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【突撃!ナレトーーク】第11回 北村直也さん(前編)

ナレーター界を盛り上げるべく始動したメディアプロジェクト『HITOCOE』。

ナレーターのさかし(坂下純美)とあこ(甘利亜矢子)、そしてHITOCOE編集長のあきら(片岡あきら)が、ナレーターの皆さんのライフスタイルや人生観、それぞれの働き方を紹介していきたいと思います!

今回は、全盲にも関わらず幅広く活動しているナレーター・北村直也さんです!

北村直也さん
先天性全盲でありながら、声優・ナレーターとして活動。現在フリー。
株式会社ePARA(障がい者が自分らしく、やりがいをもって社会参加する支援を行う会社)に所属するeスポーツプレイヤーでもある。
代表作は「一人で学べる点字触読テキスト(音声版)」、「ゲーム ハードコアメカ(クルーザン役)」。
〇Twitter…@noy_0207
〇HTML名刺…https://html.co.jp/noy_0207

全盲の声優

さかし:直也さんはいつから全盲になられたんですか?

北村:生まれつきで視覚障がいはありましたが、色と光だけは見えていて、20歳から全盲になりました。

さかし:少しずつ見えなくなっていったということですね。そんな直也さんが声優を目指すことになったきっかけは何だったんですか?

北村:僕ラジオが好きで、ラジオのパーソナリティになりたいと思ってたんです。それで文化放送のA&Gアカデミーのウィンターセミナー(※短期講座)を受けてみることにしました。そのセミナーで成績が優秀だとラジオ番組に一回出られる特典があったので。
その時に演技コースとラジオドラマコースもあったから「試しに3コースまとめて受講してみるか」って思って受けてみたら、意外と演技のレッスンがおもしろかったっていうのが声優になることを考えるきっかけですかね。
それまでは、学校で文化祭とかで何かやるというときは「やりたい派」だったんですけど、演技を仕事にしようとは思ってなかったですね。

さかし:セミナーをきっかけに、演技を仕事にしてみるのもおもしろいんじゃないかと思ったんですね。ウィンターセミナーを受けたその後はどうされたんですか?

北村:受講していたのが高校3年生のときで、そのあと大学に進学しました。そこで幼稚園が一緒だった幼なじみに十数年ぶりに会ったんです。彼は私と同じく全盲で、「ぐっきー」という名前で既にシンガーソングライターをやっていました。大学とか地元で呼ばれたときによく弾き語りをしてましたね。
その彼からあるとき「事務所のオーディションを受けて合格したから、来週から週1でレッスンを受けることになった」って報告があったんです。それを聞いて「視覚障がいがあっても、普通の事務所を受けて入れるんだ!」って衝撃を受けて。だったら僕もチャレンジしてみようかな!って事務所のオーディションを受けようかと。
でも両親の許可が取れなくて、そのときは合格を辞退しました…。

さかし:ご両親の反対が!

北村:今思えば熱意が足りなかったんです、正直。「行きたいなら、成績優秀者として授業料の半額免除を勝ち取ってから行け」と。

あきら:覚悟を見せろと。

北村:それが大学1年の秋ぐらいでした。
でも大学4年に上がる直前ぐらいに、「やっぱり俺A&Gアカデミーの本科受けて、声優に挑戦したい」って改めてちゃんと両親に言ったら、今度はOKが出ました。

あきら:前回と何が違ったんでしょう?

北村:文化放送のA&Gアカデミーのボーカルコース出身のアーティストさんのライブを観にいったときに「なかなか両親の協力が得られなくて、活動をどうしようか迷ってる」って相談してみたら、アーティストさんが「私はまず母親を味方につけましたよ。母親が最初に応援してくれてたからなんとかなった」って話だったので、じゃあどっちか片方を味方につけられるようにまずやってみるかって。

さかし:戦略的!でもまだ大学の授業もある中で声優の勉強もするのは大変じゃなかったんですか?

北村:大学の先生から「3年までに大学の単位を全部取れ」っていう指令があったんで、4年生のときにはもう卒業に必要な単位を取っていて授業がほとんどなかったんですよ。

さかし:それじゃないですか?熱意。

北村:就活と卒業研究に打ち込めるように、卒業単位数は3年生までの間に確保しとけよって言われてただけなんですけどね。理系あるあるかもしれないけど、ちゃんと単位取得しておいてよかったです。

さかし:ご両親が「勉強も手を抜いていないようだし」と納得してくださったのかもしれませんね。本科では何年学んだんですか?

北村:半年です。半年のカリキュラムが終わった後にA&Gアカデミーの中で卒業オーディションということで、いろんな事務所の方が生徒を直接見に来てくださる機会があるんです。そこで審査員のお眼鏡にかなった人が次のステップに進むことができるんですね。

さかし:それは…結果はどうだったんですか?

北村:僕は学内審査を突破してオーディションまでは進んだんですが、最終的にはどこからも指名されなかったです。

さかし:オーディションで選ばれなかった理由として、先方が障がいのことで何か不安があったとか…。

北村:理由は教えてもらえないんですよね。
でもその後もやっぱり声の仕事をあきらめたくなかったので、A&Gアカデミー卒業から大学卒業までの半年間、ネットなどを駆使して声優事務所を探してオーディションを受けてみようと思ってました。
そこで見つけたのがアコルトという事務所です。公式なオーディション情報はなかったのですが、新人を採っていそうだと思い「目が見えないんですけど、可能ならオーディションを受けたいです」という趣旨のメールを送りました。この辺の話はそれだけでも長くなるので別の機会にゆずるとして、面接を経て研修科に入所し、その後正所属になりました。
アコルトは主にナレーションと舞台を取り扱っており、僕は舞台では厳しいだろうということでナレーターとして育成されました。

さかし:これまでは声優になるために学んできて、このタイミングでナレーションに行くんですね。

北村:実はアコルトに所属していたときから今も外部のワークショップで学び続けているんですけど、その講師がA&Gアカデミーの卒業オーディションのときに審査員だった西原翔吾さんなんです。

あきら:そんな繋がりが!オーディションのときは声をかけてくださっていたんですか?

北村:いや、そのときはまったくなくて。
アコルトの先輩が、とあるナレーションのワークショップに通っていると聞いて僕も行ってみたら、先生が当時審査員だった方でした。
僕が行ったときに、当時のオーディションの話をされました。

さかし:覚えていてくださったんですね。

北村:「『目が見えないって言うけど、この人どういう演技するんだろう?』って思って聞いたら、せっかく声はいいのに滑舌滑ってる。こいつ、もったいねぇなぁ」って思ったらしいですよ(笑)

さかし:そこ!

北村:「もったいないけど、この子は厳しいだろうな」っていうのが第一印象だったらしいです。

あきら:声がいいという部分で印象づけていたんですね。

北村:オーディションから数年後にワークショップでお会いできて「当時滑舌滑ってるなぁって思ってたけど、鍛えられてだいぶ滑舌良くなったね」って最初の回で言われました(笑)
そのころはまだ西原さんが個人でワークショップをやってらっしゃいました。(※現在は合同会社MYSTARでワークショップを行っています)
西原さんとの出会いなどについては記事にしたものがあるので是非読んでほしいです。当時たまたまTHEATRE for ALLっていう団体のライターを僕がやっていて「誰に取材したいですか?」という話で試しに西原さんの名前を書いたら企画が通っちゃって。
なので、僕がインタビュアーで、西原さんにインタビューしています。インタビューというか、対談形式の記事になっています。

北村:その後、MYSTARでゲームのキャラクターボイスも扱うようになってきたので、声優としての活動もできるようになりました。
いろんな繋がりやいろんな縁に支えられて活動できているんだなと、日々思ってます。

さかし:記事の中の「困ったときには支援を求めていい」の部分、刺さりました。支援を求めることで繋がる縁もあるんでしょうね。

どうやって原稿を読んでるの?

さかし:私は最初「目が見えなくてどうやって読んでるんだろう?」って思っていたんですが、読者の方も同じように思っている方いらっしゃると思うんですよね。
先ほどの記事の中の写真にある、パッと見アーケードゲームのコントローラーみたいな…これを使うんですか?

北村:あ、よく言われます(笑)
eスポーツ仲間から、HitBox(アーケードゲーム用コントローラー。レバーがないタイプのもの)みたいなデバイスって言われます(笑)

HitBoxはこんな感じ。

さかし:どうやって使うんですか?

北村:WordファイルとかPDFファイルとかで送られてくる原稿を、このデバイスの中にメールやUSBで普通のパソコンと同じように入れるんです。これを開くと内容が点字で表示されます。

あこ:へえ~!すごい!!

北村:これをテーブルに置いたりとか、膝の上に置いたりとかしながら文章を読んでいるんです。

あこ:そういうものがあること、初めて知りました。

北村:この端末の存在を知らない方が多いので、台本どうやって見るの?特殊な契約とか必要で時間かかるの?みたいな疑問を持たれる方も多くて。
当日原稿(※当日に現場で初めて原稿をもらって読むこと)だって普通にできますし、パソコンと一緒だからコピー&ペーストとか削除も普通にできるんで、当日「ちょっとこの一部カットしてもらっていいですか」っていうと「はいわかりました」って普通に直して読むことができます。

あきら:このデバイスはもともと原稿を読むためだけの装置ではなかったということですよね。テキストファイルを点字に起こすためのものですか?

北村:ただメモをするときにも使うし、テキストの書籍とか入れて、空き時間に読書するときにも使います。だから、たまたま手元にあったものが原稿を読むのにも使えたんです。
これ最初にウィンターセミナーを受け始めたときから使ってるんですけど、もともとは高校3年のときに、受験で問題集を解くこととかを含めて勉強に使いやすいってことで、当時通ってた学校から支給されてたものなんですね。
これがあれば、セミナーの教材をテキストとかワードでもらえれば、すぐ自分で読んで演技できますし、座学に臨むこともできるから、当時文化放送に「教材をデータでもらえませんか」って問い合わせをしました。
だから、声優活動のために持っていたというわけではないですが、とても役立っています。

さかし:今、原稿をiPadなどタブレット端末で表示する方もいらっしゃいますもんね。
これまで障がいを持った方と触れ合う機会が少なかったから私は知らなかったのかもしれません。今日初めて「なるほど!その手が!」って思いました。

北村:周りの人がそういった方法があるということを「知らない」ってことを、僕が知らなかったんです。なので「勝手に台本読めないなんて決めつけるな!」と思ってました(笑)
でも向こうが知らないんだから、伝えて納得してもらえればいいんですよね。
2022年2月にテレビ東京の番組で原稿を読む姿を放送してもらったときは反響が大きかったので、今後も伝えていくことができたらと思います。

ePARAの広告塔に

さかし:今ePARAのチームに所属して活動されているんですよね。ePARAについて詳しく教えていただけますか?

北村:ePARAは、eスポーツを通じて障がい者が自分らしくやりがいを持って社会参加するための事業を行っています。それがeスポーツイベントの企画・運営であったり、障がい者の就労支援だったりするわけですね。
そして大きなポイントは、eスポーツイベントの企画・運営等のスタッフに障がい当事者を多く起用しています。イベントをオンラインで運営するに当たってはDiscord(※コミュニケーションツールのひとつ)の設定を中心にやる人もいますし、配信やスライド用の画面をデザインする人もいれば、音楽やナレーションといった音で貢献する人もいます。
その中で私は株式会社ePARAに所属して、実業団のようなかたちでePARAの業務もしながらeスポーツプレーヤーとしての活動を支援してもらってるところです。
なのでePARAの広告塔としても、メディアに出たり、イベントに参加したりとかします。
最近の活動だと、この間東京都内で行われた人権の啓発セミナーにePARAの社長と登壇しました。1部の講演会は社長メイン、2部のフォローアップ企画で希望者が僕とストリートファイターで対戦するっていう企画がありました。12人ぐらい相手にして全勝でした。

さかし:ボッコボコじゃないですか!

北村:大技とかをうまく決めて、会場は盛り上がりましたよ!
その後Twitterで「人権啓発セミナーでゲームに参加して、全盲の直也さんにボコボコにされるという貴重な体験をした」というようなツイートを見かけて、「負けて貴重な体験ってレアなこと言われてるなぁ」って思いました(笑)

あきら:直也さんに胸を借りに行ってるんですね(笑)

北村:あとは、知的障がいの方でご本人がしゃべるのは難しいけど、お父さんが「息子にも経験させたくて」とおっしゃって一緒に参加してくださった方もいましたし、聴覚障がいの方もいらっしゃってとてもおもしろかったですね。
この企画が好評だったから、人権関係の業界関係者の方がePARAに興味を持ってくださって、その後仕事のオファーをしてくださったりしてるみたいです。
こういった形などでの、「広告塔としてのeスポーツプレイヤー」が多いですかね。

どうやってゲームをプレイするの?

さかし:ゲームはずっとお好きだったんですか?

北村:幼少期からやってました。

さかし:どうやって原稿読んでるの?と同じような聞き方になっちゃうんですけど、そもそも目が見えない状態でどうやってゲームするのかな?って思うんですが、ある記事を読ませていただいたら、「音の感じでタイミングを計ってる」って書いてあって。
音!?って思ったんですよ。確かに技を出したらシュバーン!って言いますけど。

北村:音で技の違いもほぼほぼわかるんです。

さかし:え?ひとつひとつ音違うんですか!?

北村:僕は格闘ゲームをよくやるんですが、技をガードするとか、技が当たるとか、空振りするとか、倒れたときに受身を取る取らない…結構あるんですけど、それをすべて音で聞き分けているんです。「ずっとガードされている音がしているから、ここで投げ技を使う」とか。
「ストリートファイター」(※格闘ゲーム)だとキャラクターの位置がステレオ効果でわかるんです。左端にいるとか右端にいるとか。自分のキャラの近くにいるとかいないとか、ステレオで左右を聞き分けてるんです。

さかし:音の位置でわかるんですね!聞き分けられる直也さんたちもすごいですが、ゲームを開発してらっしゃる方たちもすごいですね…!

北村:そうなんです。始めてみたら音で戦況がある程度把握できて驚きました。そのうえでしっかり反撃とかコンボを決める反復練習をすることによって、使うべき音情報をしぼることもできるようになりました。

あきら:見えると視覚で情報を受け取れる分、情報が分散しちゃうのかもしれないですね。直也さんは聴覚を極めてるから、微妙な音の違いとかで全部わかるんでしょうね。

北村:目が見えないと耳が発達してる説ってよくいろんなところで言われるんですけど、確かに情報が分散してないからかもしれないですね。
RPGとかで言うと、防御を捨てて攻撃に徹するみたいな感じ。見ることがないからこそ、聴くに徹することができる。

あきら:ステータスを全振りできるってことですよね。

北村:いつもePARA主催のストリートファイターの大会とかで実況をお願いしているお笑い芸人のNOモーションはゲームのキャラものまねをしてるんですが、彼らによると、エドモンド本田というキャラが使う「どすこい技」3段階、弱・中・強の言い方がそれぞれ微妙に違うらしいです。
逆に技のモーションを見ると区別がつきづらいそうで、「どすこい」を聞き分けて反撃をするのは、エドモンド本田攻略の中核をなしているようです。
弱・中・強によってガードしたり避けたあとに打てる技が変わってくるので、これはとても重要なんですが、まさか見える人でもセリフを使って判断しているとは、私も聞いて驚きました。

気になった方の参考のために。
ゲームをお持ちの方は聞き分けられるか
ぜひ試してみてください!

さかし:同じ音声を使い回ししていないなら、どこかに違いはあるということですね。

北村:鉄拳をずっと教えてくれてる同じチームのプレーヤーからも、大戦の中で「今の声の技をガードしたあとには、こっちはこうしたらいいよ(※実際は技を出すときのコマンドで言ってくれているそうです)」と、だんだんと声主体の助言が増えてきました。
あと、「全盲の僕がパワプロ(※ゲーム「パワフルプロ野球」の略)をやりたくて試したこと」って記事を書いたことがあって…

さかし:パワプロまでできるんですか!

あきら:ボールを打つタイミングとか難しそうですよね。角度とかも変わってくるし。

北村:対戦だとさすがに厳しいけど、バット振るだけっていうモードでタイミングを合わせるだけの状態ならプレイ可能です。守備とか走塁はさすがにオートですが。
ボールを投げたら音がするのでタイミングを合わせて振るのはできるんですけど、チェンジアップとか投げられると遅すぎてタイミングつかめないですね。逆にエース級でまっすぐの速いピッチャーは、ボールを投げる音がしたら、1、2ぐらいのタイミングで振れば意外と当たります(笑)
投げるほうなら方向キーで投げる球種を選択できるし、あとは現実のプロ野球好きの知識を生かしてます。このピッチャーを使ってるからこの選手はまっすぐが強い、この選手ならカーブが強いからとりあえずカーブを投げてみるとか。

さかし:本物のプロ野球の知識を使うんですね。情報量がすごい!

あきら: 音で全部判断するってどんな世界なのか、視覚を使う世界にいると想像がつかないですね。頭の中に広がるイメージを見てみたいです。

北村:某大学の脳波研究をしてる人たちと打ち合わせしたときにも同じように「ちょっと脳波計測してみたいですね」って言われました。「脳の中見てみたい」って。


別の障がいを持った友人が「お前は声優になれないから諦めろ」と言われたという話を聞いたことがあります。もちろん同じ方法ではできないかもしれませんが、方法を探り、できることとできないことをはっきりさせ、発信することで、ちゃんと寄り添ってくれる人が見つかる可能性があるんだと、直也さんにお話を聞きながら思いました。
後編ではePARAでの活動、そしてネガティブや弱みをどう捉えてきたかについてお話お聞きしています!(by さかし)

これからも「HITOCOE」ではナレーターに特化した上質な記事を連載予定です。今回の記事を気に入っていただけたら、スキやフォロー、サポート(投げ銭)をいただけると幸いです。

【ライター】
さかし(坂下純美)

東京在住のナレーターで一児の母。都内スタジオでの収録を主に活動。1年半前に宅録を開始。人間観察が好き。
〇HP…https://www.sakashitamasami.com/
〇Twitter…@sak1013

あこ(甘利亜矢子)
静岡在住のナレーター。司会業を中心に伊豆半島全域を走り回る日々。只今育児の為、司会業は育休中。宅録のお仕事を本格的に始めました!
〇note…https://note.com/amariayako
〇Twitter…@amariayako

片岡あきら(HITOCOE編集長)
国際ナレーター芸人。声の仕事でお寿司を食べまくっている人。プレイヤーとしてだけでなく、スクールや大学での講師、個人レッスンなども。
〇HP…https://kataokaakira.com/
〇Twitter…@akiranarrator

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