【短編小説】タイムトラベラーゴトー
「お刺身なう、なんて画像を添えてツイートするのが流行ったんだよね?」
タイムトラベラーのゴトーさんは刺身が大好きだ。どうも未来では生魚は高級品になっているらしく、会社の飲み会に現れてイカ刺しを豪快に箸ですくって食べて満面の笑みを浮かべている。見ているこちらがそんなに美味しいのかと勘違いするくらいの笑顔だ。
「ソーシャルネットワークというのが登場した時、色んな人が自分の分身みたいにアカウントを作って交流する仕組みが一気に広まったわけよ。知らない人どうしでも趣味が合えば仲間😍みたいな感じで。」
さすがに知ってますよ。私だってやってます。
ゴトーさんは厚めに切られたブリを口にはこび、目を細めて味わうようにしてゆっくりうなずく。ブリも美味しそうだ。
「サービスが広まって色々な使い方がされるようになって、一種の社会インフラのようになったんだけど、サービス運用しているのは営利企業なわけ。企業としてはサービスを良くして利益をあげるために機能を改変していくんだけど、その度に使い勝手が悪くなったなんて文句が出るんだ。ユーザーは社会インフラだと思ってるからね。でも企業サービスなんだ。なので長く続いても結局いつか終わっちゃうんだ。」
次の刺盛りが来るまで待てないのか、ゴトーさん、刺身の皿に残った大葉にわさびをのせて醤油をつけて食べる。今日は何を食べても美味しそうなのが見ていて楽しい。
「サービスの終了は、多くのユーザーが居なくなってからなんだよね。まず使われなくなるんだ。サービスが使えなくなる前に使われなくなる。刺身が全部食べられた大根と大葉だけのこの皿みたいになるんだ。切ないよね。」
今夜はゴトーさん、普段より饒舌で楽しそうだ。つられてこちらも気分が良くなる。彼の人間性なのだろうか。もしかしたらタイムトラベラーに必要な能力なのかも知れない。タイムトラベラーっぽい話はしてないけど。
「じゃあまた飲み会で。次は花見だよね?楽しみにしてるよ。」
ゴトーさんは上機嫌で帰っていった。話を聞いていた誰もが口に出さなかったけれど、話していた問題は今まさに起きていて、今後どうしようかという会議終わりの飲み会だった。
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