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賃上げを機会に人事制度を設計


賃上げと一言で言っても

例えば賃上げ促進税制における賃上げの対象は下記の定義となっています。当期の雇用者給与等支給額 ≧ 前期の雇用者給与等支給額 ×101.5%
それではここで言う、「当期の雇用者給与等支給額」に含まれる範囲はどのようなものになっているのでしょうか?

俸給・給料・賃金・歳費及び賞与並びに、これらの性質を有する給与(所得税法第28条第1項に規定する給与等)をいいます。したがって、例えば、所得税法第9条(非課税所得)の規定により非課税とされる給与所得者に対する通勤手当等についても、原則的には、本制度における「給与等」に含まれることになります。ただし、賃金台帳に記載された支給額のみを対象に、所得税法上課税されない通勤手当等の額を含めずに計算する等、合理的な方法により継続して国内雇用者に対する給与等の支給額の計算をすることも認められます。なお、退職金など、給与所得とならないものについては、原則として給与等に含まれません。

出所:中小企業庁 中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック

上記の定義からすると賞与も含まれることがわかります。賃金の中には固定と変動の要素があり、その両方が対象となっているわけです。

PL(損益計算書)目線で捉えると

賃金の中でも典型的な固定費は月例給与あるいは基本給と呼ばれるものになります。この基本給は毎月支払うためこの基本給を上げることは降給が生じない限りは人件費として永続的に影響が出ることになります。一方、賃金の中における変動費の代表格は賞与です。この賞与は6月や12月に支払うことが多いのですが、その額については業績による変動が法的にも許容されており、会社毎のロジックでの運用が可能になります。つまり、基本給を上げるよりも業績が計画よりも良いタイミングで賞与を支給したほうが一時的な人件費増で済ませることができるので影響は少ないです。とは言え、採用競争力やリテンションの観点で言えば、基本給の額に影響する昇格・昇給の仕組みが重要になってくることに変わりはありません。

人件費をシミュレーションできる環境を構築する

人件費のシミュレーションを行う際、必要なパラメーターはグレードを変更できるようにしておくこととグレードに応じた基本給、理論上の賞与額が表示されるようにしておくことになります。その前提になるのが、グレードに応じた給与テーブルです。この給与テーブルは評価結果によって微妙に変動するようなものやシングルレートのものなど様々なパターンがありますが最近はよりシンプルなものが好まれます。そして給与テーブルに加えて重要になってくるのが昇降格・賞与支給ロジックをしっかりと設計しておくことです。このロジックが整理されていないと運用することが非常に難しくなります。結局、これらを整理するには人事制度として等級・報酬・評価制度をワンパッケージで設計してしまうことが近道になります。

ベースアップは慎重に

年功的な給与テーブルがまだ存在している伝統的な企業以外ではあまり用いられる手法ではないですが、最低賃金の引き上げも見えてきているのでベースアップを考える企業もあるかもしれません。ただ、現在の給与テーブルの全体を一律で引き上げることになるので人件費への影響は将来にわたって非常に大きなものになってきます。最低賃金への対応としてベースアップを検討するのであれば前項で記載した人事制度を再設計し、人件費のシミュレーションを行いながら影響を最小化できるようにすることをお勧めします。最低賃金の引き上げに伴う人事制度設計についてはまた別の記事で記載したいと思います。