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表現者が悩む、確定申告とお金のQ&A。

毎年2月16日から3月15日頃まで、ナレーターをはじめとしたフリーランスを悩ませるのが「確定申告」の手続きである。「青色・白色」の選択から始まり、源泉徴収、控除、経費区分...と難しい用語が多いため、苦手意識のある読者は少なくないだろう。特に2023年からは”インボイス制度”が始まるため、登録の有無や消費税の計算など、今まで以上に悩む点は多い。

そこで本記事では、声優・ナレーター・俳優をはじめとした芸能業界のクライアントを多数抱える「芸能文化税理士法人」代表税理士の原嶋彬さんに、表現者が悩むお金のアレコレを聴いた。

長いフリーランス人生では、確定申告はもちろん「節税対策」「家の購入」など、お金の悩みは尽きない。ぜひ悩んだ時には何度も本記事を読み返して、ライフプランの足がかりにして欲しい。

芸能文化税理士法人/芸能界・興行界・出版界などの業界実務に特化した税理士法人。事務所創立から現在までで役者・作家などの確定申告を1600件以上手掛ける。どの芸能事務所にも属していない独立性の高い団体なので、所属事務所に情報が漏れることもない。東京都渋谷区渋谷1丁目にオフィスを構え、1時間圏内であれば芸能事務所やテレビ局控室でも出張面接を行う。初回相談は30分5000円〜。

原嶋さんのプロフィールを教えてください


出身は埼玉県所沢市です。中学3年生の頃、学校から新書の読書感想文を出すよう宿題が出ました。そこで「最近話題になっているらしい」と父から勧められたのが、当社会長の山田真哉が執筆した『さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学』(2005年, 光文社新書)。中学生ながら面白いと感じ、そこで始めて山田のことを知りました。


その約5年後、たまたま聴いていた文化放送のラジオ番組で、声優の浅野真澄さんと山田が番組を放送していたんです。(2015〜20年、文化放送『浅野真澄×山田真哉の週刊マネーランド』)そこで「山田先生ってあの本の人だ!」と再び知ることになり、山田の職業である税理士・会計士に強い感心をもちました。元々祖父が会計士だったので、会計業界は身近なものでした。

その後、大学3年生頃から税理士の勉強を始めます。税理士資格は段階的に取得するものなんですが、5分の2ぐらい取ったタイミングで「山田真哉税理士事務所」に応募し採用されました。当時から声優さんをはじめとした表現者の方がお客さまに多かったので、アニメやゲームに興味のある僕のような人間がたまたまマッチしたみたいです。その後なんとか全ての資格を取得し、晴れて税理士となりました。

当社は約3年前に、現在の「芸能文化税理士法人」へと法人化しました。僕は2022年から代表税理士を務めていますが、2023年段階では税理士が僕を含め全部で3人、税理士以外のスタッフが13人、外部委託をしている税理士が3人います。20代から50代と幅広い年齢層の人間が働いていますが、当社は20代や30代の若いスタッフが他の事務所に比べると多いです。最新の流行を追うことも僕たちの仕事の一環なので、自然と若い方を採用することが増えたように思います。

組織としては法人化したことで山田個人への業務負担が軽減し、山田がYouTubeをはじめとした個人の活動に力を入れられるようになりました。

(山田会長のYouTubeチャンネル「オタク会計士ch【山田真哉】少しだけお金で得する」は2023年2月時点でチャンネル登録者数58.1万人!)


お客さまはどんな方が多いですか


ジャンル的には声優さんが一番多いですが、それでも2割弱だと思います。過去に山田が文化放送でお仕事をしていたり、山田の著書『女子大生会計士の事件簿』がドラマCDになったりしたことから、声優さんやディレクターさんとの繋がりがありました。そこから口コミでご紹介が続き今に至ります。


それ以外のご職業ですと、ナレーター、実写俳優、作家、テレビ番組制作会社、プロデューサー、ディレクター、アニメ制作会社など、個人法人を問わず様々いらっしゃいます。エンタメ関係であれば一旦はお話をさせていただき、社内でお受けできるパワーがあるのか検討してご回答します。

芸能事務所としてご依頼いただいているケースもゼロではありませんが、当社のスタンスとしてはあくまで演者さん側。例えば過去、演者さんが独立されるタイミングや、ギャラの取り分などで事務所とトラブルになることがありました。そうなった時どちらとも親交があると判断が難しい状況になってしまいます。どちらかと言うと演者側に寄り添った立場を貫きたいので、あまり事務所さんからの依頼はお受けしていないんです。

年齢層として、ナレーター・役者・声優といった表現者の方々は20〜40代の方が多い印象です。最近はYouTuberやVTuberといった配信系の方もいらっしゃいます。

学生時代からお名前を存じ上げていた声優さんがお客さまになったこともあって、最初は本当に大変でした。背中に汗をかいちゃって(笑)でもだんだん当社で働くにつれて、プロとして対応をしようと気を引き締めるようになりました。


よくある相談内容はどんなものですか


一番多い事例は「確定申告お願いします」。あとはごく稀にですが、「確定申告していたら税務調査入られました。どうすればいいですか」というご相談もあります。特に、税務処理が大変でご自身の手に余ったり、確定申告をする暇もないほどご多忙だったりするケースが多いです。

一例としては、売上1000万円を超えると消費税を払う義務が生じますが、その時に「仕事が軌道に乗ったんですがどうやって消費税を払ったらいいですか」とご連絡いただくことがあります。もちろんそれ以外の、様々なお金関係の悩みを抱えて相談にいらっしゃる方も多いです。

ただ確定申告提出の1〜2ヶ月前にご依頼いただいても帳簿作成が間に合わないので、その前の夏〜秋口にご依頼いただいた方が対象になります。基本的にお客様は皆さん確定申告についてのご相談を伺いますが、「コンプリートコース」(お金周り全部の相談が可能)に入っている役者さんからは「今は売れてるけど、将来どうなるか分からない。業界内で投資の話が盛り上がっているから、NISAやiDecoの始め方を知りたい/おすすめの銘柄は?」など、お金の心配をなんでもご相談いただきます。

節税対策も多くご相談いただくんですが、有名なふるさと納税はもちろん個人事業主向けだと、年間84万円まで所得控除額が増える"小規模企業共済”や、年間240万円まで経費が増やせる"経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)”などであれば、国がちゃんと用意した制度なので怪しくないですよ、とよくご提案させていただきます。国に預ける掛金をその年の経費にして、数年後〜数十年後に解約したタイミングでは自分の収入になります。

個人の方だと所得(売上ー経費ー所得控除)が多ければ多いほど税率が上がっていくんです。なので、たくさん売上があった(税率が高くなりそうな)年に経費を多く支払っておいて、老後や産休など収入がないタイミングで解約すれば税率は低くなる。その時に入金を受けてもそこまでの税金にはならない、と言う理屈です。

これらを全てやってしまってさらに節税を目指すのであれば残すは「法人化」になるでしょうか。個人と法人だと税率の上がる段階設定が異なります。個人は最終的に「所得税と住民税、合わせて税率55%」なんですが、法人の場合はいろいろ合わせてもMAX38%くらい。法人の方が稼ぎに対して税率が低くなるタイミングがあります。所得が900〜1000万あたりになるとその逆転現象が起こりますが、単年だけではなく複数年で見て判断する必要があります。

ただ法人化してすぐに「所得が伸びないので個人に戻します」など、自由に開店閉店を繰り返すと税務署から脱税を疑われます。なので、法人化するタイミングはとても難しい。右肩上がりなのは前提で、かつそれだけの所得を安定して継続的に得られる方なので、そうそういらっしゃらないです。


表現者が確定申告で悩むポイント


会計ソフトに頼りきり、は危ないかも

兼業で、例えばアルバイトや個人配信をしながら声の仕事をされている方や、一念発起してアパートを買って不動産経営をする方もいます。当社では「青色」「白色」問わずに相談をお受けしています。

青色申告の場合は基本55万円控除で、電子で申告すれば65万円になります。ただ青色申告はいわゆる「複式簿記」というルールに乗っ取って帳簿を作成し申告しなければいけないので、簿記の勉強をされたことのない方がご自身で行うのはかなり難しいと思います。今は本当に優秀な会計ソフトが多く、直感的に操作できるから使いやすいんですよね。その反面で、感覚で正解っぽいものを作っても、実は大間違いをしていることがあります。

皆さん普段から意識されているので経費や売上の集計は合っていることが多く、白色申告でそこまで大間違いな事例は見かけません(もちろんそれすら合っていない方もいらっしゃいますが…)。

ですが青色申告だと売上と経費だけではなく、資産と負債などを記載する「貸借対照表」も必要なので、これがズレていたり間違っていたりするケースがあります。白色申告の場合は売上から経費を引いた紙だけがあれば良いのですが、青色申告をする際に「そもそも貸借対照表って何?」という方がほとんどです。

税務調査が入る確率は個人だと年間約1%と言われており、同業他者とよっぽどかけ離れた売上経費でもない限り、なかなか入られる人はいません。しかし、例えば貸借対照表の完成度は「この人はちゃんと帳簿をつけているかどうか」という目安にはなります。一つミスがあると「他にも間違いがあるかも?」と深掘りをされるきっかけになりかねません。「帳簿をちゃんと作れてないから、この人は青色ダメじゃない?」という判断から、青色申告の申請が取り消される可能性もあります。

一方で、会社員で副業していたとしても事業として認められる内容や規模なら帳簿をちゃんと作れば青色申告が可能です。青色申告承認申請書を期日までに出し書類を作ることが出来れば、収入の種類の分だけ記入して青色申告で提出できます。

65万円控除されるなら、いっそ税理士に頼んだほうが安くつく場合もあるんです。税理士の報酬はピンキリで5〜30万と幅広い。65万控除されることで、自分の税額がどれだけ減るか。例えば60万控除されて税額的に20万円ぐらい減ったなら、そのうちの5万を税理士に払っても黒字になりますよね。

そのため青色申告は何が何でもご自分で作る必要はなく、間違った時のリスクを考えて税理士に依頼するのを検討してもいいかなと個人的に思います。とにかく心配なことがある場合は、早めに知識のある人に相談するのが一番です。


経費区分に「雑費」は入れない

特に国側が「この場合は〇〇費です」と全てを決めているわけではないので、大げさな表現ですが多少科目は間違えても大丈夫です。どちらにしても仕事に必要な経費ですので。

かと言って「全部雑費です!」とまとめたり特定の科目だけ大きかったりすると、明らかに怪しい。特に雑費は書いてあるだけで少し心象が悪くなります。「この人は何か分からないものを経費に入れている。何か後ろ暗いことを隠してるんじゃないか・・・」と疑われる可能性もあるので、出来る限り雑費ではなく具体的な「○○費」として載せた方がいいです。

オリジナルの経費名をつける

「〇〇費」という科目は、ある程度自分で作っても問題ありません。確定申告書の経費の下の欄に、例えば「衣裳費」「図書研究費」のような、芸能系の方しか出てこない区分分けを作ってしまう。要は「自分の売上に直接結びつくか?」が論点なので、一般的には遊びのように見える映画代や書籍購入費も、職業によっては経費として成立します。

しかし化粧品をはじめとした日用品などが全て経費になるかというと、そうではなく。ビジュアルを求められる声優さんでイベントや番組出演等があるなら経費になりますが、ナレーターの方や、顔出しをしないお仕事がメインの声優さんだと難しいです。あくまで「こういう売上があるからこんな経費が出ます」とちゃんと理屈を説明できるものだけを計上してください。

お客様によっては、買った服の用途を全部レシートに書いている方もいらっしゃいます。ラジオ放送後に必ず写真がアップされるので服を毎回変えてます、という理由から「〜月〜日放送用」と余白部分にメモをされて。それは確定申告で言うところの「証拠書類」ですが、加えて帳簿の摘要欄にもその購入理由を明記するのが理想です。

フリーランスの方の場合は各仕事を細かく覚えてらっしゃると思うんですが、たまに事務所所属の方だとお仕事を自分で決めたり請求書を書いたりするわけではないので「どんな仕事だったっけ?」と忘れてしまう方がいらっしゃいます。当たり前なことですが、自分のお仕事を普段からちゃんと把握することが肝心です


交際費は誰との会合か記録する

交際費への計上は、まず法律上決まっているルールがあるので注意しましょう。

・仕事関係か?
・仕事の延長線上にあるか?
・一人当たり5000円のラインを超えるか?・・・など。

「この会合を経たことで、このあと売上として還元されるか?」が見極めポイントになるので、誰と行ったかは必ず把握する必要があります。普段から領収書へメモを残すことが理想ですが、もし忘れてもスケジュール帳があれば“あの人とのご飯だ”と遡ることが出来ますよね。そのため当社では記録が残るよう「スケジュール帳は紛失しないで、数年分取っておいてください」とお願いしています。

もし領収書がもらえなければ、証拠力は弱くなりますがクレジットカードの明細でも大丈夫です。あとは手書きで書く出金伝票もありますが、それは一番戦闘力が低いのでダメ元だと思ってください。


レシートや領収書は、プライベートも含め「全保管」が理想!

当社のお客様には必ず「レシートや領収書は全て保管してください」とお願いしています。できればプライベートも全部取っておいた方がいい。

「手元にある領収書が全部経費です」と税務署へ申告してしまうと、本当に該当しないものを選り分けたのかどうかが見えないですよね。仕事以外の領収書も持つだけ持っておけば開示請求された際に「これは経費にしてません」と、ちゃんと示すことが出来ます。

確定申告で使うものだけファイリングして、そうでないものはモサッと置いておけばOK。

飲食関連の経費が一番否認されやすいんですが、例えば同じお店であっても「これは経費」「これはプライベート」と分けなければ、「本当にプライベートを除外しているか?」が分かりづらいです。税務調査が入ると帳簿開示が請求され元となった領収書を見せる必要があるんですが、そこでついでに除外した領収書を渡せば「ちゃんと分けてます」というアピールが出来、信頼感に繋がります。

実際調査に入られる確率は、法人なら約3%、個人なら約1%とかなり少ないんですが、金額面で右肩上がりが目立つ方はターゲットにされやすいと思います。特にこれからは配信業の方に矛先が向くかもしれません。また売上が常識範囲内の場合は多少申告内容が間違えててもスルーされることは多いですが、売上がそんなに多くなくても、経費が急に跳ね上がったりしたら調査リスクは高くなります。

ただ、いくら気を付けていてもふとしたきっかけで売上や経費が大きく増える方もいらっしゃると思います。なので、申告書を作る段階で後ろ暗いことをしないこと。そうすれば調査に入られてもさほど心配する必要はありません。


喉のメンテナンスは「経費」でOK

基本的に10万円を超えないと医療費控除には該当しません。しかし医療費といっても、ナレーターさんだったら喉が命ですよね。だから喉や身体が悪くなくてもメンテナンスのために定期検査に通う必要があると思います。これは医療費ではなく、経費の一部になると思います。

芸能人の方はホワイトニングも経費にする方もいらっしゃいますが、歯並びも滑舌に影響を与えるのであれば経費になります。同じ考え方で、のど飴やネックウォーマーも、喉を保護するためのグッズなら経費と考えて良いと思います。


高額備品を購入したら「減価償却」

コロナ禍で宅録をするために、マイクや録音ブース等設備を購入した方が多いです。他にも、録音スペースを作るために内装修繕を行なったり、スペックの高い配信用のパソコンなどを購入したりした方も。

そういった高額の買い物をした場合は「減価償却」を用い、かかった費用を一定期間に分割・配分し、会計処理をします。白色だと限度額は10万円ですが、青色だと30万円まで経費にできます。

減価償却は資産の種類によって「○年間で償却されます」というルールが細かく設定されていますが、その表が国税庁で作られたのは数十年前・・・最近のものに対応していないケースがしばしばあるんです。その場合、私たちは理屈を考えて一番近いものに設定しています。例えば内装改善の場合は「建物」と、持ち運びできる防音スペースなら「可動間仕切り」の仲間と、無理矢理考えています(笑)

ご自身で調べても「該当なし」では分からないままだと思うので、そういった業界に精通した情報やノウハウを集められる、というのが当社ならではの強みだと思っています。

源泉徴収が引かれない場合は自分から要請!

源泉徴収って、職種ごとにいくら徴収されるかが細分化され決まっています。原則は「そこに該当していたら引きましょう」。ですがそれも数十年前に作られたルールなので、規則に列挙されていない職業も今は存在するんです。例えばIT関係の職業はほぼ記載がありません。

本来ルールに書いてない職業なら源泉徴収しなくていいんですけど、雇い主側が「念の為引いておいてほしい」と考える場合はその判断に準拠します。最終的にお互いの帳簿でプラスマイナスが合うはずなので、先に引いておいても問題はないんです。ちゃんとルールはあるんですけど、ルールから外れてる場合は多少相手の意向に沿う部分があります。

ですが、声優さんやナレーターさんなどの芸能関係はルールに該当する職業。ほぼ100%源泉徴収を引かないといけないです。

もしルールに該当する職業の人が源泉徴収を引かないと、罰せられるのは引かなかった側(報酬を支払う側)で、割り増しでの支払いを求められる可能性もあります。なので、何であっても引いた方が安全っていうのはあるんですけど…もし請求する時に源泉徴収がなかったら「このルールのここに該当するので、源泉徴収してください」と相手に伝えた方がいいでしょう。


プライベートと仕事でどちらも使っている場合、費用の分け方は?

スマホ代や家賃など、プライベートとお仕事の両方に使っている費用の分け方として、一番よくあるのが50%、半々です。

ですが計算を分かりやすくするために、例えば携帯を2台持っちゃうのも手です。銀行口座はそもそも分けなきゃいけないんですけど。分けなかったからといってどうこう、という話でもないんです。でも、プライベートが混ざりそうなものについては全てふたつ用意すると分かりやすいと思います。

家賃については、仕事で占める面積割合を考えるのが一番説得力につながります。仕事をするためのデスク、資料置き場などの部屋面積と全体の広さとを比較する方法です。それが曖昧な場合はやはり50%がベターです。50以上になると、ちょっと怖いです(笑)何か調査で言われた時に50以上になる根拠が出せないんですよね。これはあくまで一人暮らしの場合なので、ご家族と同居されている場合はその人数で割った残りの、さらに一部分となるはずです。

フリーランスで家は買えるか

最近、フリーランスで家を買うお客さまが多いです。正直ローンの審査は金融会社さんの仕事で、当社でのサポートは難しい分野。しかし過年度分の資料や、クライアントにちゃんと収入や資産がありお金が回収できる可能性が高いことを証明する書類の用意であれば行っています。

仮に、「家を買いたいんですが、こういう候補があります。どうですか?」と相談された場合。さらにすごいお金を持っている方から「一括で買った方がいいですか?ローン組んだ方がいいですか?」とお話しをいただいた場合。ひと昔前だと住宅ローンを組んだ方が控除の関係から得になることがよくありましたので、その簡単なシミュレーションなどを行うこともありました。あとは税務的な面で、住宅ローン控除に該当する物件かどうかのチェックをさせていただくことも。

色々な業界の方からご相談いただくので、例えば「法人用に口座開設したいけど、あの銀行は断られました」という事例もある。その知見がたまると「この銀行なら審査通りやすいかもしれません」「この銀行なら、うちでこの資料作れば大丈夫でした」など具体的なサポートができます。お金関係は年々審査が厳しくなっているので100%の保証はできかねますが、「他の方だとこれで大丈夫でしたよ」のようなご案内は可能かと思います。



インボイス制度、どう向き合う?

たくさん稼いでない方も対象になる、というのが今までの制度と一番異なる点です。簡単に言うと、これまで売上が1000万円を超えなければ消費税を納める必要はありませんでした。ですが本来消費税というのは、「自分がもらったお金に乗っかる消費税」から「経費として使ったお金に乗っかる消費税」を引いて、残った額を納める、というルールなんです。今までは「売上1000万円を超えない場合は、差額は納めなくてもいいよ」というやり方でしたが、インボイス制度が施行されることによってそれが変わるんです。

仕事を受ける側がインボイス登録をすると、自らを「課税事業者」として「税金を納める人間になります。差額を全部納めます」と宣言することになります。例えば売上の消費税10円、経費の消費税3円なら、差額の7円を税務署に納めます。だからインボイス前は7円手元に残せたけど、この制度が始まったことで手元には0円、一銭も残らなくなります。

しかしインボイス登録をしないと、売上に消費税が含まれなくなるケースが生じます。(これは報酬を支払う側の判断によります。)今回で言うと10円が手元に入ってこないことになります。そこで経費だけ消費税が3円かかると、トータルでは仕事を受ける側がマイナス3円、損することになります。

ただ経過措置が取られるので、最初の数年はちょっとずつ手元に残る金額が減ります。また消費税の納税の計算には簡易課税制度というものがあり、ナレーターや声優などのサービス業の方であれば「売上の消費税の半分を、消費税の経費として控除するよ」というルールになるんです。

インボイス事業者として登録するかしないは個人の自由ですが、雇い主側に「インボイスに登録してない人は消費税払わなくていいです」と通達があるのは確定しています。私が相談された場合は「手元に残るお金はどっちにしろ減りますが、登録すれば傷が浅くすみます」とお伝えすることが多いです。

(インボイス制度について、詳しくは山田会長のYoutubeへ!)


読者の方に向けて


「自分は関係ないものを全部経費にしてるけど大丈夫だよ」なんて甘言を耳にする方も薦める方も、結構いらっしゃいます。でもそれは本当にただ運がいいだけです!一度税務調査に入られたら大変なことになります。税務署の印象が悪いと、NGを出された関係のものが全否認されかねない。「衣装は一度ダメだったので、以降全部ダメです」「何に使ったか言えないようなものは全部ダメです」とか。

だから普段からきちんと証拠書類を残しているかどうかで、税務署の心象は大きく変わります。「信頼できそうだから、この人の言い分を聞いてあげよう」「税を納める姿勢が見えないので、この人の申告内容は疑わしい」などなど。

一度目をつけられると過去の分も遡って総ざらいされ(基本3年のところ悪質さによっては最大7年)、まとめて請求されることもあります。「税金に対して真摯な姿勢で生きてます」という姿勢を見せられるかどうかがすごく大事になりますね。

繰り返しになりますが、お金のことで困ったら街の税理士さんや税務署など、知識のある専門家に相談しましょう。判断がうやむやなまま突っ走るのが一番危ないです。相談先として様々な候補はあると思いますが、もし気が向いたら当社にもご相談いただけるとうれしいです。

お越しになる相談者の方々は「今まで家族に申告をやってもらってました」「実は今まで申告したことなくて…」など、お金の知識が無いお客さまがほとんど。そんな表現者の方々が活躍できる場を税務的な面から整える、というのが当社の理念です。

どなたも初回相談は基本1時間1万円で、もし30分で終わるようなら5000円になります。プランをご契約いただく予定がなくても大丈夫なので、お悩みにしっかりお答えできればと思います。ぜひ気軽にご相談いただきたいです。


これからも「HITOCOE」ではナレーターに特化した上質な記事を連載予定です。今回の記事を気に入っていただけたら、スキやフォロー、サポート(投げ銭)を頂けると幸いです。いただいたサポートは、今後の活動費として役立たせていただきます!



芸能文化税理士法人

芸能界・興行界・出版界などの業界実務に特化した税理士法人。事務所創立から現在までで役者・作家などの確定申告を1600件以上手掛ける。どの芸能事務所にも属していない独立性の高い団体なので、所属事務所に情報が漏れることもない。東京都渋谷区渋谷1丁目にオフィスを構え、1時間圏内であれば芸能事務所やテレビ局控室でも出張面接を行う。初回相談は30分5000円〜。

ライター・日良方かな(ひらかた・かな)

都内FMラジオ局&Voicy「毎日新聞ニュース」「オーディオブログ」パーソナリティー。令和感のある柔らかい読みが特徴で、大手時計メーカー・ハンバーガーショップ・焼肉チェーンなど実績多数。ハンドメイド大好き!なポッドキャストも配信中。

○ホームページ:「ナレーター 日良方かな」
○Twitter:@hirakata_kana
○ポッドキャスト:「日良方かなのハンドメイド工房」

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