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【実話怪談】人相写真

愛美さんが小学3年生の頃というので、15年前のことになる。

少女時代は活発で、学校が終わると、家の近い同級生たちと連れ立って近所の大きな公園でドロケイなどして遊んでいたという。
その日は、4歳になる愛美さんの妹も一緒だった。公園を駆け回っていると、知らないおじさんに声をかけられた。

「写真を撮らせてもらえないかな?」

年恰好は四十そこそこくらい、スーツにネクタイを締めた長身の男性で、大きな一眼レフカメラを抱えるように持っていた。
おじさんは愛美さんたちを集めると、提げていた肩掛け鞄から大判の本を取り出して開いてみせた。確か題は『百人相図録』とあったそうだ。

「人相学と言ってね、顔を見たらその人がどんな運勢なのか分かるんだ」

本には1ページあたり20人ほどの顔が並んでいて、見開きの上部に「金運之相」と書いてある。卒業アルバムのクラス写真みたいだったと愛美さんは言う。

「このページはお金持ちになれる相が出てる顔。ページごとに似た運勢を持っている顔をまとめてるんだ。こっちは勝負ごとに強い相、長生きできる長寿の相なんてのもある」

この本の二巻目をつくることになって、モデルを探しているのだという。
おじさんは、遊んでいたメンバーから3人、指名した。愛美さんは選ばれなかったが、妹は入っていた。

「君たちはとっても幸せな相が出てる。これは神様に愛されている人の人相なんだよ」

そんな風に言われて写真を撮られて、妹たちは満更でもなさそうだったという。愛美さんも羨ましく思ったそうだ。

そんな昔の記憶をふと思い出したのは、高1の夏、写真を撮られたひとりのMさんの葬儀に出た時だった。
塾帰りの交通事故死。幸せな人相だって言われたのにな……一緒にモデルに選ばれていたKくんが隣でぼやくように言ったのを聞き、幼い頃からの思い出が一気に去来して涙が溢れてきた。
そのKくんも、大学に進んだ19歳の秋に死んだ。原因不明の自殺で、はたちの誕生日の、4日前だった。周囲の様々な人が様々なことを言ったが、愛美さんはある疑いを抱いていた。

あのおじさんが集めていた人相は、「長生きできない相」だったんじゃないか。

愛美さんはずっと、Kくんたちの写真が載っているはずの『百人相図録』の二巻を探しているが、まったく情報が出てこないという。
妹さんには話したことはない。

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