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【実話怪談】カカシもどきの四辻

清水さんの家の近所に、交通事故の多発する四辻があった。
信号のない農道と国道の交差点で、見晴らしが良くて交通量が少ない分、ついスピードを出してしまった車同士が出会い頭に衝突……という事故が相次いでいたのだ。田んぼに突っ込んで悲惨なことになった車を、清水さんも何度か目撃していた。

ある時、その四辻の一角に奇妙なカカシのようなものが立てられたという。成人男性の身長ほど――170センチくらいの竹を十字架のように交差させて縛り、その上から麻の浴衣のようなものが「着せられて」いた。
近所の人によれば、夜の十一時も過ぎた頃にトラックで運ばれてきて、スーツ姿の若い男が立てて行ったらしい。怪しく思って声をかけると、「交通安全協会からの委託でしてね、交通事故の多い場所に立てて回ってるんです」「これで事故が起こらなくなりますよ」とニコニコ笑っていたそうだ。遠目なら人が渡ろうとしているように見えて、スピードを落とすという理屈なのだろうか。
こんなもんで事故が減るのかねぇ――みすぼらしいカカシもどきを、清水さんは訝しく見ていたそうだ。

だが、それから半年に一度は大なり小なり起きていた事故が、ぴたりと起こらなくなったという。
二年ほど経ち、「そういえば今年は一度も事故がなかったね」と気づいて、清水さんたちは確かに効果があったらしいと感じ入った。

カカシもどきがすっかり町の風景に馴染んだ頃。ある夜、清水さんは遠方への用事の帰りで車を走らせていた。
例の四辻に通りかかると――トラックが停まっていて、スーツの男がカカシもどきを荷台に積みこんでいるところだった。
車を止め、声をかける。「そのカカシ、撤去しちゃうんですか?」
すると、男はニコニコと笑ってこう言った。
「ええ。もう十分溜まりましたのでね」
十分溜まった?
意味が分からず、聞き返そうとしたが男はトラックに乗り込み、そのまま行ってしまった。夜の農道にひとり取り残されて、清水さんはそこで急に、何か気味の悪いことを言われた気がして怖くなったという。
翌日、清水さんは県の交通安全協会に問い合わせてみた。
「カカシ? うちではそういったものは扱ってないですね」
そう言われてしまったそうだ。

カカシもどきが撤去されて一か月も経たずに、その四辻では一人が亡くなる大きな事故が起きたという。

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