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【実話怪談】凶相の家

不動産管理会社の営業をしている烏森さんは占いに凝っていて、クライアントとの話のタネに時折、披露することがあってなかなか好評だという。
得意なのは手相占いなのだが、懇意の家主さんから「家の運気なんかは見られないの?」と訊かれたことをきっかけにいわゆる家相学も勉強するようになったらしい。
「これが面白くてさ。占いってある程度は統計だから、意外に理屈が通ってるもんなんだよ」
例えば「鬼門」の考え方。北東に水回りを置かない方が良いというのだが烏森さんに言わせれば、
「家の北側は夏にはジメジメして物にカビが生えやすかったりするから台所を置くには不向きだし、逆に冬は寒くて居間との寒暖差が激しくなるから、ただでさえ心筋梗塞が起こりやすい風呂場やトイレは置かない方が良い。こう見立てたら合理的だろ?」
こんな具合だ。
……ただ、中には「なんでこの配置だと凶なんだ?」の理由が今一つ分からないものもやはりあるのだそうで、しかも会社で管理している「人が居着かない物件」「過去に事故があった物件」の間取りを見ると、確かにそうした凶相と合致するものが少なくないのだという。

その日、訪ねてきたクライアントが雑談ついでに見せてくれた図面も、そんな「凶相の家」だった。ただし、まだ建ってはいない。
父親が金を出して建ててくれるという新居の見取り図。彼の父は地元の大きなパチンコ屋の社長で、市内に何軒もアパートやマンションを持っていた。
――学生時代からずっと付き合ってる彼女と晴れて結婚するんです。で、共通の友達が建築士をやってて、タダで設計を請け負ってくれたんですよ。
御曹司はホクホク顔でそう言った。そして、何か気になるところがあったら教えてくれと水を向けられたので、烏森さんは「良い家だと思いますよ」とお追従は忘れずに、一般に良くないとされるポイントを何カ所か教えてあげた。
思えば少々不自然なくらい、その図面には「良くない」ところがいくつもあった。

一週間ほど経った夜のことだ。
会社で独り残業していると、外線が鳴った。とっくに終業時間だぞ……と思いながら出て電話口で名乗ると、知らない男の押し殺した声で一言、

「邪魔すんなよ」

とだけ言われて切れたそうだ。
間違い電話かもしれないし、会社とトラブルになった相手かもしれない。
ただ――烏森さんはなんとなく、電話の主はあの御曹司の友人の建築士だったんじゃないかと思っている。

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