見出し画像

【突撃!ナレトーーク】第9回 柴田聡子さん(後編)

ナレーター界を盛り上げるべく始動したメディアプロジェクト『HITOCOE』。

ナレーターのさかし(坂下純美)とあこ(甘利亜矢子)が、ナレーターの皆さんのライフスタイルや人生観、それぞれの働き方を紹介していきたいと思います!

前回に引き続き、翻訳も手掛けるバイリンガルナレーター・柴田聡子さんです!

柴田聡子さん Shibata Satoko
日英ナレーター・映像翻訳者であり、地方在住の2人の小学生の母。
完全在宅の宅録スタイル。
カジュアルで親しみやすく、知性を感じる声。海外のクライアントからナレーション原稿の翻訳を依頼されたことがきっかけで、英日吹替翻訳も手掛けている。
留学カウンセラー、国際広報、海外営業、英会話講師など英語を使ってきた仕事の経験と、現在のナレーション海外案件での経験を活かし、英語に対して不安を感じているナレーター向けに「VO(voice over)のための英語活用術」講座を開催中。
【主な実績】
(CM) American Airlines, Amazon Alexa、(オーディオガイド)オーストリア国立図書館、(ドキュメンタリー)Operation Blessing Japan、(英語ナレーション)日本アセアンセンター、科学技術振興機構
Twitter:@satokovoartist

前編をまだ読んでない!という方は、こちらをお先に!

英語が苦手な私でも…?

さかし:あこさんが柴田さんに相談したことがあるとか。

あこ:2年前の6月です。まだ私が宅録機材も何も準備できてない状態で、コロナで司会の仕事がもう全然なくなっちゃって。それでTwitterで柴田さんが海外案件をされているツイートをよく見かけていたので、ちょっと海外案件について聞いてみようと思って。
挨拶から入って、「宅録で海外案件のナレーションを私も始めたいと思うんですけど、どうやってそういう海外のお仕事をゲットしてるんですか?」「どうやってやり方を学ばれたのですか?」ってDMでお聞きしました。
聡子さんは「まだ始めたばかりでして失敗しながら手探りしながら少しずつ進んでます」ってお返事くださって。そのときにVoiceover Japan(以降、VOJ)で学んでいたということと、ナレーターブランディング会議で海外マーケティングの情報を入手したりしていると教えてくださったんです。
あのとき、聡子さんにいろいろお聞きできて勇気が出ました。

柴田:あれから結構経つんですね。あこさんは今やもうHITOCOEチームに入っていらっしゃってご活躍で。

あこ:あれから機材も揃えました。でもまだやっぱり、英語、海外案件は私はちょっと難しいなって思っていて。
私、しばらく旅館でフロントの仕事をしてたときがあるんです。海外のお客様もたくさんいらっしゃるんですけどその方たちには英語で対応していたんです。英語に苦手意識があるのにお部屋の説明とかも毎回英語でしないといけなくて。なるべく先輩から教えてもらったことを言うんですけど、あるとき「これは蚊取り線香です」って答えなきゃいけない場面があって、え!わかんない!と思って、「ディス・イズ・モスキート・キル!」って言ったらすごい笑われて終わって(笑)
「これは蚊取り線香です」って本当は何て言えばよかったんでしょうか?

柴田:そういう質問が怖いんですよ!私(笑)
こういうとき「蚊取り線香って英語で何て言うのか」って考えちゃうと難しいから、私は今「お香」って思い浮かべちゃったから「This is a special incense that can kill mosquitos.」かな、何か簡単な代わりの言葉で説明しちゃう感じ。 

さかし:それがあこさんは「モスキート・キル」だったんですね(笑)。 

ちなみに蚊取り線香は英語で「Mosquito coil」というそうです。

あこ:そうやって半年間、海外の人とたくさん接する環境にいても英語が好きになれなくて全然伸びなくて。シニア向けの英会話本まで買ったのに読むのもつらくて。結局半年でやめちゃいました。

柴田:海外案件は文章でやりとりするから、中継収録を避けたら直接喋ることはないですよ。

あこ:でも英文のメールを見るだけで私はすごくストレスを感じちゃうんじゃないかなと思って。苦手意識が強すぎて。
そんなんじゃ自分が海外案件するのは無理だから、誰かが海外案件をまとめていろんな日本のナレーターに振ってくれるような、何かそういう仕事を起業されたらその人のところについていきたい!って気持ちになってきました。自分でメールのやりとりをする自信がないです(笑)

さかし:例えば、あこさんの今の英語のレベルで「やっぱり私海外案件やってみようと思うんです」って、具体的に聡子さんのところに相談に来られたら、どうアドバイスしますか?

柴田:そうですね、まずは頼れるものにもう全部頼ってみましょうと。
メールのやりとりって結構パターンが決まってくるんです。お金の交渉、リテイク、納期だとか。これは国内でもそうですよね。
こういうときはこう書くって、あらかじめ雛形を全部用意しちゃうんです。英語ネイティブの海外のナレーターさんたちも、忙しい方はそういったひな形をありとあらゆるパターンを作っているんだそうです。一言ぐらいは自分でつけ加えたりするんだと思いますが、すごく合理化していらっしゃる。
そういった雛形も、英語で全部作るのは大変なのでプロにお願いしてしまうとか。プロに外注していっぱいやり取りのサンプルを作っておくとか。英語のメールのやりとりの本を買って、そこから抜き出すとか。なんでも自分でしようとするとすごく大変なので、とにかく頼れるものに頼っちゃうといいと思います。

さかし:とはいえこれだけは頑張ってほしいという部分はありますか?

柴田:ひとつだけ。英語にほんの少しだけでも毎日触れるということですね。

さかし:やっぱり英語に触れる努力は必要なんですね。

柴田:ビジネスなので。やっぱり最初はフォーマルにコミュニケーションをとるに越したことはないです。ビジネス英語の本にメールのやりとりの例とか、結びの言葉はどうしたらいいとかも書かれているので、1冊手元に置いておいて必ずそれを引用するというふうにしておくと、そんなに怖がる必要はないです。

さかし:聡子さんの講座では参考になる本の紹介もしてもらえたりするんですよね。
そうしたら、今聡子さんの講座には既に海外案件に取り組んでいる方が中心とおっしゃっていましたけど、これから海外案件に挑戦したい、VOJで学んでみたいけど、英語ができないから自信がない、受講料のこともあるし今は踏み出す勇気が出ないという人も、もしかすると一度聡子さんの講座を受けてみたら英語へのハードルが下がるかもしれないですね。

柴田:その順番でもありだと思います。実際にそういう方も受講してくださいましたよ。

「好きである」ことが大切

さかし:子どものころに英語が好きになれていれば拒否反応もなくてその後苦労しなさそうですよね。しかも先ほどの話にあったように、日本人だったり日本で生活する以上、完璧な、ネイティブな英語ができる必要ってなさそうですよね。
幼児期からの英語教育っていろいろありますけど結局、単語でもいいから答えることができるコミュニケーション力のほうが大事なのかもしれないですね。
もちろんお母さんが英語が得意だということなら全然やってもいいと思うんですけど。

柴田:話しかけられたら、一言でもふた言でもいいからパッと返せるという積み重ねができたら「喋るの怖くない」って思いますよね。
耳はやっぱり小さいうちが柔らかいから、フォニックスとか発音のレッスンを入れ込んでいくとすぐマスターします。耳が柔らかいのってすごいですよね。

さかし:それだけは早めにやったほうがいいんですね…メモメモ(笑)

あこ:あまりに早く英語教育を始めてしまうと日本語の発音が英語訛りというか、変な発音になっちゃうんじゃないかって心配があって、小学生ぐらいからでいいやとか思っちゃってました。

柴田:日本で生活していれば、お家の外に出て英語で喋る環境じゃないので、そこまで心配しなくても大丈夫だと思いますよ。
私が小さい頃、毎日朝ご飯と夕ご飯を食べるときに母親が私を通わせていた英語教室の教材の音声を流していたんです。母は別に英語を喋らないんですけど、とにかく教材をぐるぐるリピートで流していました。ほんとにそれだけ。何か勉強しなさいとか言われたわけでもないんですけど、耳で聴かされていたというのはよく覚えていて、だからこそ英語が嫌いにならなかったというのは大きいですね。私、英語が得意、好き!というほどじゃなくても、嫌いじゃないと思えていたのがずっと続いた。

あこ:私なんて嫌いすぎて、英文見るだけでストレスを感じます。

柴田:もし子どもが「なんか嫌だ」って言ったら、一旦引っ込めたほうがいいと思います。私も自分の子どもに英語の本で読み聞かせをしていたときがあって、幼稚園に入ったぐらいで急に嫌って言われたんです。
「幼稚園に行ったら日本語でこと足りるのに、どうして英語の絵本を読まないといけないのか」っていうことを言われて。そこで無理に続けていたら嫌いになっちゃうかもと思ってしばらくやめたんです。
でもまた何年かしたら興味が出てきました。

大きくなっても、「あのとき聞いていた歌のフレーズにこんなのあったなぁ」とかパッと思い出したりするので、今は目に見える効果がなくても、本当に耳はじわじわ育つので、とりあえず英語を流してみるというのはいいと思いますよ。

さかし:目的は「英語を好きになること」に定めることですね。今の子どもたちもそうだし海外案件もそう、英語は今やいろんなツールを使えばどうにかできるけど、まず好きにならないと難しい。どうしても拒否反応がある状態ではつらくなっちゃうから、まずは好きになることなんでしょうね。

柴田:英語が嫌い、苦手と思ってたけど、嫌いの正体を知るとか、不安の正体を知るとか、そこからかな~と思いますね。
なぜ嫌いだと感じるのか、何が苦手なのか?とか。

さかし:だから大人ならきっと、聡子さんが講座の中で皆さんにお聞きしているという、何だか正体がわからない、漠然とした不安があるから嫌いな気がするというような場合は、ちょっとわかればいけるんじゃない?こういうふうにすればわかるようになるっていう具体的な方法を知ることができれば好きになれるかも。

柴田:あとは大人の場合は「お仕事に繋げたい」というニンジンがあるので、もう本当にそれに向かって頑張れる!
自力でスムーズに海外取引をする、という完璧なイメージを勝手にセットしてしまわないで、いい意味で諦めるところから始めるといいのかなと思います。私は今ではずいぶん気が楽になりましたが、昔はそういった部分でモヤモヤしてたので。 

マーケットがジャンルを確立する

さかし:これまでに印象的だったお仕事って何かありますか?

柴田:海外案件の最初は、私が一番苦手としていた感情を込める案件、アニメのキャラクターでした。
最初の案件だからと頑張ったんですが、クライアントさんは日本語がわからない方だったのに「もうちょっとエモーションを入れて欲しい」と返してきて、「日本語話者じゃない人にもそんなこと言われるぐらい棒読みだったんだ!」と反省しました。でもとてもゆるい感じの方で「やり直さなくていいから、次からもっとエモーション入れて。よろしく~」で終わり。それが最初でしたね。
最初の最初がまさかのアニメーションでビックリしてしまいましたが、今では逆に良かったなと思います。

海外案件進めていくうちに、私がフォローしているアメリカのナレーターさんのポッドキャストで良い指針となったのが「あなた(ナレーター個人)がジャンルを決めるんじゃなくて、マーケット(市場)があなたのジャンルを決めるんだ。だから自分はこれが好き、得意だと決めつけないでもう片っ端からチャレンジしていきなさい。そうしたらいろいろ仕事がくるから」という内容でした。これがストンと腑に落ちたんですよね。

柴田:それから私は「こういうのを読んでみたい」というのがなくなって、いい意味で力みが取れたと思います。
おかげで割といろんなジャンルに挑戦してこれました。

だから英語のプロフィールでも、間口は広くしておいて、お問合せ頂いたら、そこで詳しく「私はこういうことができて、こういう仕上がりが期待できます」と全力で営業するようにしています。

さかし:プロフィールで限定しちゃうと、マーケットと違うと思われると声がかからなくなっちゃう可能性が出てくるんですね。

柴田:自分の中で道を狭めちゃうというか、思い込みになっちゃうかなと思って。
「マーケットがあなたのジャンルを確立する」というのは、私はすごい良いなと思ってます。

ボイスオーバーと翻訳者の懸け橋に

さかし:今後やってみたいことはありますか?

柴田:声だけという仕事を越えて、日本語にローカライズ(※製品やサービスを、別の国や地域でも受け入れられるように最適化すること)するクリエイティブな作業をチームでできていったらいいなと思っています。日本語にローカライズした良質なコンテンツを作るには、その翻訳をする方とナレーターが一緒に仕事ができるのがベストかなと。
ナレーターのほかに、翻訳のコミュニティにも入っているので、たくさん翻訳者の方との繋がりができました。少しずつチーム作りに挑戦していきたいですね。
海外案件あるあるなんですけど、オリジナルの英語の動画の尺が決まってて、翻訳されたものを読むと尺に合わないことが多いんです。
左に英語があって右に日本語翻訳を埋めてある原稿をもらうんですけど、そのまま翻訳したら大体1.5とか2倍ぐらいの文字量になっちゃうんですよね。
ものすごく早口で読まないと合わないとか、翻訳が直訳っぽくてなんだか不自然とか。私の経験上、英語の文字量の4分の3ぐらいに収まる翻訳じゃないと尺に合わないんですが、それって誰も悪くないんです。
ナレーターはいただいた翻訳原稿を読む、翻訳家の方はきちんと翻訳をする。でも尺に合わない。それは尺にあった通りの翻訳をしてくださいっていう指示がないから。もしくはボイスオーバーのエージェントと翻訳のエージェントが別だからかも。翻訳者の方に質問したことがあったんですが、そこまで具体的な指示がないらしいんです。
吹き替え翻訳っていうとドラマ、映画、アニメやテレビが多くて、そういうところは専門の会社が一気に引き受けているようなので、尺に合うような翻訳になっている。
でも私たちがお受けしている海外案件も、英語のオリジナルのコンテンツがあって、コーポレート動画とか、eラーニングとかもそうですけど、それもある意味吹き替えじゃないですか、尺決まってるんで。
そういうのを専門にやっている翻訳者さんというのはなかなかいない。だったら翻訳者の方の翻訳を私が尺に合うかどうかまず試したらどうかと。そうすれば、きちんと尺に合った翻訳が仕上がって、ナレーターも余裕を持って読むことができるし、出来上がったコンテンツも自然な早さで耳に入ってくるからいいものに仕上がると思うんですよね。

それと、英語ナレーションのお仕事も頑張っていきたいです。
私、英語ナレーションは最初どうしてよいかわからなくて、大山もも代先生のレッスンを受けたんです。おかげさまで徐々にお仕事もいただくようになりました。元々日本の商品を売る海外営業をしていたので、インバウンドも復活してきそうだし、日本の良いものを海外に紹介したいので、そういうコンテンツを作るお手伝いというのもまた翻訳者の方と一緒にチームでできたらなと思ってます。
以前はネイティブの英語のナレーターの方がいっぱいいるから、そういう方たちにお仕事がいってると思っていたんですけど、意外と日本の商品やサービスを発信するから日本語アクセントのある英語ナレーションで大丈夫って案件もあって。かえってそれを売りにできるかなと思っています。日本の会社だから日本語アクセントの英語ナレーションのほうが「あ、日本の会社なんだな」という印象になりやすいんでしょうね。
前は、「私ネイティブじゃないのに英語のナレーションしていいのか?」という思いがあったんですけど、今は強みになるなと感じてます。

さかし:どんなチームを聡子さんが作っていくのか、とても楽しみにしています。今日はありがとうございました!

**********************************************
好きでなくてもいいから「嫌いにならないこと」、そうなるための工夫が大事なんだと考えさせられました。
また「マーケットがジャンルを確立する」という言葉も素敵でしたね。何を見せるかの前に、クライアントやその先の顧客に視点を置いてみる意識を持つことを忘れないようにしたいと思いました。
今後の目標も聞いていてワクワクしました!楽しみにしています^^(さかし)

これからも「HITOCOE」ではナレーターに特化した上質な記事を連載予定です。今回の記事を気に入っていただけたら、スキやフォロー、サポート(投げ銭)をいただけると幸いです。
いただいたサポートは、今後の活動費として役立たせていただきます。

【ライター】
さかし(坂下純美)

東京在住のナレーターで一児の母。都内スタジオでの収録を主に活動。1年ほど前に宅録を開始。Twitterで情報を集めながら日々勉強中。
〇HP…https://www.sakashitamasami.com/
〇Twitter…@sak1013

あこ(甘利亜矢子)
静岡在住のナレーター。司会業を中心に伊豆半島全域を走り回る日々。只今育児の為、司会業は育休中。宅録はスタートラインに立ったばかり。
〇note…https://note.com/amariayako
〇Twitter…@amariayako

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?