週は、漫画『ONE PIECE』を題材に、この理論をより深く味わうための考察をしてみようと思います。
特に、グラッサー先生のいう、人が喜びを増し、悲しみを減らす時に持つ5つの基本的欲求(生存、愛と所属、力、楽しむ、自由)に沿って、5人の魅力的なキャラクターに登場してもらおうと思います。
題して、「2年後の麦わらの一味は、幸せを選択している」です。
では、お楽しみください!
(1)生存の欲求:ロビンの事例
5つの基本的欲求のうちの一つ、生存の欲求、つまり「生きたい」という気持ちについて考えてみましょう。
「麦わらの一味」、「生きたい」とくれば…。
言わずもがな、一味の考古学者「ニコ・ロビン」でしょう。
ロビンは考古学者が集い歴史の研究をしていた国・オハラで生まれました。オハラは、ロビンが8歳の時、政府が禁止している古代文字を扱った歴史の研究をしていたとして、政府によって国ごと地図から消されてしまうのですが、その生き残りがロビンです。
世界が禁止している研究を行った学者達は”オハラの悪魔達”と呼ばれ、その思想を受け継いでいるロビンは、8歳にして7,900万ベリーという高額の懸賞金をかけられました。その結果、どこに身を置いても、裏切られ、常に命を狙われ続けるという壮絶な半生を過ごしてきました。
そうした過去があるためか、2年前のロビンは「生きたい」という欲求を諦めていたと考えられます。そのロビンを突き動かしていたのは、滅ぼされた故郷のためもあってか、世界の全ての歴史を知りたいという気持ちだけでした。
実際に、アラバスタで、歴史の手がかりの最後の希望が絶たれた時、他人のせいにして、崩れゆくガレキの中で、自分の人生を生きるという希望を捨てていたように思います。
しかし、エニエスロビーの一件で、ロビンの心情は一変しました。
ルフィたちを政府の攻撃から守るため、自分の身を犠牲にし、政府に身を売ることを決意したロビン。そんなロビンをルフィたちは、政府の玄関口であり司法の島・エニエスロビーまで追ってきた上、最後にはロビンの話を全て聞いた上で、政府の旗を撃ち抜く(=「世界政府」への宣戦布告)という行動に出ます。
そして、ルフィはロビンに訴えかけます。
「生きたい」と言え!
これを聞いたロビンは…
生きるということ。
それはロビンにとって、これまで誰も許してくれなかったこと。
それなのに、麦わらの一味は、自分の過去も、自分の大きすぎる"世界そのものという敵"も知った上で、自分1人を救うために、誰一人躊躇なく世界を敵に回す。
そのことを受けてロビンは答えるのです
「生きたい!私も一緒に海に連れてって!」
”選択理論”的に言えば、とりもなおさず、これまで「自分は生きていてはいけない人間なんだ、誰もそれを許してくれない」と他人のせいにして、生きる欲求を放棄するという不幸を選択してきたロビン。
それが、ルフィたちの気持ちに応えて、自分の人生に責任を持ち、主体的に生きることを選んだ、すなわち、幸せを選択した瞬間だったでしょう。
(2)愛と所属の欲求:チョッパーの事例
2つ目の基本的欲求、愛と所属の欲求については、麦わらの一味の船医・チョッパーに登場してもらいましょう。
チョッパーといえば、生まれた時から青っ鼻で、親に気味が悪いと見離され、いつも群れの最後尾を一人寂しく歩いていました。そしてある日、悪魔の実を食べてしまい、いよいよバケモノ扱い。群れから追い出されて、所属の欲求に飢えていました。その後は、悪魔の実の能力で人型になり人里におりるも、その姿も人になりきれておらず、人間のコミュニティーにも所属できないという状況でした。
こんな中でも、誰かと繋がりたいという所属の欲求を捨てることができず、不幸を選択してしまっていた、それが2年前のチョッパーであり、「バケモノ」と呼ばれることに過剰に反応していました。
ところが…。
2年後のチョッパーはどうでしょう。魚人島で、修行の結果、唯一人間に近かった変形が様変わりした様子を見たゾロから「ずいぶんバケモノじみたな」と言われたとき、笑ってこう返したのです。
2年前と比べると、なんという強い心力、そして成長でしょうか。
チョッパーは、ルフィたちの仲間になって以来、”麦わらの一味”という自分の所属を確保したわけですが、それ以上に、所属を求める上での自分の気持ちを、主体的に形成し、自分の人生に自ら責任を持つようになっていたからこそ、こうした気持ちを持てたと言えます。
これも、チョッパーが幸せを選択しているということでしょう。
(3)力の欲求:ウソップの事例
3つ目の力の欲求については、ウソップで見てみましょう。
ここでいう力の欲求とは、肉体的な強さ=パワーだけでなく、何かを成し遂げたいとか、権力を示したいということも含む広義の「力」です。
ここでは、ウソップの「周りへの権力の示し方」を考えてみます。
権力を示す、その最たるものが「役職」でしょう。
2年前、ウソップはことあるごとに「おれはキャプテン」という趣旨の発言をしていました。ルフィ達の仲間になり、メリー号に乗り込むときの第一声も、「キャプテンはおれだろうな!!!」でした。
これは、ウソップの夢である「勇敢なる海の戦士」と、今の自分のギャップを埋めるため、自信がない自分をごまかすための、一種の「権力の誇示」とも言えるのではないかと思うのです。アラバスタ戦はその良い例です。
しかし、ウォーターセブンでの一件以来(詳しくはこちらの過去記事「ルフィとウソップの決闘の考察」も読んでみてください)、「キャプテン・ウソップ」的な発言は一切なくなりました。むしろ、自分の役職は”狙撃手”であり、その役割は”仲間の援護”であると、麦わらの一味における本来の自分の役割を主体的に受け入れるようになりました。アラバスタ戦と比べると、その発言の違いは一目瞭然です。
その結果はどうなったでしょうか。
そう、色んな偶然も重なりながら「ゴッド・ウソップ」と周りから崇められ、ある意味、最高ともいえる形で力(=権力)を手にすることができたのです。
これも、ウソップが幸せを選択できたからと言えるかもしれません(笑)。
(4)楽しむ欲求:ナミの事例
2年前のナミは、故郷ココヤシ村が魚人アーロンの海賊団の支配下に置かれ、辛い半生を過ごしてきました。
そのせいで、ルフィと会うまでのナミは、「海賊専門の泥棒」を生業とし、まるで自分の村を支配する海賊(魚人)への怒りを、魚人のみならず海賊全般に対して報復しているかのようでした。
しかし、ルフィと出会い、村がアーロンの支配から解放され、ルフィ達と本当の意味での仲間になった時から、少しずつ変化が生じます。
それが決定的に感じ取れたのが、魚人島編にて、アーロンを東の海に解き放った張本人であるジンベエとの会話でした。
ナミに対して謝罪するジンベエに対するナミの発言に現れていたのは、全てをひっくるめて自分の人生を、楽しく受け入れ、今の人生を楽しく生きている清々しいナミの姿でした。
そこには、かつては不幸を”選択”していたナミの面影はなく、幸せを選択したナミの姿がくっきりと映っているように感じました。
(5)自由の欲求:サンジの事例
最後の自由の欲求については、麦わらの一味のコックにして、海賊王の両翼・サンジです。
サンジは、2年前も2年後も、自由することができていたでしょうか。
思うに、サンジは優しすぎるがゆえ、いつも何か(他人)に縛られ、行動していたように思えます。これはサンジの騎士道が成せる魅力の一つであることは確かです。しかし、今回の文脈で考えたとき、主体的に行動できていないという点では、悲しいことに、不幸を選択しているといえるでしょう。
そんなサンジが、自分の殻を破り、幸せを主体的に選択できるようになるのは、ホール・ケーキ・アイランド編以降でしょう。
ホール・ケーキ・アイランドで、ジェルマ66(実の家族)とビッグマムの陰謀により、育ての親ともいえる恩師ゼフと海上レストラン・バラティエを人質にとられ、自分の夢も諦め、ビッグマムの娘との政略結婚に臨む覚悟を決めるサンジ。
優しさゆえ、他人よってに自分の生き方を自由に決められない、なんとも辛い不幸の選択です。
しかし、そこへ現れ、サンジを連れ戻しにきたのが、船長・ルフィです。
その時、サンジがルフィに対して放った言葉。それはー
本心を隠し、「もうお前たちの元へは戻らない」と言うサンジ。
そんなサンジに、ルフィは「戦わない決闘」で臨みます。
サンジの強力な足技を受けながらも、何もやり返さず、でも一歩も引かない。そんなルフィを、サンジは何度も蹴りつけ、ついにルフィは気を失ってしまいます。
その場を立ち去ろうとするサンジ。気力で吹き返したルフィはー。
(余談ですが、いつも「海賊王におれはなる」と口にするルフィが、「海賊王になれない」という発言をしたのは、後にも先にもこの一回だけでしょう)
そして、再び「約束の場所」で再会したサンジとルフィ。サンジは、ルフィと目を合わせずに、自分は今更ルフィの船には戻れない」と淡々と伝えます。すると、ルフィは…。
本心を言えよ!!
サンジはようやくルフィの顔を、目を見ます。
すると、楽しかった船の上での日々が、仲間達とのやりとりがありありと目に浮かび…。ついに…!
このように自分の本心を伝えるのです。
これに対してルフィは…。
さぁ、ルフィに本心を伝えてからのサンジ。
その後も色々なドラマがありましたが、ホール・ケーキ・アイランドからも無事に帰還することができました。
ポイントは、ワノ国以降では、サンジが本当に主体的に自由を選択しているということです。
象徴的なのが、百獣海賊団の幹部ブラックマリアに捕まり、自分に勝機がないと判断すると迷わずロビンに助けを求めたシーン。そして、敵の大看板・クイーンとの対決で、ジェルマのレイドスーツを着て科学の戦士になることが海賊王になるルフィの役に立つことを認識しながらも、レイドスーツを壊したシーン。
これまでの、人のことを考えてしまう優しいだけのサンジだったらできなかったようなことを選択する姿に胸を打たれたのは、わたしだけではなかったはずです。
そして、そんなサンジに成長したからこそ、ロビンはサンジのことを「海賊王の両翼」と形容したのではないでしょうか。
いつも一味No.2のゾロと張り合っているサンジ。サンジの「自由」への主体的な選択が、サンジの心の成長が、ルフィをまた一歩「海賊王」に近づけたのは間違いないでしょう。
終わりに
麦わらの一味の主要メンバーを5人登場させることで思っていた以上に長くなってしまった今回の内容ですが、これも『ONE PIECE』という物語の深さによるもので、改めてその壮大な物語の凄さを感じずにはいられません!
今週もお付き合いいただきありがとうございました。
それではまた次回お会いしましょう。
【参考資料】
巻五 ”誰が為に鐘は鳴る”
巻十六 ”受け継がれる意志”
巻二十 ”決戦はアルバーナ”
巻二十四 ”人の夢”
巻四十一 ”宣戦布告”
巻六十四 ”10万vs.10”
巻六十五 ”ゼロに”
巻七十六 ”構わず進め”
巻八十四 ”ルフィvsサンジ”
巻八十五 ”ウソつき”
巻百一 ”花形登場”
巻百二 ”天王山”
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